22.カッツ、西を目指す
「カッツ様、エル様をなんとかしてくだせぇ!」
悲鳴をあげているのは、ジョリだ。黙っていればたぶん、精悍な顔であろうコボルトだが、エルに舐められて情けないことになっている。道中、ずっとこんな感じだ。エルは俺の懐で眠るのに飽きるとジョリと遊びたがる。エルからすれば、この新入りは自分の遊び相手として存在しているのかもしれない。
元々、この世界における山猫ってのは、随分と強く、かなりの魔力を持った上位の魔物らしい。元の世界でも山猫って語感には神秘的というか、不思議な響きがある。魔熊とかあんまり聞かないし。エルを見てるとそんな怖い存在には見えない。
ジョリは、ノトク村の件から解放されて、正式に俺の従者となった。俺自身はそんな大層な者じゃないのだが、魔王の手前、表立って言えない。エルがうれしそうだからいいか。そう思うことにした。ジョリが行商の経験を活かして道案内ができるというのもポイントである。
◇
俺たちは街道を、西へ西へと、ひた進んでゆく。毎日歩き採集をして飯を食べ、野宿をする。そんな日を過ごした。途中、フォーンやヘルハウンドの集団を見かけたが、襲われることは無かった。ジョリ曰く、魔物も相手をみてケンカを売るらしい。ネクロスさんはともかく、魔力操作が苦手で魔力ダダ漏れの俺と、エルの姿は魔物には恐怖の対象なんだそうだ。子猫時代のエルに右手が砕ける程齧られた身としては、なるほど、頷ける。
それでも、旅慣れたジョリが一緒にいると、この世界の常識が分かって楽しくもある。魔王の島では、物々交換と貨幣の使用は半々程度だった。大陸では貨幣制が一般的であり、国や地域によって使っている貨幣も違うようだ。都市間でも違うが、ジョリは貨幣の交換などもそつなくこなす。言語の問題もジョリがいれば、大丈夫。旅の間、ぼったくりのような危険な目にあうことはなかった。持つべきは、優秀な従者である。
◇
城塞都市グレイスガルド、遠くに見えてきた時はその威容にワクワクしてしまった。遠目には巨大なローマのコロッセオの様な形をしている。放射状に延びた道はやはり、世界に通じていると言われているそうだ。そして、異世界にはつきものの冒険者ギルドの本部があるらしい。異世界に来たからには一度は冒険者になってみたい。例のスキルの鑑定もできるらしい。みんなのスキルも見てみたい。
新規でグレイスガルドに入るには南門にまわらなければならないと言われて、歩く。遠くに長い列が見える。随分と時間がかかったが、俺たちは最後列に並んだ。並んだのは午前中なのに、門に着いたのは夕方だ。ジョリが門番にそっと袖の下を渡していた。そういうものなのだろう。門を潜るときには、エルは子猫の姿で俺の懐にいたから咎められることもなかった。
◇
次の日に早速、冒険者ギルドに行ってみることにした。本部だけあって、大企業のビルみたいな建物だった。入り口には大きな門があるが、世界中の冒険者ギルドはこの門の周りにレンガ造りの塀を配置しているとのこと。冒険者達に分かりやすくする為らしい。レンガの門塀が冒険者ギルドの目印……ふむふむ。
冒険者登録の為に受付に行くと、獣人族の女性たちが丁寧に教えてくれた。名前や種族、職種を書くし、得意スキルや魔法を書く欄がある。種族は魔族、職種は魔法がほぼ使えないので、前衛になるのかな、戦士と書いた。スキルについては全く分からないと正直に申し出ると鑑定に回された。
ギルドの奥に連れられると、かわいらしい受付嬢からむさ苦しい中年男性に変わった。獣人族で、ライオンの獣人と思われた。俺の希望はさっきの受付嬢なのだが、選べないらしい。その代わり、秘書みたいな格好の人族女性がライオンの獣人の隣に立っている。
「名前は……カッツね?……俺はガストンってもんだ。よろしくな」
やたらと分厚い身体をしている。冒険者上がりなのかもしれないと俺は思った。服の下には鍛え上げられた筋肉の鎧があるはずだ。
「じゃあ、この水晶に手をかざして……ん⁈こりゃあ、おい、バアさん呼んできてくれ!」
小柄なバアさんが、入ってきた。ネズミのような耳、髪は三つ編みにしてる。動作は恐ろしくゆっくりだ。
「ガストンや、何ごとだぇ?」
「バアさん、新人なんだが、コイツの鑑定頼む。見たことないスキル持ちみたいでな。カッツ、この人は冒険者ギルドの生き字引、ナイラさんだ。珍しいスキルはこの人が解析してくれる」
小さい身体で椅子にしがみつくようにして座ると、ナイラさんの小さい目がぱっちり開いた!
「あんれ!珍しい!【超適応】ね。世の中の全てのことに適応していけるスキルだね。問題は【血の呪い】だね。魔族だから『神の祝福』は受けられないけど、アンタの場合、血をみるような闘争でしか能力を解放できないね。戦い続ければスキルも能力も、伸びるかもしれんが修羅の道だねぇ。他は土魔法に僅かに適性あり、鉈?珍しい武器に適性あるね。」
『神の祝福』ってのは、魔族以外の種族にあるレベルアップのことらしい。神の敵の魔族にはないのか……。俺の場合、【血の呪い】が重すぎる気もするけど、仕方ない。
「アンタ、漏れ出る魔力の格から、かなり上の魔族ってのは感じられるけど、それ、しまっておけないのかい?」
「『魔力操作』ってのが苦手なんですよ。こないだまで人間だったもんで」
「魔力操作のできない魔族……初めてみたかも」
ナイラさんが気の毒そうな顔で俺を見る。スキル鑑定では現在、発現しているスキルしか見れないので、隠れた才能が、あるかもよ……と、慰めてくれた。特に魔力操作は大切だと話してくれた。後で、ネクロスさんに聞いたら、魔力がずっと漏れ出てるのは、恥ずかしいことらしい。前にジョリが言ってたように、魔力の格が高いから、魔物が逃げていくのもマイナスだ。血を浴びるような闘争にならないから、いつまでも強くなれないとことになる。魔力操作は早目に覚えないと……ジリ貧だ。
宿に帰る前に受付嬢に木製のカードを渡された。F級冒険者としての証だ。上級になれば、金属製のカードになるらしい。異世界で、また一歩進んだ。ベッドの上で何度も裏にしたり表にしたり……元の世界で運転免許を取った時のことを思い出した。この世界での自分の存在を認められたようで、やっぱり、うれしかった。




