40.魔王の過去編③
『夜霧』と『夜霧の党』、2つの組織は別であるという推測は出たものの、これからどうすればいいのか、相変わらず霧の中か……。
クロスは庁舎までの道を歩きながら考えるている。
(警備をこのままにしていても、奴らは動きを見せないかもしれない。警備をゆるめれば、また襲われる者がいるかもしれない。警備方針を決めないと……。上層部が何を考えているのか、推測ではあれ、2人と調査検討した説をぶつけてみるか。あまりいい反応は無さそうだが……)
◇
庁舎に着くと、ルンゲと1人の配下がまだ残っていた。
「クロス殿も精が出ますな。現場にも何度もおいでなされたとか。」
この街に国から派遣されてきたもう一人、ルンゲ=クロプト。言葉ではクロスを労いながらも、目は笑っていない。冷たい目だった。
「ルンゲ殿こそ、こんなに遅くまで。私は今まで冒険者達と意見をぶつけ合ってきたところです。今後の警備をどうしてゆくか、上層部は何か言ってきましたか?」
「夜中の見廻の隊を作り、街の商家街、港に配置すべしと、先程通知がきましてな。クロス殿はどう思われますか?」
「街の者は安心しますな。しかし、萎縮もする。貴族達の出先機関にはどう対応しますか。また、肝心の『夜霧の党』への対策になるだろうか」
国としてもこの街の治安は気になるところではある。それはクロスにも理解できた。しかし、今まで街の者に任せきりだったのが、急に表に出てきた感はある。税収の上がるこの街への影響力、支配力を強めたいのが本音だろう。
「街の者については、おっしゃる通りでしょう。しかし、いずれ慣れる。商家と街には警察機能を持った施設と人員が必要でしょう。街の者も、それが当たり前にあるものになれば、受け入れるでしょう。貴族達は面子もありますから、自分達である程度は。彼らが対応できないのであれば、助ければいいのです。『夜霧の党』とやらも仕事はできなくなるでしょう。出てきたら我らが捕縛する。」
ルンゲの言うことはもっともだった。が、国の上層部は、この件を利用して、なし崩し的にこの街における支配力を高めようとしている意図が透けて見える。『夜霧の党』の捕縛に対しては消極的にも思えた。死人が出ているのにだ。もっとも、この猟犬のように国に従順な男は、そこを問題にはしないだろう。
クロスは、何となく『夜霧』と『夜霧の党』の話はまだしない方が良い気がした。もう少し積極的な対策を求めた方が良いとルンゲに伝えた。
◇
ルンゲと別れ、宿舎に帰ろうとした時に、クロスは1人の男を紹介された。
「クロス殿、トウジロウ=ヤジマだ。ウチの副隊長だ。先程の通知を持ってきた。彼が街の警備隊の頭となる。王の射手としては、コイツが抜けるのは大打撃だが、仕方ない。ウチの隊士にしては、珍しく剣術使いだが、中々、やる」
紹介された男は細い眼をした痩せた男だ。腰には少し反りのある珍しい形の剣を差している。
「クロス=プリーストです。よろしくお願いします」
「トウジロウ=ヤジマです。よろしくお願いします」
「トウジロウ殿は、いつまで王都に?3日前です。此方へは午後に着きました」
「海から河を遡るのははじめてです」
「私も初めて乗った時は驚きました。王都から河を下って海を丸一日、更に河を遡る。波の無い河の方が楽でした」
クロスは船に今回、船乗って船酔いというものを経験した。しなくてもいい経験もあるものだと思った。
当たり障りのない話をして、別れた。ルンゲと同じ目をしていたのが印象に残った。トウジロウは古傷でもあるのかあるいは、クセか、多少重心が偏ったような歩き方をしてルンゲと去って行った。二人を見送りクロスも自室へ戻った。
◇
翌朝、ギラフとグリバードに国都からの伝達内容を話した。警備が恒常化するのは、長期的にみれば良いことだろう。しかし、盗賊たちに対しての受け身な姿勢がみてとれた。2人は面白くない顔をしている。グリバートの顔が赤い。
「クロス殿、警備の者を街に置いて、ヤツらが動かなくなったらどうするんだ。死人が出ているんだぞ」
ギラフがグリバートより先に発言した。グリバートは少し落ち着いた様子で言った。
「どうも、この国の上の方々からは、盗賊たちを捕まえようとする意思が伝わってこないな」
「おふたりの、言われる通りだ。何故か、出たら叩く……という話になっている。対策の詳細が出てないが、我らができるのは、情報収集とこれまでの事件現場周りぐらいだ」
「いつ正式に警備体制が整うんだ」
「来週辺りということだ。日までは分からん」
◇
異変は起こった。5日後、やってきたのは、警備の軍人だけでなかった。一緒に工兵が多くやってきた。むしろ、工兵の方が多いくらいだ。
工兵は商家街と港の周囲に木材を運び込み、木戸を作りはじめた。通りは木戸によって封鎖されることになる。貴族の館は外れていたが、彼らにはプライドがある。自分達で防衛するだろう。市民は多少の動揺があったが、歓迎ムードだ。
木戸は通りの入り口出口に取り付けられ、中の住人は木戸に配置された警備隊のチェックを受ける。昼は数人だが、夜は人数が増え、さらに木戸の中を巡回する隊もいるみたいだ。
勿論、木戸を飛び越えることができる者もいるだろうが、目立つから見つかるだろう。建物の壁を壊して入る者も音で見つかるだろうから、シンプルながら、いい方法だ。木戸のない、他の地域の住民も対策が講じられたことにホッとしている者も多いだろう。船ひとつ、丸ごと乗組員が惨殺されているのだ。
◇
夜鳥が鳴いている。こんな日はこの街に霧が出る。サイラスがかけた招集に応じたメンバーは、アモン以外は3人だけだった。
「5人だけか……、木戸をみてきたけど、あれは中々やりにくいな」
「かなりの人数使ってるね。最近、戦争もないから国軍もヒマみたいよ。だから、この街の警備に軍人を割ける」
「調べによると、木戸の管理も交代制らしい。聴いたハナシだが、夜に重点を置いた警備のようだ。夜だけで三交代制だとよ。しかも、夜は木戸の中にも巡察隊がいる。隊の人数は1組10人、木戸にも隊にも経験積んだ人族が配置されている」
「何にしても、木戸の突破は無理だろう」
サイラスが細かい配置を説明する。サイラスは大雑把に見えて、こういう下調べが細かい。その夜は情報交換のみに終始した。サイラスは調査を続ける。一方、貴族の館は街に点在しているが、そちらも警備は厳しくなってきている。新たな警備人員を貴族たちも雇ったようだった。
◇
その夜、街の外れにある貴族の屋敷が襲撃された。館の者は全員死亡。現場には、『夜霧の党』のカードが数枚落ちていた。




