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ネコを拾ったら魔族になったったオハナシ 〜ネコと一緒のスローライフ〜  作者: とんじる


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4.カツ、ネコと暮らす

カツ、猫と暮らす

 ――12月30日 6時 T市郊外――


 外で雄鶏の声が聞こえる。鶏は起き出している気配だ。今朝はいつもより周りの音が聴きとれる気がする。冬のピンと張り詰めた空気だからかもしれない。スエットから子猫を出してベッドの上に乗せると、抗議するように小さく鳴いた。声をきいたのはまだ片手で数えられるほどだ。この子はあまり鳴かない性格なのだろう。


 歯磨きをしようと台所に向かおうとすると、ベッドから、ぴょん!と降り、トテトテ……と後をついてきた。昨夜は敵と見做されていたのに、半日で随分と懐いたものである。僅かの間、俺の歯磨きを見上げていたが、おそるおそる子猫が俺の右足を登り始めた。爪が食い込まないように上手に登って肩にのる。青い服を着たアニメの主人公が猫のような狐のような小動物を肩に乗せていたのを思い出した。頬っぺたに頭を擦り付けてくるのがくすぐったいが、悪くない気分だ。


 ドテラを羽織って鶏小屋にむかう。まだ日が昇る前で辺りは薄暗い。昨夜は雪は降らなかったようだ。冷たい空気に一気に目が覚めた。子猫はスエットの中に収まった。どうしても俺の服の中が好きらしい。鶏小屋の入口でタロウが尻尾を振って待っていてくれた。こんなに寒いのにうれしそうな顔をしてる。タロウの気配を感じたのか子猫はスエットの首元から顔を出して小さく鳴いた。朝の元気勝負はタロウの圧勝のようだ。


 鶏小屋に入り水換えてやる。餌箱の残りを片付けて新しく補充する。今朝のご飯は士郎さんが作った麦と米ぬか等に魚粉を少々混ぜたスペシャルフードである。鶏も賢いもので、朝に俺の姿を見ると急に「コッコッコッコ…」と鳴き、餌箱の前に集まる。いつの頃からか完全にご飯の人になっている。鶏が3歩歩けば忘れるって言うのは間違いだと俺は思った。


 八角形の鶏小屋にはもう枯れてしまった柿の木が真ん中にあり、横に大きく枝を広げている。壁には蓋の無い木箱が取り付けてある。鶏は木に登ると安心するというのが士郎さんの持論で、高い所から周囲を警戒できるのだそうだ。壁に取り付けられた木箱は産卵のためのもので、柿の木伝いに入る鶏も入れば、産卵箱の前に取り付けた止まり木から入るもの鶏もいる。箱の底は傾斜のついた網目になっていて、産卵した卵は転がり木箱の下のスペースに収まるという塩梅。地面の上だと踏んづけるし、せっかくの卵が糞尿まみれでは都合が悪い。何より安心できるスペースで卵を産んでもらえるのだ。鶏はストレスに敏感なんだそう。


 今朝は8つとれた。まずまずの収穫である。毎日卵を頂く代わりに鶏たちへ良い環境を用意してあげなければならない。鶏の数に比べて、広々とした鶏小屋ではあるが、糞の掃除は大変だったりする。柿の木の周辺は特に大変なところだ。単純に掃除がしにくいのだ。毎日の掃除は重労働で士郎さんも元気なうちしか鶏は飼えないとの弁。朝は俺、夕方は瑠璃子さんが卵当番である。こちらは忙しく動いていたが、のんきなもので、子猫は柿の木の上で朝食を終えた雄鶏の横にピタリと並んで目を瞑ってる。真似をしてるみたいでかわいらしい。


 母屋に卵を持って行くと瑠璃子さんが岩海苔入りの玉子焼きと卵雑炊にしてくれた。田上家は、卵が必ず食卓を飾る。2人とも若々しいが、卵効果かも知れないと俺は時々思う。卵は完全食に近いって聞いたことがあるもんな。今朝の付け合わせの赤蕪の漬物は、昨日Y県に行った時に顧客の農家さん達から頂いたものだ。実は瑠璃子さんの妹さんの嫁ぎ先があり、その縁で仕事を貰えたのだ。


◇


 N県からY県に入ると、山に杉の林が多い。この杉を夏に伐採して材木にした後、跡地を焼いて焼畑にする。焼畑に蕪の種を蒔き冬に収穫する。そして、また杉を植える。林業の後に農業をしてまた、林業をするのだ。見事な循環である。そうして栽培された蕪は子供の拳程の大きさで、主に甘酢漬として食べられていた。冬の味覚である。これを通販で大きく売り出したいというのが妹さんからの依頼である。俺は数百年前から続くこの野菜の事を詳しく調べた。主に農家の皆さんへの聴き取り調査だけど。


 山での焼畑のメリットは、害虫が死んでしまうので農薬が必要なくなること、灰が栄養となり味が良くなること、山の傾斜で水捌けが良く蕪の皮が薄くなり食感が良くなること等色々あるらしい。夏に種を蒔き冬に収穫できるのも大きなメリットだ。冬の間の貴重な収入源という訳だ。俺はこのストーリーを全面に出して通販を軌道に乗せた。人間は情報を食べる生き物だ。ただの特産品として売りに出すより、背景に物語があった方が売れ行きに繋がると考えたのだ。それが、一昨年。売れ行きが悪かった刻まない蕪漬の売上を今年は倍増させ、皆に褒められた。それまでの注文の多くは蕪をだいぶ細かく刻んだものに偏り、加工の手間がかかるため、課題となっていた。地元の人が刻まなかったり四つ割にしたものを好んで食べるのを見て、地元民は食感を愛でる。とPRしたのだ。実際、蕪の皮が薄いから気にせずバリバリと食べれるのだ。購入者からの感想も上々で、良い年末を迎えられそうだと皆で話した。そのお土産にいただいたのだ。


◇


 朝食を終えて子猫と離れに戻る。子猫がトイレで上手に用を足した。うれしくて田上夫妻に知らせると、2人は子猫を褒めちぎった。子猫はトイレを教えなくてもちゃんと分かってくれたのだ。俺も「俺より、おりこうさんだなぁ。」と頭を撫でた。子猫は皆にチヤホヤされるのが嬉しいらしく、今までで、1番大きな声でニィーと鳴いてみせた。俺は残り仕事を午後こなし、この日は静かな年末となった。


◇


 ――12月30日 22時 M市 サルナシ峠――


「おい、アレ、何だ?」


「この寒いのに川遊びですかね。」


冗談を言いながらも声は少し震えている。

2人は明らかに異様なモノを見ていた。ソレは川を上り真っ直ぐにこちらに歩いてきている。季節外れの軽装、そして異様な大きさ。ツキノワグマを大きく越えている。人のカタチをしているだけで人ではないナニカ…。


 2人は自分の業務を思い出しパトカーの前にいるソレに話かける。見上げるような大男。身長は2mを大きく超えているだろう。


「×$÷☆!」


 言葉がまるで通じない。職務質問を続けようとしたその時、ソレは片手でパトカーのバンパーを掴んだ。パトカーが空を舞い、川のそばに投げ捨てられた。男はまた、歩き始めた。2人はパトカーの裏側を見ながらしばらく身動きがとれなかった。

 

やっと物語が動き始めます。みなさま、応援よろしくお願いします。

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