31.カッツ、スキルを得る
さっき出て行ったカッツが子供を背負って戻ってきた……と思ったらギルドの前でぶっ倒れた。ガストンはギルド内にいた冒険者を呼んで、医務室に運び入れた。カッツは意識がない。子供の方は呼吸すらしていない。
「……毒ですね。ユリカブトでしょうか。普通なら死んでるはずなんですが……。」
ギルド付きの医者、ルーメルは診断した。簡単な診断だった。患者の持っていたマルニビシの実はしっかり握ると鋭利な刃物のような棘が出る。丸くボールのような実に潜む棘の先には毒が塗られていた。患者2人のうち、子供は既に手遅れだった。ルーメルは子供の目を閉じさせてやった。
数百年前に流行った暗殺のやり方だ。何も分からぬ子供にマルニビシを持たせてターゲットに渡す。元々は敵国の将軍に自国を滅ぼされた貴族の娘が、花束にマルニビシを潜ませ、凱旋してきた将軍を仕留めたのが始まりだったと聞いたことがある。それ以来、度々使われてきた手だ。戦に強い将軍も若い女性や無邪気な子供だと思い油断したという話。
「古典的な暗殺方法ですね。ガストンさん、毒消はしたけれど……」
「ルーメル、コイツが、例のF級だよ」
「狙われたのね。覚え、あります?」
「薬師ギルド、長老派……長老派だろうな。」
「……そう……、暗殺方法からして古臭いしね。それでも、街の子供が犠牲になったわ。」
「奴等、人の生命をなんだと思ってやがる」
医務室の扉が勢いよく開いた。ネコを抱いたコボルト族が飛び込んできた。
「カッツ様!あ、コレ、ウチの村の毒消草で作った薬です!」
「処置は終わっています。後はこの人次第です……。」
ルーメルは、コボルト族が人族をこんなに心配するのをはじめてみた。医務室にネコは連れてきていけません……言おうとした時に、ネコは寝ている患者に飛び乗りスンスンと匂いを嗅ぎ、鳴きはじめた。それは悲しげで患者に何かを訴えかけているようだった。
「ネコは入れてはダメです……」
ネコを抱き上げようとして、ルーメルは異変に気づく。
部屋の空気が熱い。いや、ネコと患者が酷く熱いのだ。ネコは相変わらず鳴き続けている。
「また、一段階……馴染むな」
いつの間にか部屋の中にいたクマのぬいぐるみの形をした魔法生物が呟いた。患者の目が開く。ルーメルは目の前で起こっていることに理解が追いつかなかった。
◇
翌日、俺はルーメルという冒険者ギルド付きの医者に身体のあちこちを触られ検査された。結論は健康体。毒の影響は見られないという見解だった。今まで怪我も病気も無かったので、ギルドの医務室に入ったことはなかった。冒険者達の福利厚生施設なのだが、利用する者は少ないらしい。弱味を人に見せない冒険者の気質がそうさせているのだろうとガストンさんは言ってた。
俺を暗殺しようとした犯人は分からなかった。亡くなった子供は『街の子』と呼ばれる孤児だった。孤児院の院長さん達が、お詫びにきたが、子供は利用されただけだ。多分、コレをあのおじさんに渡して来て、とでも言われたのだろう。
酷いことをする。孤児院の墓地に葬られるということで、俺も埋葬に立ち会う事にした。ガストンさんとルーメルさんも一緒だ。
孤児院には赤ん坊から15歳まで40人ほどの子供達と5人の職員がいた。聖アレクシア教会の施設だが、グレイスガルドは宗教に熱心な住人は少なく、運営は厳しいそうだ。子供達も皆、痩せている。孤児院の隣の教会で亡くなった子のために歌を歌って送った。少しだが、寄付をした。宿に帰ってこれからのことを話す。まずは、ナイラさんにレベルアップしたことを伝えて、スキルを見て貰う事にした。そして、旅をするには少し財布が厳しいのと、残暑がキツいので、ギルドで稼いでから出発することにした。
◇
――翌日 冒険者ギルド――
「おう……、心配しとったぞ、カッツ」
ナイラさんはそう言って迎えてくれた。水晶に手を置き、ナイラさんがみてくれた。
「肝心の『魔力操作』は、……発現しとらんの」
「ないかあ……、そんなすぐにはなぁ」
俺は大きく息を吐いた。少し期待した。一方、ナイラさんは楽しそうに俺の手を置いたどデカい水晶玉を撫でている。ナイラさんは『鑑定』のスキル持ち。銭湯や生活スキルと違って貴重なのだそう。スキルは経験に関連して得ることが多いそうだ。ナイラさんは他人や物に興味があったってことだろうか。
「お!『状態異常耐性』のスキルが発現しとるな。あと、『気配察知』も。豊作、豊作……。」
「『状態異常耐性』って?」
「昨日受けた毒も、関係しとるかもの。毒やら麻痺やらに強くなるんじゃ、例えば、毒の攻撃受けても毒に侵されにくかったり、仮に毒状態になっても症状が軽くてすむんじゃ。」
「なんか、便利なスキルですね。」
ナイラさんが頷く。ネクロスさんが、
「『気配察知』はエルとの『血盟』もあるからな、いずれは身につくと思っておったわ。それにしても、魔族が『神の祝福』を受けれたとはの。おかしな奴じゃ。」
俺はまだ、ギリギリ『人』なのかもしれない。そもそも魔王の血を体内に入れて普通の人間が生き残ることがイレギュラーなんだろう。魔王の血が俺を侵蝕してくるようで少し怖さもある。魔物とはいえ、この世界での俺は、生き物を自らの手で殺してきた。平然とだ。元の世界にいた時、士郎さをに連れて行って貰った狩とは違う。こちらの世界の魔物と呼ばれる生物は酷く攻撃的だ。やらなければ此方がやられる。
そんな生活をしているからか感覚が変わってきている。強くなるのはいいことだが、どこか、違和感がある
(以前の自分とは違ってきているような……)
俺はナイラさんの説明を聴きながら、頭の隅でそんなことを考えていた。
四角
翌日、ガストンさんに連れられ、森の入口近くにある丘に行く。既に数十人の人族が現地で打ち合わせを行なっている。車椅子に乗った人族が近寄ってきた。
「先日はありがとうございました。ゴブリン達に殺されるところでした」
顔を見ると、ゴブリン村の騒動で救い出した薬師ギルドの人だった。
「ゲルトーと言います。改めてお礼を――」
車椅子の男はこちらが恐縮するほど頭を下げる。目には涙が浮かんでいる。怖かっただろう。俺もあんな群れに捕まったらチビる自信がある。しかし、次にゲルトーの口から飛び出してきた言葉は前向きなものだった。
「昔はこの森にもドリマール蜂もドリマール草があったと記録があるんです。近い将来、我々薬師ギルドが発見、そして、保全したいと考えております」
「探しに行くときは、冒険者ギルドで護衛をつけるのを忘れずにね」
「カッツさん、私はあの森で何日も彷徨った挙句、ゴブリンに殴られ、身体機能も奪われ攫われました。そして、あなた方に救われた。意味があると思うんです。このまま諦めたら殴られ損じゃないですか。必ず蜂も草も見つけます!」
ゲルトーは、力強く宣言した。ゴブリンに捕まって弱ってボロボロになっているところしか見てないから、はじめて会う人のようである。意外と若い。目標のあるのはいいことだ。俺たちも目標に向かって歩き出さなければならない。その夜、俺はジョリと一緒に支度をはじめた。もう少し路銀を確保したら旅立つつもりだ。




