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ネコを拾ったら魔族になったったオハナシ 〜ネコと一緒のスローライフ〜  作者: とんじる


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39.魔王の過去編②

――ゲルトハルト 潮騒亭にて――


 大きな赤魚の香草焼きは殆ど骨だけになっている。ゲルトハルトは商業都市として有名だが、海鮮料理が名物だ。この店は3階建の建物で、1階を一般客、2階を個室、3階はいわゆる、VIP席だ。ギラフもグリバードも3階は初めてだ。


 クロスは『夜霧の党』の起こしてきた事件を細かく聴いてきた。おそらく、既に内容は知っているだろう。1つでも新しい情報がないか、細かいところまでクロスは突っ込んできた。もっとも、グリバートがコケにされた件以外に二人に接点はない。

 

「それでは、『夜霧の党』のはっきりとした規模は分かりませんね。しかし、そのうち、実行部隊は10人程度なのは分かりました。目撃情報や足跡から割り出してます。大人数で動けば目立つということもあるでしょうが。仕事はいつも真夜中ですな。」


「クロス殿に言うのもおかしな話だが、魔法は無詠唱で使っているらしい。よっぽどの手練れか魔族かもしれん。」

 

 そう言って、グリバートが二枚貝のワイン蒸しを1つ摘んだ。大分酒がまわってきている。そんな眼をしている。


「ほう、奴らの使う魔法の属性などもギラフ殿は調査されたのですか。」


 グリバートは見かけによらず下準備を怠らない男だ。魔物が相手なら出現場所の地形、魔物の習性や攻撃手法を頭に入れて、狩る。ターゲットが幾ら弱い相手でも、何度も倒した相手でもおさらいをするのだ。長い冒険者としての日々がグリバートにそれをさせている。


 今回も、グリバートは被害者に細かなことまで聴いていた。ギラフは隣でそれを聴いていただけだ。クロスはグリバートの話を感心しながら聴き、酒が進んでグリバートの言動が怪しくなると、ギラフが説明した。グリバートは、ギラフの顔を見て、よく知っていると、何度も感嘆の声を上げ、その度に酒を煽った。聴き取りを行なった時、一緒に動いたのだが……。グリバートの記憶は酒が入ると何処かに旅に出るらしい。やっと、静かになったと思ったら、いびきをかいている。大柄なドワーフ族の中でも大きい部類に入るだろう身体は椅子にしなだれかかる様な体勢である。


◇


「クロス殿、船の死体を見てどう思った?」


「どう……とは?」


「鮮やかな切り口、得物も腕もそこらに転がってるような代物じゃない」


「……ギラフ殿、死人が出たのは初めてでしたね」


「そうなのです。今まで、死人を出したことはありません。また、グリバートの話にもありましたが、魔法を使っていた目撃証言はあっても、武器を使って脅したという情報はありません」


「確かに。あの遺体の状態からすると恐ろしく切れ味の鋭い武器、剣、それも長剣かなと考えてました。魔法が使われた形跡もありませんでしたね」


「今までと、あまりに違いすぎる。別物と言ってもいい」


「ギラフ殿、実は奪われたのは何だったのか分かっておりません。主に香辛料を、運ぶ船だったそうですが、香辛料には手をつけられてませんでした。香辛料を奪っても先月市場で捌く時に足がつく可能性は高い」

 

「今までは貴族の家宝や父祖伝来の魔導書が奪われてましたな。今回は、目的も分かりませぬ。襲われたトドロス商会については?」


「商売は最近急成長を遂げ、順調そのものだったようです。近年、海の魔物もおとなしいですからな。トラブルも見当たらないようです。似たような状態と規模の商会はリストアップしておきますが……次があるかもしれませんので」


「クロス殿、今回の件、手口が違い過ぎて、同じ組織の仕業とは思えませぬな。奪われたものも分からない。これでは、強盗ではなく、一方的な殺戮が行われただけだ」


 クロスもギラフも黙り込んでしまった。グリバートのいびきだけが室内にこだました。


「今日、我々の他に現場に調査チームが入っています。犯人に繋がる物が出れば良いのですが……。何か分かれば、連絡します」


 グリバートを起こして店を出た。いつもはまだ賑やかな時間だが、街に歩いている人もまばらだ。みな、正体不明の何かに怯えているのだ。


◇


――3日後 ゲルトハルト庁舎――


「すまない、呼び出してしまって」


 クロスは待っていたとばかりに、机の上に小さな紙を2枚差し出した。


「これは……」


 1枚には『夜霧の党』、もう1枚には『夜霧』とだけ書いてある。


「今回撒かれたものと、以前撒かれたもの。この違いに違和感を覚えました。どう思われますか?是非お2人の見解をききたい」


「字も違う、そもそも使っている筆記用具が違うな」


 ギラフは率直に気がついたことを言った。グリバートは腕組みしながら考えていたが、


「クロス殿、奴ら別モンじゃねぇか。考えてみたんだが、今までに奴らが『夜霧の党』を名乗ったことはねぇ。この『夜霧』と書かれた紙を撒いて、トンズラよ。俺が以前、見たことがあるのはこっちだよ」


 グリバートは『夜霧』とだけ書かれた紙を指差した。まんまと騙された翌朝ばら撒かれたカードを思い出す。身体の血が熱くなるのを感じた。


「やはり……。これは、私の考えだが、今回の件は別の者の仕業と思う。誰かはわからぬが」


 クロスの言葉に、ギラフは頷いた。


「もう1つ、現場に残された足跡は1つだけだった。それと、死体の数より靴が一足多い。1つは犯人の物かもしれん」


「犯人は一人、裸足か靴下で乗り込んだってことか?」


 グリバートが身を乗り出してクロスにたずねる。クロスが解説する。


「実は船の前に靴が落ちていた。足跡はそこから船へ。裸足ではないが、親指だけ分かれた不思議な形の靴なのか、靴下なのか……。とにかく、見たことはない形状の足跡だ」


「動機もよく分からないしな。狙いは何だろうな」


 今後の動きについては方向性の見えぬまま、この日は別れた。


◇


 ――アモン診療所――


 カラスが一羽、診療所の窓辺に飛んできた。カラスは開き放しの窓から室内に入り一声鳴いた。アモンは胡桃を1つカラスに咥えさせた。カラスの脚に結ばれている紙切れを解くとカラスは窓から飛び立っていった。


「夜烏の鳴く夜」


 とだけ書いてある。アモンは1人頷く。紙は手の中で青い炎を上げ、燃えはじめた。


 


 


 


 

 


 

 

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