25.カッツ、闘技会を制す
「カッツ様、フォーメーションBって、いきなり何ですか〜?」
「ごめんごめん、あー言った方が相手が戸惑うと思ってさ」
魔物を使役する相手だったので、指示役を狙おうってのは試合前に打ち合わせをしていた。作戦がハマったってとこだ。相手が連携をとって攻撃してきていたら、負けないまでも時間がかかっていただろう。トーナメント戦は1日で終わるから、怪我の有無や疲労の蓄積は、勝ち抜くには重要な要素になる。全部、ガストンさんの受け売りだけど。
二回戦の相手はソルベとアッシャー。共に人族のペアだ。ソルベは青い髪をボブカットにした女性、アッシャーは赤髪を長く伸ばして結んでいる男性だ。2人ともバランスのとれた体格、悔しいことに美男美女。一回戦はほぼソルベだけで勝ったという印象だ。ソルベが広範囲の魔法で下半身を氷漬けにして、相手はあっさり降参した。余裕の勝利だったと思う。手強い相手だ。アッシャーがどんな戦いをするのかも分からない。
「二回戦第二試合、はじめ!」
ソルベは盛んに小さな氷柱の魔法を撃ってきた。俺もジョリも綺麗にかわした。アッシャーが距離を詰めてきて剣を抜く俺は鉈で受け止め、ジョリとソルベ、アッシャーと俺に分断された。ソルベの剣がジョリの左腕ををかすめた。ジョリが驚いた顔をした。
「カッツ様、魔法剣だ!コイツ、魔法剣士でさぁ!」
気を取られた俺をアッシャーは身体ごと押して、間合いを作った。アッシャーが何か唱えたと思った瞬間、アッシャーの剣は炎を纏った。初めて見る魔法剣だ。かっこいいのは否めない。俺はしばし観察した。
魔法剣の炎はよく見ると刀身から数センチ離れて炎になる。刀身まで燃えてるわけじゃないようだ。驚いたのは、炎の斬撃を飛ばしてきたことだ。距離をとるのは不利だ。間合いを詰めようとしたが、位置どりがうまい。開いた距離を詰めようとした時、ソルベの氷の魔法が俺の目の前を掠めた。
2人の連携に抑え込まれている。単体でみても、アッシャーは近距離は剣、中距離は炎の斬撃を飛ばし、距離が空くと小さな火球を撃ってくる。前にネクロスさんが、小さい魔法を細かく撃つ方が実戦で役に立つことが多いと言っていた。大魔法は隙も多いのだ。
そういう点でアッシャーの攻撃は理に適っている。アッシャーの嫌らしい波状攻撃に俺は沈黙。ジョリはあちこち凍りついて、何とかしのいでる形だ。
アッシャーとの鍔迫り合い、俺が力を込めるとアッシャーは後方に飛んで逃れた。このパターン……案の定、火球が飛んでくる。俺は鉈で、火球を弾き返した。火球を弾くのは元の世界でアスマがやっていた。この鉈で。俺が弾いた火球はジョリに向かって飛んでゆき、ジョリは炎に包まれた。
「アチャ、アチャ!」
ジョリの凍りついた身体の氷が溶け、ジョリは再び、思い切り棍棒を振り回せるようになった。これまで魔法剣や氷柱で半氷漬けにされてきたが、ソルベもかなりの魔力を使ったはずだ。我慢比べだ、ジョリは思った。
◇
アッシャーは気味が悪かった。カッツという魔族の持つ武器と持ち主にである。鉈は明らかに魔力を帯びていた。それは無属性の魔力で、持ち主の放つ魔力とは違うものだった。そして、持ち主は一向に自分の魔力を戦闘に使うことをしていない。何かの縛りか?とアッシャーは考えた。修行の一貫で自分の能力の一部を封印することがある。偏った力の使い方を矯正するのに役立つ。魔力はこの戦いにおいても封印したままなのか、その内に使ってくるのか。アッシャーは頭のどこかで考えながら戦わなければならなかった。
ソルベは苛立っている。相手をほぼ氷漬けにしていた。このコボルトは身のこなしが軽く、捉えにくかった。普通のコボルトではない。基礎体力、魔力、身体能力など全ての面で最強のコボルトだった。
やりにくい分、魔力の消耗が激しかった。それでも得意の氷魔法で徐々に押していった。それが、カッツという魔族がアッシャーの火球を弾き、火球の熱で氷を溶かした。近い方の発想が異質。今は周囲の魔素を集めて己の魔力に変換しながら戦うしかない。有利に進めていたはずが、魔力を消耗し過ぎて足元が揺らいでいた。
◇
俺はアッシャーに激しい斬撃を浴びせている。先程から魔法を使う頻度が落ちてきている。魔力を回復させる隙を与えずに押し切ってしまいたい。少しでも早く魔力を使い切らせれば、勝てるかもしれないと思いながら、がむしゃらに鉈をふるった。
異変に気づいたのはジョリだった。明らかに流れがこちらにきている。カッツの相手をしているアッシャーの魔力がどんどん低下している。それは、カッツの鉈がアッシャーの剣とぶつかり合う度に起こっている。何かがアッシャーに起こっている。ジョリは決着が近いと予感した。
何度、鉈と剣を交えただろう。ルナヴェルから貰った希少金属で強化、打ち直した鉈は刃こぼれひとつしていない。一方、アッシャーの剣の方が大分ヘタってきている。何十回目の鉈と剣の交錯だったか、アッシャーが受け止めきれず、よろめいたのを見た俺は鉈を振りかぶり、思いっきり振り抜いた。ガチン!と大きな音がしてアッシャーの剣の剣先から4分の1が折れて飛んでいった。剣先はジョリとソルベの間に落ちた。
「……降参よ。私達の負けね」
「ソルベ、何を言っている。村の皆が待っている!」
「そんな事言っても負けは負けよ。他のやり方を探すしかないわ」
2人は短いやり取りの後に、審判に改めて申請し、俺達の勝利が確定した。
◇
決勝はドロスチーム。あっさりと俺達が勝った。1番はじめに負けたドギーが表彰式にやってきて、
「流石は俺のライバル!生涯の好敵手!」
と囃し立てる。彼には2度と会うことはないだろう。
帰りにソルベとアッシャーが話かけてきた。
「完敗だったよ。まさか、魔力を封じたままの相手に負けるとは。」
修行でも何でもなく、単純に魔力操作ができないことを伝えると更に驚かれた。死力を尽くして戦ったが、消耗戦ってのは、お互い辛かったねと何となく仲良くなった。酒場で食事をすることになった。
◇
2人は村に来年の種籾を買って帰るのだという。この世界に多い長粒種の米だ。パサパサしていて、煮たり、炒めて食すのが一般的だ。ここ数年の旱魃で、村は不作に苦しんで2人を派遣した。闘技会の賞金で河川改修の工事を行うつもりだったが夢と終わった。
「近くに川があるの?川の水は?」
「今年は川の水をみんなで運んで何とかしたよ。先月一滴も降らなかったんで川の近くの田んぼから順に。村人総出でやったんだ。それでも全滅した田んぼもあったけど。」
日照りでも、川の水があるなら何とかなる。魔王の島で、新しい村で田んぼを作る時に採用した方法。水の魔法石を使った取水方法……あれを使うのだ。ネクロスさんが持っていた水の魔法石が1つ、もう1つを闘技会3位の賞金・大金貨1枚でソルベ達に買いに行かせた。2つあれば汲み上げ水を流すのは可能だろう。あとは小さな水路を作ってやるだけだ。肝心な水系魔法の使い手としてソルベがいるから村の水問題は解決したようなものである。ネクロスさんがソルベに懇切丁寧に水の魔法石の使い方を教えている。美女がぬいぐるみから教わる姿もいいもんだ。
2人は礼を言って村へ旅立った。いつか訪ねてみるのもいいだろう。俺も本題に取り掛からなければならない。次の日、俺はモイラさんに魔導具の発注をしに行った。




