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ネコを拾ったら魔族になったったオハナシ 〜ネコと一緒のスローライフ〜  作者: とんじる


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7.アスマの過去②

 北方諸国を巡ること30年、アスマは傭兵やら冒険者やら様々な仕事を経験をし、小国の騎士団に所属するまでとなった。人族の国の騎士団である。亜人族である獣人が騎士団には何人かいたが魔族はアスマが初めてだった。アスマの場合は魔族と人族のハーフであるが、それでも前例のない事であり、受け入れられたのには次のような経緯があった。


◇


 魔物、特に獣系の魔物はごく稀に群れをなして暴走することがある。単独の種ではなく、近縁の複数の種が群れることもある。ノヴォルザーク王国で起こったそれはガルフォーンの群れから始まった。刺激された同系列の群れも暴走しはじめ、その数、約300頭。中には上位種のガルドフォーンも含まれていた。蹂躙された村が1つ、街が2つ。暴走は止まらず、ノヴォルザーク城周辺住民の多くは城に避難した。


 発生から3日、群れは城を標的としたようで、砂煙を上げながら城壁に突進を繰り返した。

 

 「城に籠り群れが散るのを待つ。避難民は全員城内へ受け入れよ。魔法が使える者、弓矢が使える者、どちらも使えない者は石礫を。国民総員で当たる!」


 ノヴォルザーク王が宣言し、城内の士気は大いに上がった。しかし、昼夜問わずの突進に兵も民も疲弊し、このまま続けば群れが城内に侵入するのは時間の問題であった。城内の矢もつき、魔法を使える者も魔力が枯渇しかかっていた。


 群れる事でバフがかかる効果が獣系の暴走では起こり得る。今回は同系列の魔物が群れをなしており飛躍的に魔法耐性、防御力が上がっていたのだ。矢も魔法も効果が薄かった。群れには僅かばかりの損害しか出ていない。


◇


 群れの襲撃から4日目の朝、城内に諦めにも似た雰囲気が漂いはじめたとき、城に単騎、向かってくる者がいた。遠目に見ても正規兵のような鎧をつけておらず、明らかに軽装備だった。群れに見つかったらたちまち踏み潰されてしまうだろう。城壁の上の兵から「引き返せ!」と悲鳴のような叫びが上がった。中には涙を流しながらジェスチャーを送るものもいる。左右に大きく蛇行しながら群れとの距離は縮まってゆく。


 痩せこけた馬に乗りゆっくりと近づいてきたのは、アスマである。馬に乗ってるアスマが大きすぎるからか、馬は余計貧相にみえた。冒険者ギルドからの依頼でアスマは運搬の仕事を請け負っていた。群れに襲われて壊滅的な被害を受けた街のひとつに立ち寄った時、群れが城に向かったことを知ったのだ。街を出て、身体は自然とノヴォルザーク城の方向へ向かって行った。よい方策がある訳ではないが、祖父が行けと言っている気がした。


 群れの一部がアスマの存在に気付いた時、彼は馬の背から何かを取り出して空中に撒いた。今回の依頼品の一部である。国々を行き来する中で、魔法の使えない者が魔物に対抗するための素材を集めるようになった。特に人族のアイディアは大いに参考にした。アスマは魔法が全く使えない訳ではない。ただ、不得意な魔法の代わりになってくれるものがあれば、使わない手はないと考えるようになった。魔法に拘りのある魔族としては異質だろうが、アスマには人族の母の血も流れている。


 様々な効果がある素材は戦闘のあり方を大きく変えることがある。北側諸国の森林地帯ではブラッドウルフの群れやヌベグマに対してそれを道具として使用していた。アスマも実戦では初めて使用したが、結果として想像以上の効果をもたらすことになった。


 群れの様子がおかしい。しばらくすると、群れは城壁ではなく他の個体に角を振り上げ、突進したりするようになった。頭を左右に必死に振る個体もいる。混乱状態が起こっていた。アスマは土魔法で群れの周囲に土壁を張り巡らせた。群れは恐慌状態となり、土壁や他の魔物に突進をしてみせている。アスマは腰から鉈のような形状の武器をとり、土壁の上にふわりと飛び乗った。大きな身体が羽衣のように浮いたのを城の者達は見た。男は群れの角を叩き落としはじめた。男が頭部を叩くとおもしろいようにガルフォーンの角が落ちてゆく。城の者達は喝采した。角を落とされた個体はおとなしくなり、やがて、群れは散り散りになっていった。


 魔法のようなという表現はこの世界には似つかわしくないだろう。しかし、ノボォルザークの人々の感動は伝わると思う。亀のように耐えて群れが諦めるのを待つだけの状況をたった1人の魔族がひっくり返したのである。


 ガルフォーンは鼻の良い魔物である。地面の下にある好物のキノコ類を鼻で嗅ぎつけ掘り出して食べるのだ。アスマが振り撒いたのはカラシ粉である。風向きを考慮して風上から風下のガルフォーン達にたっぷりと馳走したことになる。アスマは、嗅覚に優れたガルフォーンにも必ず効果があると考えたのだ。フォーンのカラシ揚げがノヴォルザークの名物になったのはまた別の話。


◇


 こうして救国の英雄・アスマは騎士団の一員として迎えられた。国王から国民に至るまで反対する者は1人もいなかった。アスマは慣れない宮廷での礼儀作法に苦戦したが、周囲はみな、優しかった。10年後、騎士団の仲間達の推薦で騎士団長となった。更に10年、後進に道を譲る形で騎士団を去り、アスマは再び放浪の旅にでた。


 数十年旅を続けたが、己の理想とする強く誇り高い魔族になれているかアスマは分からなかった。また、故郷を襲った竜の手がかりすら見つからなかった。竜を倒すなど、大それたことを考えた訳ではない。竜は天災。祖父も父も運が悪かったと思う。ただ、家族の人生に大きな影響を与えた存在である竜をこの目で見てみたかった。見たら戦ってみようと思うのだろうか。北方諸国ではアスマの生まれる前の目撃情報や伝説の類いしか残っておらず、近年の竜に関する新たな情報はなかった。ハーフとはいえ、魔族の寿命は長い。アスマは北方諸国での探索を打ち切り、隠れ里経由で東の海を渡ることにした。海を越えれば魔王の住む島があるという。島の北側はまた別の大陸が広がっている。アスマは初めて大陸を離れ東へ向かうことにした。

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