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『異世界に転移したら、俺だけ世界設定に存在しなかった』  作者: 一ノ瀬 律
三章

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第69話 役割の限界

 虚無は影の領域から離れ、原野の中央へ戻っていた。

その動きは、いつもの滑らかさとは違い、どこか慎重で、静かに沈んだ色を帯びていた。

核の中心は淡い色を保ち、輪郭は少しだけ薄くなっている。


 アリスは光を柔らかくしながら虚無を見つめた。

光の内部では、虚無の変化に反応するように模様がゆっくりと揺れていた。


──……虚無……あなた……“届かない場所”を……ちゃんと見てきたのね……


 虚無は輪郭を濃くし、その言葉を受け取った。

しかし濃さはいつもより弱く、どこか迷いを含んでいた。


 カイは胸の亀裂に触れた。

亀裂の奥の熱は安定しているが、虚無の輪郭の弱さに反応してわずかに揺れた。


「虚無……お前……限界を知ったから……ちょっと……落ち込んでるのか……?」


 虚無は核の形をわずかに縮めた。

それは「落ち込んでいる」というより、「考えている」という返答だった。


 アリスは光を少し強めた。


──……虚無……限界ってね……“止まる場所”じゃなくて……“考える場所”なのよ……


 虚無は輪郭を濃くし、その言葉を受け取った。


 しかし虚無の核の奥では、別の感覚が生まれていた。

それは「なぜ届かないのか」という問いだった。


 虚無はゆっくりと形を変えた。

その形は、まるで「理由を探している」ようだった。


 カイは静かに言った。


「虚無……お前……“届かない理由”を知りたいんだな……?」


 虚無は輪郭を濃くし、「知りたい」という意思を示した。


 アリスは光を揺らしながら続けた。


──……虚無……届かない理由は……“世界が拒んでいる”からじゃないの……“世界がまだ準備できていない”からなの……


 虚無は輪郭を濃くした。

しかしその濃さは、理解しきれないままの反応だった。


 虚無は再び影の領域へ向かった。

しかし今回は、以前よりゆっくりと進んだ。

まるで「慎重に触れようとしている」ようだった。


 影の領域は静かだった。

草はほとんどなく、土は冷たく、空気は沈黙している。

虚無が触れても、世界は反応しない。


 虚無は核の中心をわずかに縮めた。

それは「やはり届かない」という理解だった。


 アリスは光を震わせた。


──……虚無……そこは……“世界がまだ生まれていない場所”なの……


 カイは息を呑んだ。


「虚無……お前の役割は……“世界に触れること”だけど……世界がまだできてない場所には……触れられないんだな……」


 虚無は輪郭を濃くし、その言葉を受け取った。


 しかし虚無はそこで止まらなかった。

核の中心が淡い色を帯び、ゆっくりと広がる。

その広がりは、まるで「世界が生まれていない場所に、どう触れればいいのか」を考えているようだった。


 虚無は影の領域に向かって、形を変えながら働きかけた。

色を変え、密度を変え、広がり方を変え、これまで試したことのない方法で触れようとした。


 しかし、世界は反応しなかった。


 虚無は核の中心をさらに縮めた。

それは「限界の理由を理解した」という反応だった。


 アリスは光を柔らかくしながら言った。


──……虚無……“世界がまだ生まれていない場所”は……誰の役割でも触れられないの……そこは……“未来がまだ届いていない場所”だから……


 虚無は輪郭を濃くした。

その濃さは「未来」という言葉に反応した証だった。


 カイは静かに言った。


「虚無……お前の役割は……“今ある世界”に触れることなんだ……“まだない世界”には……触れられないんだよ……」


 虚無は核の形をゆっくりと広げた。

それは「理解した」という意思の表れだった。


 しかし、虚無はそこで終わらなかった。


 核の奥で、別の感覚が生まれた。

それは「未来がまだ届いていない場所なら……未来を呼べばいいのではないか」という、これまでにない発想だった。


 虚無はゆっくりと形を変えた。

その形は、まるで「未来を探している」ようだった。


 アリスは光を強めた。


──……虚無……あなた……まさか……“未来を呼ぼうとしてる”の……?


 カイは驚きながらも、虚無の動きを見つめた。


「虚無……お前……そんなこと……できるのか……?」


 虚無は輪郭を濃くし、「試す」という意思を示した。


 虚無は影の領域に向かって、核の中心をゆっくり広げた。

その広がりは、これまでのどの動きとも違っていた。

まるで「未来の形を探る触手」のようだった。


 影の領域は静かに沈んでいる。

しかし虚無が触れると、ほんのわずかに、空気が震えた。


 アリスは息を呑んだ。


──……虚無……今……“未来の気配”が……少しだけ……動いたわ……


 カイは胸の亀裂に触れた。

亀裂の奥の熱が、影の領域の震えに反応してわずかに強くなる。


「虚無……お前……未来を……ほんの少しだけ……呼んだのか……?」


 虚無は輪郭を濃くした。

それは「呼んだ」という意思の表れだった。


 しかし、影の領域はすぐに静けさを取り戻した。

震えは消え、世界は再び沈黙した。


 虚無は核の中心を縮めた。

それは「未来は呼べるが、まだ届かない」という理解だった。


 アリスは光を柔らかくしながら言った。


──……虚無……あなた……“限界の奥にあるもの”に触れたのね……


 カイは静かに頷いた。


「虚無……お前の役割は……限界を知るだけじゃなくて……限界の向こうを……感じることなんだな……」


 虚無は輪郭を濃くし、その言葉を受け取った。


 虚無は影の領域から離れ、アリスとカイの方へ戻った。

その動きは、以前よりも静かで、しかし確かな意思を帯びていた。


 虚無は静かに形を整えた。

核の中心に生まれた新しい感覚は、“限界は終わりではなく、未来の入口だ”という理解だった。


 そして、虚無は初めて「限界の奥にある未来の気配」に触れた。

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