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ネコを拾ったら魔族になったったオハナシ 〜ネコと一緒のスローライフ〜  作者: とんじる


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41.魔王の過去編⑤

 盗んだことは『夜霧の党』と変わらないのに、ゲルトハルトの住民達は『夜霧』に対してプラスの感情を持った。宝か生命か、どちらが重いかは、幾ら生命が軽い時代に生きる人々でも理解できる。先日の立札の取替の件から、『夜霧』が正義で、国や市の役人達は悪なのである。街の人々は『夜霧』は濡れ衣を着せられていたのでは、と疑念を抱いていたし、本当に恐ろしいのは、『夜霧の党』の方だと考えていた。


 ◇


 国と市の役人達は、市長が殺されたことで、翌日、ようやく動きをみせた。三人はクロスの部屋に集合し顔をくっつけるようにして話している。


「今朝、会議で浄化作戦が決まった。商家街と港を封鎖する。発案者はルンゲ=クロプト、実行部隊はトウジロウ=ヤジマと配下の見廻隊。今夜から戒厳令が敷かれ、外出禁止となる。目的は住民の調査と確認だ」


「クロス殿、調査•確認とは……」


「前回の立札の件と今回の市長の件、どちらも霧に紛れて行われた犯行だ。以前より魔族が絡んでいると思われたが、霧に姿を変えるスキルを持つ吸血鬼なら可能だろう。奴らは今もこの街の何処かで次の機会を待っていると考えたのだ。住民を徹底的に調べる」


「この街にいるという確証もないのにか」


「グリバート殿、国も市の役人達も、次は自分だと思ってる。プライドの高い魔族が『夜霧』のメンバーにいれば、このままでは済むまい。更なる復讐、仕返しを行うのではないかな。私そう思う」


「我らは蚊帳の外……調査の役には立ちませんな」


「ギラフ殿……我らは、奴らが抵抗した場合の戦力として、庁舎に待機だそうだ。商家街も港も目と鼻の先だしな」


 フンっと鼻を鳴らしたのはグリバートだった。


「それにしても、電光石火だな。今日の今日とは」


「情報が漏れるのを恐れているのでしょう」


「案外、肝っ玉の小さい奴らだ……」


 グリバート言葉にクロスとギラフは苦笑して、目を合わせた。グリバートがそうと決まれば腹ごしらえだと、こうるさく2人を階下の食堂へ急かす。


「腹が減っては戦はできぬからな。フハハハッ……」


 グリバートの明るい笑い声が響いた。事件がやっと動きはじめたのだ。


 ◇


 封鎖は夜ではなく、昼からはじめられた。商家街•港に近づく者まで対象は広げられた。夕方には、国軍からの応援部隊も運ばれてきた。軍用犬もいる。朝、会議で決めた形ではあるが、周到な準備を以前からしていたのは明白だった。


「クロス殿、してやられましたな。以前より、決まっていなければ、この動きは出来ぬ」


「そうですな。我らは待機するだけになりそうですな。この人数、この陣容を見て、真正面から対峙するほど馬鹿ではないでしょう」


 ギラフへの言葉に、クロスは自分も『夜霧』の肩を持つようになったかと思った。だが、その口許はゆるんでいる。


 ◇


 夜になっても街は昼のように照らされている。灯火の魔法だが、こんなに大規模なものは初めてだ。路地の隅まで、昼間よりも明るく照らされ、警備の目を欺くなど出来ないように思えた。


 見廻隊の数人が家に来た。アモンは自宅から出て尋問すると宣言を受け、素直に従った。隊士の一人がアモンに近づき問うた。アモンはボソボソとした声で答えた。


「貴様、魔族だな。今、種族値を……」


「吸血鬼だ」


「何だと」


 近づいた隊士が呆気に取られた。


「……お探しの吸血鬼だと言っている」


 アモンが両手を上げた時、港の方角で、爆音と共に火柱が上がった。


 ドンッ   ドンッ   ドンッ


 続いて商家街でも爆発音と共に火柱が上がり、空をさらに赤く焦がした。


「何ごとが起こった!」


 アモンの側にいた隊士を一人残し、他の隊士は、通りの方へ飛んでゆく。アモンは不適に微笑んだ。

 

「あら、2人きりだなぁ……」


 声を聞いた瞬間、隊士の首は落ちていた。アモンはごく自然にいつものように通りへ出た。独り散歩に出かけるような自然体だ。家を出ると辺りは騒然として、目の前を見廻隊士達が駆けてゆく。アモンの周りだけゆっくりと時間が流れてるような光景だった。木戸の見張りの隊士達に声をかける。


「やあ、随分と騒がしいな」


 落ち着き払った態度に隊士はそのまま木戸を通してしまった。木戸を出てゆっくり歩く男の後ろ姿を見て、しばらくしてようやく隊士はアモンを止めに入った。


「待て 待て 待てぃ!」


 アモンの肩を掴もうとした隊士の視線がゆっくりと左にずれる。隊士は袈裟斬りに斬られ絶命した。アモンの爪が鋭く長く伸びて、ギラリと光った。他の隊士が殺到したが、2人が倒された。残された隊士達は後退りしたが、武器を構えて、残った5人で隊伍を組みジリジリとアモンに歩み寄った。アモンは顔色ひとつ変えずに突っ立っている。アモンの視線は隊士達の後ろの木戸にある。ドワーフの男が独り立っていた。


「いやぁ、間に合ったわい……」


 重装備の紅い甲冑、六角形の紅の棒を持った男がこちらへノシノシと歩いて来る。身体も手足も太い。そんな印象の男だ。


◇


「おまえさんたち、ここからは大人の時間じゃ。控えてみておれ」


 歴戦の隊士達だったが、その男の言葉には、有無を言わさぬ重みと響きがあった。強者を知る……この世界ではその能力も大切だった。隊士たちは目の前に来た冒険者風の男が自分たちより遥かに強いことを見抜いた。隊士たちの身体が自然と動き道を開けた。男はアモンの目の前に立った。


「……グリバートだ。参る」


 名乗り終わった瞬間、紅い棒がアモンを襲った。それまでのゆっくりとした動作から雷のようなスピード、頭上で両手を交差する形で棒を爪で受けた。そのままの姿勢でグリバートが力を籠めるとアモンの足下が沈む。膠着して約2秒、アモンはなんとか爪で押し返して背後へ跳んだ。


 距離を取ったはずだったが、グリバートは重鈍な見かけによらず、一気に間を詰めてきた。突きが三度アモンの顔の横を掠った。まともに喰らえば終わっていたかもしれない。ひとつひとつの突きが重く、よく練り上げられた魔力が籠っている。


 グリバートが、右手で大きく棒をつかう。上へ跳んだアモンをまた突きが襲った。棒を滑るような形でグリバートに一撃を加えたか……にみえたが、グリバートも横に滑るような速さで避けていた。


 両者とも息が荒くなっている。棒を構え直したグリバートがふと気づく、


「お主、笑っておるな。……この状況で笑えるとは」


 アモンはその言葉に手の甲で己の顔を触れてみる。口角が上がっている。アモンは自分が笑っていたことを知って、ひどく愉快な気持ちになった。


◇


 木戸の中はさわがしい。爆発音との後は灯火の魔法は途切れ、悲鳴が上がっている。街の人々も家から出てきて木戸の外へ逃げようとしている。港か山手の北か東へ向かおうとした。


 街の中で暗躍しているのは『夜霧』のメンバーで、空家を激しく燃やしたりしている。爆発音が響く度、市民の群れは大きな悲鳴を上げ、ほとんど衝動的に木戸の外を目指した。


◇


 サイラスはその流れに乗って逃げ出そうとしたが、ひょろりとした細身の中年男にとめられた。


「貴殿は魔族だな。まさか、吸血鬼じゃないよね?」


 サイラスは無造作に声の主を爪で攻撃した。無造作に躱される。


「私はギラフ。よろしく」  


 優しい声で使ってきたのは魔法剣だ。炎を纏っている。サイラスは感心した。


「人族ぶぜいが、魔法剣を使うかよ。しかも、かなりの腕だな」


 そう言った後、サイラスは着ていた白いシャツを脱ぎ捨てた。炎の剣で焼けると面倒だ。ギラフと名乗った剣士は斬りつけてこなかった。


「サイラスと言う。お目当ての吸血鬼だ。やるかい?」


「……ああ。よろしく頼む」


 サイラスは己の爪を小剣のように伸ばしてグリバードを捉えようとしたが、僅かの差でグリバードは躱してゆく。この男は、吸血鬼より捉えどころがないな。サイラスは苦笑いだ。他の仲間が騒ぎを大きくしてくれている。あちこちでまだ爆破・炎上は続いている。サイラスは細かい火系魔法を撃って距離をとると、右手を振りかぶり手を振り抜いた。ギラフが剣をかざすと金属音が響いた。斬撃を飛ばすか。


 ギラフは胸に湧き上がる感情に気がついた。久しぶりの感覚、喜びだった。自分の力を思い切りぶつけられる男が目の前にいるのだ。

 


 


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