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ネコを拾ったら魔族になったったオハナシ 〜ネコと一緒のスローライフ〜  作者: とんじる


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3.カツ、ネコと眠る

――12月29日18時52分 M市沿岸――


(しくじった。あんなに小さなナリでもう歯が生えていたとは。まだ、乳離れできてないとばかり思っていたが…。)


 アスマは、予想外の反撃で追った傷にポーションを使用した。ポーションの効果はこの世界でも変わらず、痛みと傷がきれいに消えた。この世界は魔素が薄く、周囲から魔素を取り入れ魔力変換を行うのは骨が折れそうだ。不可能ではないが、時間がかかる。回復魔法の使用は控えた方がよさそうだとアスマは感じた。魔力変換が不得意なアスマは極力、魔力温存の方が良いとの判断した。追手が来るかは分からないが、来るとしたらイシュタールだろう。アスマには、確信に近い予感があった。


 ゲートがかなり高い空の上に出現していたことも想定外だった。落ちたアスマは海面に強く叩きつけられ、沈んだ。ダメージは無かったが、完全にバルナの子を見失った。噛みつかれ、咄嗟に振り解いた時に陸地へ飛ばしてしまった。死んではいないはずだ。


 誘拐は衝動的にやってしまったことだった。バルナの子に恨みはない。竜の姫に祖父と父の痛みを、2人を失った時の自分の喪失感を味あわせたかった…という訳でもない。強い感情というより、流れ作業の様に淡々と子猫を攫っていた。


 自分でもよく分からない、整理できないままアスマはこの世界へ逃げて来たことになる。一応、ゲートが閉じれば復讐は成し遂げられたことになるのだろう。


(それまで時間が稼げれば…。)


 アスマは魔力の残滓を探して子猫の落ちたであろう方角へ歩きはじめた。


 ――12月29日23時 T市 田上家離れ――

 

 宴が終わり子猫を連れて借家に帰る。仕事用PCを机の定位置に置いた。この街に移住してきたのは4年ほど前だ。それまでは東京の小さな会社でウェブデザイナーをしていた。N県に来たのは、当時の会社で「SNS時代の広告の作り方」と名打った講演をしたのがきっかけだ。大きな会社なら営業マンがいるだろうが、よく言って少数精鋭のウチの会社は全員、営業を兼ねていた。上からの業務命令で柄にもなく講師を務めた。瑠璃子さんは講演を聴きにきていて、熱心な質問者だった。東京に戻ってからもメールで相談に乗ったりしたものだ。士郎さんもいつの間にか加わり、毎週のように近況報告をする中になり、何度か遊びに来るようになった。地方の暮らしが魅力的に見えて、移住してきたのだ。会社とはエージェント契約を結び、月に2・3回程上京する。会社の連中はこの環境を羨ましがり、夏には遊びに来たほどである。都会より水が合うのか、以前より元気になったと言われることも多い。食生活の改善だけでなく、士郎さんと土いじりをやっているから身体も動かす。当然の結果かもしれない。


◇


 田上家の母屋から東側、15mほど離れた場所に私の借りてる借家は建っている。借家と言ってもかなり大きな建物で、北側に寝室に使っている部屋が8畳、風呂場にトイレ、小さな台所、士郎さんの書斎スペースが3畳ほど、書斎に隣接するのは小さな図書館のような書棚が並ぶ部屋。士郎さんが集めた山のような本がある。その多くは農家に必要な技術本だが、百科事典があったり歴史書があったり、海外の書籍などもあった。ある時俺は誰もが知ってる明治の文豪の作品を見つけた。随分年季の入った装丁だったので細かく調べると、初版本であった。


「百万円を超えるような末端価格であろう本を見つけた!」


と士郎さんに話したら、


「困った時に金に換えよう!」


 なんて笑っていた。多趣味で博識、好奇心の塊のような人だが、お金にも困ってないのは羨ましい。士郎さんの蔵書の数は、何千、いや、万を数えるかもしれない。俺は、一生かかってもこれだけの本は読み切れないだろう。

 

 離れの一番南側に農機具を置くスペースがあり、南側は大きな扉で外につながっている。中はコンクリートの土間になっていて、大きな石臼や杵もある。今年の正月も田上夫妻と3人でつき、近所(100mは離れているけど)の人を招いて、振舞った。つきたての餅の柔らかさ、美味さは説明できないほどで日本人である事に感謝した。年越しをしたら、また餅つきをするのだ。


 離れの東南には鶏小屋がある。十数羽ほどの鶏がいて毎日卵を産んでくれている。そして、タロウは鶏小屋のそばの犬小屋に住んでいる。土間ではなく、キチンと床が敷いてある。犬小屋というには立派な小屋で、3畳程はあり、中も屈めば大人が入れるほどの大きさ。勿論、士郎さんのお手製だ。母屋の裏口から離れまでのスペース全体を1.2mほどの高さの柵で囲み、タロウはその中を自由に動き回っている。


 柵の中は季節によっては鶏にも開放する。鶏はミミズや小さな昆虫を食べて楽しそうなのだが、糞の始末が手間ではある。この庭は、タロウにとって縄張りみたいなものだろう。犬小屋は元々、タロウの先輩犬がそこの主で、鶏をイタチなどから守っていたらしい。タロウも先輩犬の後を継ぎ、夜は鶏小屋の側の自室で過ごすのだ。自分の役割を分かっていて、夕飯後は必ず犬小屋で待機する。もっとも金属製のネットなどでイタチ対策がしっかりと施されており、鶏たちがイタチの被害にあったのは見たことない。クマでも来ない限り鉄壁の鶏小屋なのだった。


 貸家の南側には何本か果樹が植えられ、雪の積もるこの辺りには、珍しくお茶の木もあった。3年前、実験的に士郎さんと植えたのだ。ただ、お茶の生産まではもう数年かかるはずである。士郎さんを手伝いながらする農業は楽しかった。


 整理すると、西側の道路に面して母屋があり、15m離れてやや東南側に俺の住む離れが建っている。500坪はあるだろう敷地は士郎さん曰く、


「俺のおもちゃ箱!」


 その通りだと俺も思う。俺は離れを住居として借りてるが、士郎さんのおもちゃで一緒に遊ばせて貰ってると考えると家賃が安くて申し訳ない気もしてくる。


 さて、子猫には段ボールにタオル、湯たんぽで寝床を作ったが、気にいらないようで、段ボールに一度入ったものの、すぐに飛び出してしまった。そして、ベッドの上にいる俺の側に来るとスエットの中に入りたがった。夕方、パーカーの中で寝たのが余程気に入ったらしい。


 確かにお互いあたたかいだろう。裾を広げて入れてやるとすぐにゴロゴロと喉を鳴らし始めた。胸の上に感じる子猫の体温と柔らかさはひどく心地よい。夕方から色々あり過ぎて俺も疲れていたのだろう。子猫の喉の音を聴きながらあっという間に俺は深い眠りに落ちた。

 

 

少し不穏な動きがありましたが、子猫も落ち着いたようです。私もこんな暮らしができたらなぁ。

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