23.カッツ、契約をする
スキル『血の呪い』対策がないものか、俺は宿のベッドの上で考えている。魔族は人族のように急激で継続したレベルアップは望めないらしい。『神の祝福』と呼ばれるレベルアップがないというのが理由だ。神と魔族が相反する存在というのは何となく分かる。生まれながらにして強大な魔力や豊富なスキルを持つ魔族だから、人族と同じようにレベルアップしたら、今頃人族は滅んでいたかもしれない。ナイラさんは俺を慰めるように言っていた。
勿論、魔族も経験を積めば新しいスキルを手に入れるあるし、成長もする。スピードが人族よりゆっくりなだけだ。ただ、俺の場合、『血の呪い』があるため、激しい戦いでないと経験値が積めない。そして、魔力操作スキルがないため魔力が漏れて魔物がよりつきにくい。八方塞がりである。魔王の島でヌカグマに遭遇した時、明らかに強いはずのヌカグマが逃げて行った事があった。あれも魔力漏れが理由だったのかもしれない。
◇
解決策は意外な所にあった。魔力操作のスキル自体は自分で経験を積んで手に入れるしかない。スキル鑑定で分かるのは現時点での所持スキルで、これから得られそうなスキル適性とか才能とかが分かる訳じゃないらしい。問題は、スキルを手に入れるには血を浴びる程の激しい戦いが必要だということだ。受け継いだ力のせいで経験値のタネとなる魔物が寄りつかないなら、魔力を抑えるか漏れなくすれば良い。
ジョリが集めた情報だと魔力を抑える魔導具は少し珍しい部類には入るものの、探せば見つかる可能性は高いらしい。
翌日、道具屋や、魔法アクセサリーの店を片っ端から当たった。見つかったのは、きつね面の形をした魔導具だ。視界が狭くなるが、漏れ出る魔力は半減するらしい。
早速、郊外の森林地帯で魔物を探した。気合いを入れて探索したのだが、以前と変わらず魔物が逃げてゆくような……。結果はかんばしくなかった。
◇
ナイラさんを訪ねて冒険者ギルドに行く。ナイラさんは滅多に人前に出ない人らしいが、魔王の小僧が来たというと、会ってくれた。きつね面の魔導具を見せて効果が無かったと言うとナイラさんはきょとんとした顔をした。
「言い方が悪かったのぅ……。この魔導具が制御するのは、漏れ出る魔力の量だね。お前さんの場合、漏れ出る魔力の量が問題ではない。質が問題なのだ。魔王に由来する魔力がの。明らかに上級魔族の魔力だ。魔物ってのは所詮、強さ至上主義の連中だ。当然、敏感になるのよ、強者のニオイに。マヌケな魔物なら襲ってくるかもしれんがね」
俺は黙り込んでしまった。そう言えば、ジョリも似たような事言ってたっけ。でも、どうしようもないではないか。ナイラさんが、救いの手を差し伸べてくれた。
「アタシの従姉妹が腕の良い魔導具師でね。紹介してやるから行っといで。いいやり方が見つかるかもしれない」
◇
――城塞都市グレイスガルド 下町――
翌日、俺はナイラさんの紹介してくれた店を探して初めて下町エリアを訪れていた。古びた街並みに埋もれるようにしてその店はあった。看板もないから入らなければ店があるとは誰も気づかないだろう。ジョリが店の扉を押すと、ギィと軋む音を立てて開いた。薄暗い店の奥に向かって声をかける。
「ごめんください。ナイラさんの紹介できました〜。」
奥から出てきたのはナイラさんだった。俺のきょとんとした顔を見て、
「あぁ、私はモイラ、ナイラの従姉妹さ。あの子は達者かね。」
よく見たらナイラさんのトレードマークの三つ編みではない。顔はそっくりだけど。店のテーブルに着き、俺は紹介状を渡した。今までの経緯を説明して、どうにか魔力を漏れなくする魔導具を作れないか相談した。
「アンタの要望を満たすものは作れるよ」
あっさりとモイラさんは答えてくれた。俺は幾らかかるかを聴いた。
「大金貨100枚ってとこかね」
ジョリが(法外ですよ。伝説の武器を買う訳じゃあるまいし……。)と耳打ちしてくる。
「アンタにとってどれだけ価値があるか、だろう?」
モイラさんには俺の心の中の声まで聞こえるらしい。ニヤリと笑うとモイラさんが俺に提案してきた。
「ただし、アンタが自分で足りない材料を用意できて、私の条件を飲んでくれたら特別価格にしてあげるよ」
隣のジョリの喉がゴクリ……と鳴った。
「材料と条件を教えて貰えますか?」
「材料はミスリル鋼、無属性魔法石だね。これが準備できたら大金貨20枚で作ろう」
「条件と言うのは?」
「どんな物を作るか説明した方が早いね。まず、ミスリル製の腕輪を2つ、両腕につけて貰う。アンタの魔力漏れを抑えるって考えが間違ってたのさ。魔力は無属性魔法石に流して溜める。無属性魔法石はどんな魔力も吸収して吐き出す事ができるからね。質が良い魔法石にアンタの魔力を喰わせるのさ。私の造った腕輪はその流れを制御する。そして、魔力の溜まった魔石は私に納めて貰う。それが条件さ。」
「アッシが考えるに、回収した魔石でアンタは魔物避けの魔導具でも作って貴族にでも売りつけるんでしょう?」
ジョリの言葉にモイラが頷き、
「あら、頭の回るコボルトもいたもんだ。」
と、感心してる。
「アッシならカタイ買い手を斡旋できます。モイラさん、料金は大金貨10枚にして貰えませんか。無属性魔法石10個迄は利益はモイラさんの総取り。それ以上売れた時は、20%の手数料を頂きます。表立って交渉したりする労力を考えると悪くない話のはずです。売り先の貴族は我儘な連中だ。意匠やデザインなどの細かい要望が必ずでてきます。そんな面倒な販売先との交渉はこちらが受け持ちます」
マイラさんはやれやれという顔をした。
「……面白い従者を持ってるんだねぇ、流石は魔王の血族だ。ナイラが入れ込む訳だ。」
ジョリが褒められると、なんだか俺はうれしくなった。俺もネクロスさんも、この世の中をうまく渡るという意味では、ジョリには叶わない。しかし、世の中の人からするとコボルト族は弱小下級魔族という評価だ。誰もジョリ個人の能力を見向きもしないのである。
「ジョリ、凄いでしょ。俺にとって、彼はこの世界の案内人なんですよ。」
俺はにこにこしながらナイラさんに返した。了承の返答と捉えたのか、ナイラさんは待つように言うと奥で書類の準備をはじめた。
◇
血の契約書を交わす時、ジョリは自分が署名することに恐縮して、遠慮していた。主人である俺と並べて署名をするなど考えられないことなのだ。モイラさんは、
「アンタが言い出したんだから、アンタの名前も無けりゃこの契約は成り立たんよ!」
とジョリに言い切った。ジョリは俺に拝むような顔をしていたが、俺もモイラさんと同意見だ。ジョリは観念すると、小刀で指先から血をとりインクがわりにペンに吸わせるとらサラサラと名を書いた。3人の名前が並んだ契約書を俺達は交わした。
「ところで、ミスリル鋼と無属性魔法石はどこで手に入るんですか?」
俺の質問にモイラさんは困り顔で答えた。
「魔王の島の鉱山が閉鎖されて半年程経つかね。供給不足で価格が高騰して手が出ないんだよ。そこでだ」
モイラさんが引き出しの上に置いてあったチラシを見せてくれた。
――グレイスガルド闘技場 夏季闘技会 参加者募集――
個人戦……
タッグ戦……
チーム戦……
タッグ戦の優勝賞品にミスリル鋼石と無属性魔法石10個賞金大金貨10枚と書いてあるのを見て、俺とジョリはゴクリ……と喉を鳴らした。




