15.カッツ、旅の準備をする
ミレディア達に呼ばれて城内の黒旗軍の詰所に入る。今日から朝は村で仕事、昼から城で訓練を行う。俺の顔を見て、黒旗軍の頭領、ラグナーが近寄ってきた。
「聞いてるよ。あの2人から。儀式だってな。ウチの訓練出てれば、自然と強くなれるさ」
誰から聞いたようなことをラグナーは言った。2m近い筋肉質の身体。日に焼けた精悍な顔、元の世界なら栄養剤のCMに出れそうだ。
「ラグナーさん、よろしくお願いします」
「カッツ、晩餐会の時に言おうと思ったんだが、さん付けは良くない。魔族の間では名前にさん、様も付けないものだ。人族の中では相手を敬う表現らしいが。人族の習慣や言葉使いをよく思わない奴もいるんだ」
「知らなかった…。あ、俺、ネクロスさん、って呼んでる!気ぃ悪くしたかな…」
「ネクロスは元人間だからな」
聞き流せないことをラグナーは言った。今はぬいぐるみでしかないネクロスさんだが、どういうことだろう。いずれ機会があればきいてみよう。
「え?俺と同じ?では、魔王はどう呼べば?」
「正式な場では、アモンとか魔王とか。こないだの報告の時はアモン、黒旗軍、只今戻りましたって挨拶したよ」
「敬語は使ってもいいのですか?」
「そうだ。目上には敬語。そこは違いはない。だが、さん付けはやめとけ」
「ありがとう、ラグナー。でも、やっちまったなぁ、他の魔族は怒ってるかな」
「いや、晩餐会の感じだと、怒ってはいないし、カッツのことは認めているよ」
「そうかなぁ。なんでそんなこと、分かるんですか?」
「貴様が元人間なの、知ってるしな。認めているのは、他の仕草にでていたよ。例えば、俺の見たところ、皆、念話を使ってなかった。ちゃんと声に出してお前と話してただろ」
「念話?」
「魔族なら言葉を発せずとも意思疎通はできる。ただ、それは格下の者に対してが多いな。あとは、誰もお前の影を踏まなかった。これは寧ろ同格以上と考えている証拠だ。人間達の言うマナーってのに近い。誰も教えてないだろうが、魔王の血を受けて生きていること自体が奇跡みたいなモンだからな。単に血を与えただけじゃなく、瀕死のお前を死の淵から救おうという魔王の意志。これに応えられたってのは立派な勲章みたいなモンなのよ」
ラグナーの説明は分かりやすかった。確かに晩餐会の時、他の魔族はあまり近づいて来なかった。影踏まないようにしてたのか。なんだか、かわいらしい。
◇
昼からの訓練はまず、走る事から始まった。2時間程走る。途中でダッシュだったり、高低差のある場所や小川を横断したりした。陸上のクロスカントリーに近い。全くついて行けなかったが、完走しただけでも自分を褒めてあげたい。体力や頑丈さは、エルの血盟か魔王の血の影響で随分と増していると予想はできたが、走る速さはそうでもなかった。
次は武器の使い方である。武器適性を見るのだ。剣を持ったことすらない俺に棒や槍なんかを振らせたが、皆苦笑いしていた。ミレディアが、
「アレなら相性いいかも!」
と、どっかに走ったと思ったら、見覚えのある武器を持ってきた。アスマが俺とエルに投げ、致命傷を負わせた鉈だ。ミレディアはそれを知っているのか?
「この鉈、カッツとエルと一緒に異世界渡りを成したんだから絶対相性いいよ!」
「ミレディア、あなた、カッツからしたら忌み物みたいなものよ。でも、間違いなく縁はできてるわね。」
ルナヴェルが言う縁ってのは、悪縁としか俺には思えない。
鉈は自分でも驚くほど扱いやすかった。元々、士郎さんの手伝いで山道の整備をしていた。昔話にある柴刈りってヤツだ。慣れると、力の入れ方よりも抜き方が上手になり、一日中鉈を振っても疲れなくなったのを覚えている。ルナヴェルが細かい重心の調整の必要性を指摘して、次の休みは街の鍛冶屋に行くことになった。ミレディアも行くことになり、元々他の部下と街に行く予定だったラグナー達とは夕飯時に合流することとなった。
◇
――次の休日――
全く釣り合いの取れていない3人が並んで歩く。ミレディアは、スラっとした美少女だ。見かけは10代後半。ルナヴェルは黒髪が印象的なグラマーな美女である。見かけは20代半ばかな?そんな美人を2人も従えているのだ。しかも、2人はこの街で知らぬ者はいない有名人である。俺の見かけは冴えないアラフォー中年。街の人の視線が刺さる。
鍛冶屋に行って拍子抜けしたのは、そこに居たのは俺が本を貸して読み聞かせをしている青年ドワーフだったことだ。青年ドワーフは見習いだったが、親父さんが店の主人という訳だ。親父さんの前で鉈を振る、振り回すを何度も繰り返し、親父さんに預けた。打ち直しが必要だと言われ、半月程かかるらしい。ルナヴェルが腕輪を外して親父さんに渡す。腕輪は希少金属でできており、他の金属と混ぜて使うことにより耐久性などが上がるんだそうだ。
ルナヴェルに感謝。代わりに何かを買って贈ることにした。鍛冶屋の隣が魔法武具を売る店だった。様々な加護を得られる武具やアクセサリーが並んでいる。彼女は銀色をした意匠の凝った指輪を欲しがった。ネックレスに指輪を通しつ使うとのこと。彼女が、似合うか聞いてきたけど、白い胸元をまともに見れなかった。鉈を持ってきたミレディアにも御礼を…と話したら、昼食に彼女の好きな串焼きをご馳走することになった。色気より食い気らしい。
大した散財だった。先日、台所に保管していた瑠璃子さんの手作り梅干し、梅酒、梅シロップを魔王に納めた。対価に貰ったお金はすっからかんになった。次は少量だが、収穫が近いブルーベリーかな。お金はまた稼げばいい。こうして着々と準備が進んで行った。




