28.隠者の腕輪
モイラさんの店、3回目なのに迷いそうになった。金回りは悪くないはずなのに、リフォームとか考えないのかと思うほど重い扉を開けると、モイラさんがニカッと笑ってる。……無気味だ。
「ご活躍のようじゃないか、カッツ」
なんだか凄く機嫌がいいのは分かる、こないだ来た時と滲み出るオーラが違う。ん、俺に他人のオーラなんて分かったかな……纏っている雰囲気みたいなものが、この間と違って感じただけだ。
「モイラさん、なんかいいことありましたか?」
「いいことって、変なこと聞く子だねぇ。アンタが朝から毎日ギルドに通って納品してたから、長老派につけ入る隙与えなかったんだろ?」
「モイラさん、どこで仕入れた情報ですか。俺は、毎朝依頼受けて仕事こなしただけですよ。結果としてそうなっただけです」
「ガストンの坊やが、アンタみたいな律義な冒険者がいてくれて助かったって言ってたよ。古くからこの街にいる者は、長老派にはイヤな思いしてるからね」
モイラさんの顔が歪む。相当頭にきてんだなぁ……。
「モイラさん、で、例の品物は?」
「よしきた!」
ドンっと、カウンターに置かれた包みを開く。腕輪が2つ。ミスリル鋼の白っぽい銀色に細かな紋様が刻まれている。中央には無属性魔法石が配置されていた。
「カッコいい!」
「そりゃ、格好悪いよりはね」
「でも、2つ……納品した無属性魔法石は1つでしたが?」
「ウチの倉庫で眠ってたんだよ。使い途もないからね。アンタにサービスさ」
「いいんですか?こんな高価なもの!」
「アンタ、魔王の島から来たんだろ?鉱山が再開したら魔法石なんて山ほど取れるよ。もうそろそろ事故の復旧も終わるらしいし、ミスリル鋼と一緒に入荷するといいねぇ。」
俺は素直に礼を言った。ナイラさんの紹介とはいえ、大サービスして貰ったのだ。持ってみると軽い。材質的には鉄より硬くかなり軽いのがミスリル鋼の特徴だそうだ。うんうん、子供の頃読んだファンタジー小説やゲームの設定そのままだ。
「この無属性魔法石、今は透明だけど、いずれ真っ黒になるだろう。闇カラスの羽根の色みたいにね。そうなったら取り替え時期だ。アンタの島から入荷した無属性魔法石、磨いておくから入れ替えさ。そしたら、ジョリ、アンタ、契約通り売ってきておくれよ!」
ジョリがこくこくと頷く。この無属性魔法石が俺の魔力を吸って真っ黒になれば、貴族に魔除けとして売りに行けるのだ。はじめの10個はモイラさんの総取りだけど。
腕輪の名は、隠者の腕輪。名前までカッコいい。いかにも異世界ファンタジーだ。店を出る時、モイラさんは耳許で言った。
「アンタ、なるべく単独行動は慎みなさい。長老派ってのはしつこいから」
腕輪を両腕に装備すると、俺はそこら辺にいる人族に見えるみたい。ネクロスさんからは、逆に魔力が全く感じられん、かえって目立つこともある。つけるのは魔物を狩りに行く時だけにしとくように言われた。ネクロスさんほどになると魔力がない者の方が無気味らしい。やはり、『魔力操作』スキルは必要だ。
◇
翌朝、初めての討伐依頼を受けた。街の西側に広がる平原で草ネズミとかいうネズミの大将みたいな魔物を狩るのだ。元の世界のネズミを二回りほど大きくした魔物だ。
実りの秋が近く、グレイスガルドの周辺の果樹園からの依頼だった。普通、ギルドにはその魔物の核か特定部位、草ネズミならシッポを納品する。それが、狩った証明となる。
最も魔物の核は様々な用途があるから核を取るし、レアな魔物は体の部位も利用価値が高いから運べばギルドが引き取ってくれる。例えば、ドラゴンなんかは核も身体も高い価値がある。残念ながら、草ネズミの身体には価値がないので核だけ取って、シッポを証明、核を買取に回すのが普通だという。
◇
草原には草ネズミ以外の魔物も潜んでいる気配がする。今まで、漏れ出す魔力に恐れをなして逃げ隠れていたのだろう。俺は魔物を見つけるだけでも楽しかった。気配だけはよく分かる。ネクロスさんによると、エルと『血盟』をしているから当たり前だと言われてしまった。そのうち、『魔力探知』というスキルを得るだろうとも。スキルはバラバラに存在はしているが、関連性の高いスキルがあるそうで、『魔力探知』は『魔力操作』と関連性があるとされるらしい。続けてモノにできたらなぁ……。
ジョリとエルと一緒に取っていたら、草ネズミはすぐに依頼の10匹を狩った。10匹超えた分も報酬にはなるからそのまま夕方まで狩った。エル25匹、ジョリ11匹、俺5匹……、エルはネコだからとはいっても、悔しい結果だ。まぁ、はじめの一歩としてはよしとしよう。
冒険者ギルドに戻って納品したら、ガストンさんが、
「草ネズミでこんなに喜ぶヤツも珍しい……、まぁ、おめでとう」
と笑いながら労ってくれた。それから宿の食堂で乾杯した。腕輪の魔法石は澄んだままだ。顔見知りの冒険者たちも祝ってくれた。冒険者ギルドがしっかりしているからか、この街の冒険者たちは仲間意識がある。元の世界の仕事仲間を思い出した。
◇
次の日は冒険者ギルドからの依頼で、俺がゴブリンを見かけた場所を案内して調査することになっていた。一緒に行くのはC級冒険者の戦士2人、魔法使い、僧侶のパーティ。ガストンさんも一緒だ。4人とも30代半ばだろうか。実力派って顔をしている。リーダーの戦士が、
「ガストンさん、F級って聞いてたけど、随分珍しいパーティだな」
半分からかうように言った。俺達のパーティ構成からすると、魔力がない人族、従魔のネコ、コボルト族にクマのぬいぐるみである。魔法使いは、ネクロスさんを興味津々で見ている。こんな組み合わせないだろう。
「戦力としては、あてにしてねぇが、おっさん、しっかり案内頼むぜ」
「あ、よろしくお願いします。」
俺は新米冒険者らしく、丁寧に頭を下げた。ジョリも続いた。ネクロスさんはふわふわと浮いているだけだった。エルは顔だけ俺の懐から出しているが、眠っていた。
◇
一同を先導して俺は森の道を歩く……一本道だけど。しばらく歩いて薬草の群生地に着いて、ゴブリンのいた場所を指し示すとエルが警戒しはじめる。やはり残り香があるのだろうか。ジョリも念のため、辺りを窺いながら進む……。みんなで周辺を再調査することにした。ほどなく声が上がる。
「こりゃあ、なんだ?」
戦士が見つけたのは布の切れ端、切れ端だが、丁寧な裁縫が見てとれる。
「これ、薬師ギルドの制服じゃないですか?袖のあたり……。」
僧侶が言うと、ジョリが
「失礼します……薬品の匂いがします。可能性は、高いかと……」
「鼻が効くな、コボルト族は。ココに来てたんだな。追跡できるか?」
ガストンさんの言葉にジョリは頷いた。戦士が首を傾げて呟く、
「薬師ギルドの奴ら、ちゃんと調べてたのか?」
「アッシが聴いたとこだと、初日に来てるはずですぜ」
ジョリの返答に頷きながら、戦士は頭に浮かんだであろう事を口にする。
「なんか証言と現場がチグハグなんだよな。ゴブリンから逃げた時、薬師の連中は一本道なのにおまえ達と出会ってないし、薬師ギルドも冒険者ギルドも調べたはずの場所に証拠が落ちてる……」
俺も疑問が頭に浮かぶ……いつの間にか懐から出たエルが何かを咥えて持ってきた。




