14.カッツ、村をつくる
春の作業に目処がついて、俺はアルゴ達と家を建て始めた。アルゴ達の家族・親類の応援が何十人も集まった。急ピッチで村が整備されてゆく。湿地帯から東へ少し離れた丘に後々役場にする大き目の建物を。当分はアルゴ達とここで雑魚寝だ。そして、既存の道へ繋げるために、鉱山から出た砂利を集めて道路を整備した。幅は12mにした。
エルは俺の懐に収まって新村にやってくる時には一緒だ。タロウも散歩がてら走ってついてきた。元の世界にいた時よりも元気が増したようだ。タロウには、この世界が合ってるのかもしれない。
家の建て方は士郎さんの書庫からアイディアを得た。井戸水を浄化魔法をかけて更に圧縮して水道管へ流した。水系魔法のちょっとした応用だった。だが、水道が使えるのは大きな進歩である。そもそものこの世界には発想すらなかったのだ。水の魔法石に魔力を蓄積させるため、ネクロスさんに頼んでいたが、これらを維持するため、魔法が使える者がいずれ必要となってくるだろう。
鍛冶屋に頼んで蛇口を作ってもらった。鍛冶屋は俺の離れまできて、家の中を見て行った。蛇口の他に洗面台の下にあるs字トラップに強い関心を示し、よく考えられていると絶賛した。木で作られた家も珍しいのか基礎と屋根をじっくりと見ていった。専門は鍛治でも、異世界のモノづくりには興味がわくようだ。おかげで、少し緩いが水が蛇口からでる。
帰る時に鍛冶屋は幾つかの本を借りて行った。異世界の道具の勉強のためである。設計図や表が多い本だが、分からないところは俺が時間ある時に読み聞かせることにした。それを伝えると鍛冶屋は目を輝かせて感謝してきた。伝えた技術はいずれこの村のためになるかもしれない。そんな下心もなくはないのだが。でも、百科事典や専門書が役に立つとは思わなかった。異世界に来ても俺は士郎さんの世話になっている。
◇
丘からは徒歩3分、小川の河原を掘ると温泉が湧き出る。当面の風呂はここだ。フルオープンの露天風呂だ。温度調整は川の水。男しかいないからこんなものだろう。湯加減わ調整して、ざぶんと入る。エルは俺たちの風呂を岩にちょこんと座って見ていた。何でも興味があるのだろう。それにしても、仕事の後の風呂は格別だ。風呂の中での話題は、村のこれからだ。
「カッツ様、このまま頑張れば、2・3年で村は軌道に乗ると思うんです!」
アルゴの声はデカい。希望的観測だが、確かにそうなるだろうと俺も思う。ただ、足りないものもある。
「アルゴ、魔法使いを雇わないといずれ、行き詰まるよ。」
「リズンは心配性だなぁ。ま、言われてみりゃ、それが一番いいわな。ネクロス様に頼ってばかりもいられないし。」
「2人の知り合いにいないの?井戸にしても棚田の水源にしても魔法石に定期的に魔力をくれる人は必要だもんね。」
2人とも黙ってしまった。緊急性はないけど、是非とも欲しい人材だ。街で探すことにした。時間がかかるかもしれないけど。
◇
この夜は俺は一度城に戻る事にしてた。2人に別れを告げて森の中を歩く。10分ほど歩いた時に奥に何かの気配を感じた。立ち止まって様子を伺っていたが、こちらが風上なのに気づいた。近づいてくる。姿を現したのはヌマグマだ。体長2m強。生息しているのは聞いたことがあった。手ぶらでクマ退治は無理だろう。
一度立ち上がってヌマグマは自分の大きさを見せつけてきた。体格差で自分の優位性を示した後、ヌマクマは俺の目の前を右に行ったり左に行ったり。足下ではタロウが唸り声をあげた。エルは俺の懐で眠ったままだ。俺は微動だにしない。目だけ動かす。(来るなら来い!タダでは死なん、痛い目見せてやる!)対峙すること数分。ヌマグマは諦めて逃げて行った。俺はへなへなと崩れ落ちた。魔物との遭遇は初めてだった。
◇
翌朝、城に行こうとするとエルがまとわりついてきた。やっぱり俺の服の中がいいらしい。抱き上げて懐に入れ家を出た。母猫のバルナみたいに大きくなったらこんな風にできなくなる。ちょっとさびしい。
魔王の前に跪く。今日、謁見の間にいたのは魔王と俺の他は、ミレディア、ルナヴェル、ネクロスさんの3人だ。
「カッツよ、この世界の生活はどうだ?」
魔王は分かってる癖にそう話し始めた。
「おかげさまで、充実しております。許して頂いた村の開発も進んでおります。再来年には軌道に乗せたいと思っております」
「うむ。それは重畳、今日きてもらったのはほかでもない、其方にやって貰わねばならぬことがある」
「私にできることであれば、なんなりと」
口ではこう言うしかない。しかし、俺が魔王にしてあげられることなんて考えもつかない。日々の生活を覗き見させてあげるくらいか。魔王が続ける…
「西の大陸に渡り、一族の儀式を執り行ってもらう」
俺が何も答えられずにいると、ネクロスさんが捕捉してくれる。
「魔王の血を宿したのだ。カッツよ、貴様は、魔王の一族と見なされる。西の大陸へ渡り蒼柘榴石のカケラを手に入れ持ち帰るのが儀式じゃ。蒼柘榴石は大陸の北の山中、『失われた都』にある」
「私は元の世界でも旅をしたことがありません。自信がないのですが……」
はっきり言った。俺は旅などできない確固たる自信がある。昨夜ヌマグマにさえ遅れをとるところだったのだ。大陸には魔物が沢山いるだろう。
「心配はない。旅立つのは来春だ。それまで其方には強くなって貰う。旅は其方1人ではなく、ネクロスとエルも一緒だ」
ぬいぐるみのネクロスさんと子猫のエルを連れて旅をして危険が無くなるとは思えなかったが周りの雰囲気は決定事項のようだった。ミレディアが口を開く、
「カッツはウチの部隊の訓練に参加しなよ。黙ってても強くなるよ」
俺は覚悟を決めた。やるなら早い方がいい。アルゴ達とも打合せておかなければならない。城を後にして離れに帰ると、タロウが待っていた。来春の旅のことを話すと、じっと聴いていた。タロウはこの家に留守番になる。そして、俺はエルを守るためにも強くならなければならないのだった。




