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ネコを拾ったら魔族になったったオハナシ 〜ネコと一緒のスローライフ〜  作者: とんじる


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2.カツ、ネコを飼う

 午後9時を過ぎているのに、田上夫妻は待ってくれていた。玄関の扉を開けると、いつものように、柴犬のタロウが飛んできて足元でぐるぐると回って歓迎してくれた。靴を脱ぎ部屋に入ってもタロウはぴったりと俺に張り付いている。ディフェンスに定評のあるタロウ。子猫の匂いと気配を感じているのだ。圧が凄い。


 瑠璃子さんは、俺の姿を見て「あら、大変だったのね?」と笑った。グレーのパーカーは俺の血の跡が黒く点々としていて瑠璃子さんがそう言うのも無理はない。俺も必死だったのだ。士郎さんが、


「名誉の負傷だねぃ」


 と肩を軽く叩いて労をねぎらってくれた。ただ、不思議なことに両手の傷はいつの間にかきれいに消えていた。痛みも一緒に。そう言えば、運転した時も気にならなかった。夢でも見てたのか。でも、衣服に血の跡はある。

 

 肝心の主賓はまだ俺のパーカーの中。士郎さんの目が、(どこ?猫?どこ?)と訴えている。こんなに落ち着つかない士郎さんは初めてみた。タロウもキラキラした目で、いまかいまかと俺を見上げている。尻尾が震えている。うれしさを隠し切れてない飼主と飼犬。長く一緒にいると、似てくるのかもしれない。


 パーカーの中から子猫が顔を出すと、士郎さんは抱きあげ、満面の笑みで「いい猫だ!」とまるで周りに宣言するように言った。子猫はおとなしくしている。猫被るってのはこういう事なんだな。さっきまでの猛獣は、どこに行ってしまったのだろうか。


 驚いたのは俺が帰るまでに、士郎さんが猫用のシャンプーや子猫用のキャットフードを買いに行って準備していた事だ。山の麓にあるこの集落から1番近いコンビニまで車で片道20分はかかる。あとで瑠璃子さんに訊いたら、電話の後に飛び出して行ったらしい。70歳近いとは思えない行動力である。


 子猫のトイレはとりあえず贈答用の山葡萄のワインの紙箱で代用した。子猫を拾ったサルナシ村からこの辺りの山々には、その名の通りサルナシと呼ばれる小さなキウイの様な果物が取れる。そして、秋になると山葡萄も実る。山葡萄はそのまま食べるには適さないが、ジュースやワイン、ジャムなどの加工品として人気がある。この季節はスキー客、温泉目当ての客がターゲットだ。山葡萄の加工品は鉄分豊富で、温泉に来た女性客には特に人気があった。瑠璃子さんは秋になるとこれらの加工場で働いている。そして、ジャムの瓶に貼るシールは俺のデザインしたものだったりする。


 食事の前に風呂を勧められ、俺は子猫を連れて風呂場に向かった。やはり、手の傷はなくなっている。しかし、パーカーに残る血の跡からも実際にあった出来事なのだ。「夢じゃないよな?」俺の呟きに答えずに猫はおとなしくお湯をかけられている。目を閉じてうっとりしてるようにもみえる。怪我しているかと思っていたが、猫に外傷は見当たらなかった。水が苦手で洗われるのが苦手な猫も多い。保護した時のように傷だらけになるかと思ったが、心配は杞憂に終わった。タオルでゴシゴシと拭くと子猫は小さな声で鳴いた。

 

 田上家には囲炉裏があり、食事はそこで食べる。テーブルもあるのだが、冬の鍋物を食べるのはこちらである。座椅子が四つ囲炉裏囲むようにして並んでいる。三方に田上夫妻と俺が座り、残る1つにタロウと子猫が行儀良く座った。タロウは自分の子供の様に子猫の顔を見て満足そうだ。そろそろお爺ちゃんの歳のタロウが、若々しく生気を取り戻した様な表情をしてるのを見て、俺もなんだかとても良い事をした気分になる。猫は太郎の前脚の間で行儀良くしていた。


 瑠璃子さんは、今年1年頑張ったからと、俺の好物を準備してくれていた。この日は、雄鮭を焼いた後、酒・みりんを煮切り、醤油を加えたタレに漬け、さっと囲炉裏で網焼きしたもの、叩いた納豆にキノコや豆腐、ゼンマイや蕨の入った具沢山の納豆汁だった。囲炉裏の火にフツフツと煮える汁を見て、士郎さんが「香りが飛んじまう!」と鍋を外して傍の鍋敷に置き、汁を椀によそってくれた。瑠璃子さんがすかさず、「はい、忘れ物」と細かく刻んだ長葱と三つ葉を散らし入れた。俺は納豆汁に散らした三つ葉の爽やかな香りに誘われ何杯もおかわりをして瑠璃子さんを驚かせた。

 

 食事の後は猫談義である。シャンプーしてもらい、きれいになった子猫。大きさから2ヶ月くらいだろうか。きれいな虎毛である。黒と茶のよくいるキジトラ柄でなく、サバトラ柄とも言い難い、黒と銀色の珍しい虎毛だ。長毛なので、西洋の猫かもしれない。眼は綺麗な青色だ。


 士郎さんは、子猫の脚が太く大きいので、


「この猫は大きくなるぞ!」

 

 とうれしそう。瑠璃子さんは、しきりに縁あって子猫が俺の所に現れたのだと言った。実は、瑠璃子さんが1番飼いたいのかもしれない。


 年明けに警察に届け、迷子で無ければ、子猫は俺の家族になる事に決定した。俺が仕事で家にいない時も田上夫婦がいる。さびしくはないだろう。まだ、雄とも雌とも分からないので正月明けに獣医さんに診てもらってから俺が名付けることになった。そんな話しをしているうちに、誰も名乗り出なければいいとさえ、思うようになった自分がいた。

平穏な年末を過ごす主人公です。納豆汁はおいしいですよ。身体がポカポカになります。

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