30.カッツ、ゴブリン退治をする
(なんだ今のは⁈神の祝福?レベルアップ?魔族は『神の祝福』受けられないんじゃなかったのか?)俺の頭に一瞬、そんな考えが、よぎった。次の瞬間、鉈で飛んできた矢を3本、払うようにして避けた。建物の屋根に3匹、陰に2匹、ゴブリンが俺を狙っていた。
屋根の3匹に初級土魔法・泥だんごで目潰しを浴びせ、上からの矢を封じると、俺は地上の2匹を始末した。ネクロスさんがふわふわと戻ってきた。瞬く間に屋根の上の3匹を初級風魔法・かまいたちで屋根から落とした。まだ目を押さえている。俺が鉈で止めを指す。
薬師ギルドの2人に回復魔法を使ってきたそうだ。腱が切れた状態では、歩けるようになるわけではないから戻ってきたとネクロスさんは言う。助け出したはいいが、追撃を受けたら逃げ切れない。ネクロスさんはそう言っているのだ。
◇
100メートル程先、西側の陽動部隊を見ると、恐ろしい数のゴブリンが群がっている。数百匹はいるだろう。C級冒険者の魔法使いが中級土魔法・土壁で巨大な土壁を作っている。土壁は入口のための隙間を数メートルわざと開けている。興奮したゴブリン達はそこに群がるが、ガストンさんを中央に戦士2人が並び立ち、ゴブリンを打ち倒している。多少の怪我はすぐ背後に控えた僧侶が回復しているのだろう。時間稼ぎを兼ねた消耗戦仕様。即席の作戦にしては見事にハマっている。
ホブゴブリン達がしきりにギャ、ギャン!と叫び、ゴブリン達は落ち着きを取り戻したようだ。土壁の隙間にいる3人を目がけて殺到、攻撃しても徒らに死体が増えるだけだと理解したのだろう。遠巻にして矢を射はじめた。矢はガストンさん達だけでなく後方の僧侶と魔法使いをも狙っている。魔法使いが土壁の隙間を閉じてしまう。弓矢での攻撃は土壁に沿うようにしていれば角度的には当たらないだろう。
「さあ、出番かの?」
ネクロスさんがゆっくりと前に出る。何をするつもりか。
「カッツや、下がっておいで」
優しく言ったかと思うと、ネクロスさんは川の方向に子供用おもちゃの魔法の杖を翳した。柔らかな光が杖から走ったと思ったら、川の水がゴブリンの群れの上空に流れはじめた。不思議な光景だった。上流から下流に流れるように空中を重力に逆らって川は流れ、水はゴブリンの群れの上に大きな水たまりを作ってゆく。
「そろそろかの……。」
川の水は元に戻り、ゴブリン達の頭の上には相変わらず水たまりが浮いている。ゴブリン達も何か起こっていることを分かって、また、煩く鳴き出した。
「ネクロスさん、何するつもり……」
ネクロスさんが、ニヤリと笑った……瞬間、水たまりはゴブリン達に落ちていった。ゴブリンも辺りも水浸しだ。……ただ、それだけだ。
「さらば!」
ネクロスさんが叫ぶとゴブリン達はこちらを見た。
……こちらを注目したまま、ゴブリンの群れは固まっていた。ホブゴブリンも含めた数百は彫刻のように氷漬けになって立っていた。辺りに静寂が訪れた。
土壁まで近づいて、俺は声をかける。
「おーい!終わったよー!」
◇
――ゴブリンの村突入から1時間半後――
応援にきた冒険者ギルドの連中は、ゴブリン村の掃討をはじめている。僅かだが村の外にいたゴブリンや隠れていたゴブリンがいるのだ。そして、建物や武器を焼いておかないと、ゴブリン達が再び村を作る可能性があるからである。ネクロスさんは、氷漬けのゴブリンの達の素材――核は冒険者ギルドに寄付するとだけ言って、ゴブリン達を葬った魔法については語らなかった。C級冒険者の魔法使いはネクロスさんにどんな大魔法かしきりに聴いていた。ガストンさんは、俺が倒したゴブリンキングを見て、
「どこがF級なんだか。ネクロスにしろ、お前にしろ……お前らには驚かされるよ……」
半分褒めて半分呆れたように言った。
◇
次の日、冒険者ギルドから呼び出され、俺は飛び級でD級冒険者となった。E級・F級冒険者は、木のカードだったが、銅の合金製カードになる。なんか、偉くなった気がする。ゴブリンキングは本来、BからC級の魔物である。単独ならBからC級冒険者が何とか倒せる等級だ。ギルドの特別推薦で俺は飛び級したのだった。
薬師ギルドの2人の謎も解けた。5人でグレイスガルドの冒険者ギルドに顔を出し、あまりの混雑振りに護衛は雇わず森に出かけた……というのは事実だった。森から群生地までの一本道を歩いてゴブリンに襲われたというのは、少し違った。
一本道に入ってすぐに彼らは1匹の蜂を見つけた。蜂はドリマール蜂というこの辺りでは絶滅したと言われる種である。ドリマール蜂はドリマール草という小さな花を咲かせる薬草の蜜を集めて生きており、ドリマール草自体は麻酔薬の素、ドリマール蜂のハチミツは不眠症の薬でもあった。蜂を追いかけているうちに道を外れ、森の奥でゴブリンに遭遇したというのが真相だった。薬師ギルドにとって、ドリマール草の確保、保全ができれば、将来大きな利益に繋がることになっただろう。
薬師ギルドはそれを隠していた。俺達とすれ違うはずもなかった。結果として、ゴブリン村を壊滅させられたのは良かったが、後味の悪さは残った。
◇
冒険者ギルドで、『神の祝福』について話を聞く。人族は『神の祝福』を受けるとこができ、その度ごとに強くなる。魔族、特に上級魔族は、生まれつき人族よりも多くのスキルや高い能力に恵まれる。『神の祝福』は受けることができない。俺は魔族にも関わらず『神の祝福』を受けられたのは何故だろう。ネクロスさんが、前に魔王の血が馴染むって言っていたが、まだ人間の部分が多いからなのかもしれない。実際、元いた世界と比べてかなり殺伐としたこの世界のも馴染んだつもりだが、ゴブリンみたいな人型魔物の死体や解体は苦手だ。少しドキッとする。『神の祝福』を受けてレベルアップする魔族ってのは他にもいるのだろうか。
そんなことを考えながら宿へ向かっていると、目の前で歩いている子供が倒れた。手から血が出ている。大丈夫か?声をかけると、何かボールのようなものを握っている。子供は俺にそれを渡そうとしている。受け取った瞬間、ボールから鋭い棘が出てきた。なんだ、これ?冒険者ギルドの医務室に子供を運ぼうとして歩きはじめる。ギルドの前まで来て、俺は地面にのめり込むようにして倒れた。身体が動かない……。意識が遠のく中、ガストンさんの声が聞こえた気がした。




