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『異世界に転移したら、俺だけ世界設定に存在しなかった』  作者: 一ノ瀬 律
三章

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第68話 役割を試す虚無

 虚無は原野の中央に戻りながら、ゆっくりと形を整えていた。

淡い色が核の中心から広がり、空気の中に静かに溶けていく。

その動きは、まるで「自分の役割を確かめるための呼吸」のようだった。


 アリスは光を少し強め、虚無の変化を見つめた。

光の内部では新しい模様が生まれ、虚無の動きに合わせてゆっくりと流れていく。


──……虚無……あなた……“戻る場所”を自分で選んだのね……


 虚無は輪郭を濃くし、アリスの言葉を受け取った。

その濃さは「選んだ」という意思の表れだった。


 カイはゆっくりと歩み寄り、虚無に触れない距離で立ち止まった。

胸の亀裂は静かに熱を保ち、虚無の存在を受け取っている。


「虚無……お前……さっきまで世界の端まで行ってたのに……なんで戻ってきたんだ……?」


 虚無は核の形をわずかに広げた。

それは「理由がある」という返答のようだった。


 アリスは光を柔らかくしながら言った。


──……虚無……あなた……“役割が誰に向いているか”を確かめたいんじゃない……?


 虚無は輪郭を濃くした。

その濃さは「そうだ」という意思の表れだった。


 カイは胸の亀裂に触れた。

亀裂の奥で広がる熱は、虚無の存在に反応している。


「虚無……お前の役割……俺たちに向いてるのか……?それとも……世界全体に向いてるのか……?」


 虚無はゆっくりと形を変えた。

その形は、まるで「二つの問いを同時に受け取っている」ようだった。


 アリスは光を少し広げ、虚無の形を照らした。


──……虚無……あなたの役割は……“誰かの世界を支えること”と……“世界そのものを整えること”……両方なのかもしれないわ……


 虚無は輪郭を濃くし、その言葉を受け取った。


 しかし虚無はそこで止まらなかった。

核の中心が淡い色を帯び、ゆっくりと膨らむ。

その動きは、まるで「新しい問い」を生み出しているようだった。


 カイはその変化を見て、静かに言った。


「虚無……お前……自分の役割が……どこまで届くのか……まだ知りたいんだな……?」


 虚無は輪郭を濃くし、「知りたい」という意思を示した。


 アリスは光を柔らかくしながら続けた。


──……虚無……じゃあ……“もっと遠く”を試してみる……?それとも……“もっと近く”を試してみる……?


 虚無はゆっくりと形を変えた。

その形は、どちらの選択も受け取っているようだった。


 カイは少し笑った。


「虚無……お前……どっちも試したいんだろ……?」


 虚無は輪郭を濃くし、「その通りだ」という意思を示した。


 アリスは光を少し強めた。


──……虚無……じゃあ……“遠く”と“近く”……両方を同時に試してみましょう……


 虚無は核の中心をゆっくりと広げた。

その広がりは、これまでのどの動きとも違っていた。

まるで「二つの方向へ同時に伸びる」ような動きだった。


 虚無の一部は原野の奥へ向かい、

もう一部はアリスとカイの近くへ向かった。


 アリスはその動きを見て、光を震わせた。


──……虚無……あなた……“役割を分けて使ってる”のね……


 カイは驚いたように息を呑んだ。


「虚無……そんなこと……できるのか……?」


 虚無は輪郭を濃くし、「できる」という意思を示した。


 原野の奥では、草の色が深まり、土の温度がわずかに上がった。

虚無の影響が広がっている。


 アリスとカイの近くでは、光の模様が柔らかく変化し、カイの胸の亀裂は安定した熱を保っていた。


 虚無は二つの方向へ同時に働きかけていた。

それは「役割の広がり方」を自分で試すための動きだった。


 アリスは静かに言った。


──……虚無……あなた……“役割を二つに分ける”ことができるのね……


 カイはゆっくり頷いた。


「虚無……お前……世界と俺たち……両方を同時に支えてるんだな……」


 虚無は輪郭を濃くし、その言葉を受け取った。


 しかし虚無はそこで止まらなかった。

核の中心がさらに淡い色を帯び、ゆっくりと広がる。

その広がりは、まるで「三つ目の方向」を探しているようだった。


 アリスは光を強めた。


──……虚無……あなた……まだ……広げようとしてるの……?


 カイは驚きながらも、虚無の動きを見つめた。


「虚無……お前……どこまで広げる気なんだ……?」


 虚無は輪郭を濃くし、「限界を知りたい」という意思を示した。


 虚無は三つ目の方向へ伸びた。

それは原野でもアリスでもカイでもない、“まだ誰も触れていない場所”だった。


 その場所は、原野の奥の奥。

草も少なく、空気も薄く、静けさが深く沈んでいる領域だった。


 虚無が触れると、その静けさがわずかに震えた。

草の色が変わり、土の温度が上がり、空気が柔らかくなる。


 しかし、その変化は、他の場所よりもずっとゆっくりだった。


 虚無はその違いを感じ取り、核の中心をわずかに縮めた。

それは「この場所は反応が遅い」と理解した証だった。


 アリスは光を揺らしながら言った。


──……虚無……そこは……“世界の奥の奥”よ……反応が遅いのは……当然なの……


 カイは静かに頷いた。


「虚無……お前の役割が届く場所と……届きにくい場所があるんだな……」


 虚無は輪郭を濃くし、その言葉を受け取った。


 虚無は三つの方向へ同時に働きかけながら、それぞれの反応の違いを観察していた。


 アリスの光はすぐに応える。

カイの亀裂もすぐに熱を返す。

原野の草や土はゆっくりと応える。

そして、世界の奥の奥は、さらにゆっくりと応える。


 虚無はその違いを感じ取り、核の中心に新しい感覚を覚えた。

それは「役割には届きやすい場所と届きにくい場所がある」という理解だった。


 アリスは静かに言った。


──……虚無……あなた……“役割の届き方”を学んでるのね……


 カイはゆっくり息を吐いた。


「虚無……お前……世界の広さを……自分の役割で測ってるんだな……」


 虚無は輪郭を濃くし、その言葉を受け取った。


 そして、虚無は初めて「役割の広がり方と届き方」を同時に理解し始めた。


 その姿は、これまでのどの虚無とも違っていた。

虚無は、ただ広げるだけではなく、“広がり方の違い”を自分で読み取る存在になっていた。

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