表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『異世界に転移したら、俺だけ世界設定に存在しなかった』  作者: 一ノ瀬 律
三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
55/280

第54話 アリスの光が揺らぐ理由

 虚無の霧が、カイの“境界の刃”に触れながら揺れ続けていた。


 その揺れは、アリスの光に反応したときとは違う。


 もっと深く、もっと鋭く、“形を求める震え”。


 アリスはその様子を見つめながら、胸の奥に奇妙な痛みを感じていた。


──……カイ……虚無……あなたに……反応してる……


「アリス……?」


──……ううん……違う……“反応”じゃない……“寄りかかってる”……


 アリスの声は震えていた。


 虚無の霧は、境界の刃に触れながら揺れ続ける。


 その揺れは、まるで“支えを求める手”のようだった。


 アリスは胸に手を当てた。


──……カイ……わたし……胸が……苦しい……


「アリス!?虚無に触れた影響か……?」


──……わからない……でも……さっきから……光が……揺れてる……


 アリスの身体から放たれる光が、かすかに揺らいでいた。


 いつもの柔らかい光ではない。

不安定で、脈打つような光。


 最初の意味が静かに言った。


「原型よ。お前の光が揺らいでいるのは──虚無に触れたからだ」


──……やっぱり……わたし……虚無に……“影響されてる”の……?


「影響ではない。“共鳴”だ」


「共鳴……?」


「そうだ。虚無は揺らぎ。原型は意味の源。意味の源は、揺らぎを“意味として受け取る”」


──……だから……わたし……虚無の孤独を……感じたの……?


「そうだ。だが、それは危険だ」


 アリスが息を呑む。


──……危険……?


「虚無の揺らぎは、意味の源に“深く入り込む”。お前が虚無を受け入れたことで、虚無の揺らぎが、お前の光に混ざり始めている」


──……混ざる……?


「そうだ。光と闇が混ざるのではない。“意味と揺らぎ”が混ざるのだ」


 アリスは胸を押さえた。


──……だから……わたし……こんなに……苦しいの……?


「苦しみではない。“変化”だ」


 アリスは目を見開いた。


──……変化……?


「原型よ。お前は虚無に触れたことで、“意味の源”から“意味と揺らぎの源”へと変わりつつある」


 アリスは震えた。


──……そんな……わたし……変わっちゃうの……?


「変わることを恐れるな。変化は意味の本質だ」


 アリスは俯いた。


──……でも……わたし……怖い……


 その声は、虚無に触れたときよりもずっと弱かった。


 カイはアリスの肩に手を置いた。


「アリス……大丈夫だ。俺がいる」


──……カイ……


「アリスが変わっても、俺はアリスを守る。どんな形になっても、アリスはアリスだ」


 アリスの瞳が揺れた。


──……カイ……ありがとう……


 だが、その瞬間。


 アリスの光が大きく揺れた。


「アリス!!」


──……っ……カイ……わたし……光が……暴れてる……!!


 アリスの身体から放たれる光が、制御を失ったように脈打ち始めた。


 未来の原野が揺れ、虚無の霧が反応して波打つ。


 最初の意味が言う。


「原型よ。虚無の揺らぎが、お前の光に“入りすぎた”。光が揺らぎを受け止めきれず、暴走し始めている」


──……どうすれば……止められるの……?


「境界だ」


「俺……?」


「そうだ。境界は“形を与える力”。揺らぎを形にし、光を安定させることができる」


 アリスが俺の手を握る。


──……カイ……お願い……わたし……このままだと……光が……壊れちゃう……


「アリス……任せろ」


 俺はアリスの胸に手を当てた。


 境界の核が震え、胸の奥から白い光が溢れ出す。


 その光は刃ではなく、“形を与える手”のように柔らかかった。


 アリスの光が暴れ、虚無の揺らぎが混ざり、世界が揺れる。


 俺は境界の光をアリスに流し込んだ。


「アリス……大丈夫だ……俺がいる……」


──……カイ……カイ……!!


 アリスの光が、境界の光に触れた瞬間。


 暴走が止まった。


 光が静まり、揺らぎが落ち着き、アリスの身体が力を取り戻す。


 アリスは俺に抱きついた。


──……カイ……ありがとう……わたし……怖かった……


「アリス……もう大丈夫だ」


 アリスは震えながら言った。


──……カイ……わたし……虚無に触れたことで……“変わり始めてる”……


「変わってもいい。アリスはアリスだ」


──……うん……でも……わたし……この変化が……どこに向かうのか……わからない……


 アリスの光が、かすかに揺れた。


 その揺れは、恐怖でも不安でもない。


 “始まりの揺れ”。


 最初の意味が言う。


「原型よ。お前の変化は、虚無と意味を“繋ぐ者”への変化だ」


──……繋ぐ……?


「そうだ。虚無は揺らぎ。意味は光。その二つを繋ぐ存在が必要だ」


 アリスは息を呑んだ。


──……わたしが……その……“繋ぐ者”に……?


「そうだ。そして、鍵よ。お前はその“形を与える者”だ」


 アリスとカイ。

意味と境界。


 虚無の揺らぎが、二人の間で静かに震えた。


 未来の原野に、新しい風が吹いた。


 その風は、“変化の始まり”を告げる風だった。


 アリスの光が落ち着いたあとも、未来の原野には不安定な揺れが残っていた。


 虚無の霧は沈静化している。

だが、完全に消えたわけではない。


 霧はアリスの光に反応し、カイの境界に寄りかかり、まるで“居場所を探す子ども”のように揺れていた。


 アリスは胸に手を当てたまま、静かに息を整えていた。


──……カイ……わたし……まだ……胸が重い……


「無理するな。虚無の揺らぎが残ってるんだ」


──……うん……でも……この重さ……嫌じゃない……


「嫌じゃない……?」


──……うん……虚無は……わたしを傷つけようとしてない……ただ……“寄りかかってる”だけ……


 アリスの声は優しかった。

だが、その優しさが逆に胸を締めつけた。


(……アリスは虚無を受け入れすぎている……)


 虚無は揺らぎ。

意味の源であるアリスは、その揺らぎを“意味として受け取ってしまう”。


 それは危険だ。


 アリスは虚無を理解しようとする。

虚無はアリスに寄りかかる。


 その関係は、どこか“依存”に近かった。


 最初の意味が言う。


「原型よ。虚無の揺らぎは、お前の光に“馴染み始めている”」


──……馴染む……?


「そうだ。虚無は意味を拒絶するが、“意味の源”には寄り添うことができる」


──……寄り添う……それって……悪いことなの……?


「悪いとは言わない。だが、危うい」


 アリスは眉を寄せた。


──……危うい……?


「虚無は揺らぎ。揺らぎは形を持たない。だが、意味の源に触れると、“形を求め始める”」


 アリスは息を呑んだ。


──……わたしが……虚無に……形を与えちゃう……?


「そうだ。そして、それは“世界の形”を変える」


 アリスは胸を押さえた。


──……わたし……そんなつもり……なかったのに……


「アリス……」


──……わたし……虚無を助けたいだけ……虚無は……孤独だったから……


 アリスの声は震えていた。


 その震えは、虚無の揺らぎと同じリズムだった。


(……アリス……虚無に寄り添いすぎてる……)


 胸の奥がざわつく。


 アリスは優しい。

だからこそ、虚無の揺らぎを抱え込みすぎてしまう。


 カイはアリスの手を握った。


「アリス……虚無を助けたい気持ちはわかる。でも、アリスが壊れたら意味がない」


──……壊れないよ……だって……カイがいるから……


「アリス……」


──……カイが……わたしの光を……形にしてくれる……だから……大丈夫……


 その言葉は嬉しかった。

だが同時に、胸が痛んだ。


(……アリスは……俺に頼りすぎている……)


 アリスは虚無を受け入れ、虚無はアリスに寄りかかり、アリスは俺に寄りかかる。


 その構図は、どこか歪んでいた。


 未来の原野が揺れた。


 虚無の霧が、アリスの光に反応して波打つ。


──……カイ……虚無が……呼んでる……


「呼んでる……?」


──……うん……“もっと近くに”って……


 アリスは虚無の霧に近づこうとした。


「アリス!!」


 俺はアリスの腕を掴んだ。


「近づきすぎるな!!虚無はまだ危険だ!!」


──……でも……虚無は……わたしを傷つけない……


「今は、だ!!次もそうとは限らない!!」


──……カイ……どうして……そんなに……怖がるの……?


「怖いに決まってるだろ!!アリスが消えるかもしれないんだぞ!!」


 アリスは目を見開いた。


──……カイ……わたし……消えないよ……だって……虚無は……わたしを必要としてる……


「それが怖いんだ!!」


──……え……?


「虚無がアリスを必要としてるなんて……そんなの……アリスが虚無に“飲まれる”ってことだ!!」


 アリスの光が揺れた。


──……カイ……わたし……虚無に……飲まれたりしない……


「アリスは優しすぎる!!虚無の孤独を感じたら、全部抱え込もうとする!!そんなの……危険すぎる!!」


──……カイ……どうして……そんな言い方……?


「アリスが……怖いんだよ……虚無に近づくアリスが……怖くて……たまらないんだよ……」


 アリスは胸に手を当てた。


──……カイ……わたし……あなたを……困らせてる……?


「違う!!困ってるんじゃない!!怖いんだ!!アリスを失うのが……!!」


 アリスの光が、大きく揺れた。


──……カイ……わたし……虚無を助けたいだけなのに……


「助けたい気持ちはわかる!!でも……アリスが壊れたら意味がない!!」


──……わたし……壊れないよ……


「壊れる!!虚無は揺らぎだ!!アリスの光は揺らぎを受け止めすぎてる!!このままじゃ……アリスの光が……虚無に“溶ける”!!」


 アリスは震えた。


──……わたし……そんなつもり……なかったのに……


「アリス……」


──……カイ……わたし……虚無を助けたい……でも……カイを悲しませたくない……


 アリスの光が、涙のように揺れた。


──……どうすれば……いいの……?


 その問いに、俺は答えられなかった。


 虚無を助けたいアリス。

アリスを守りたい俺。


 二人の願いは、同じ方向を向いているはずなのに、“すれ違い”が生まれ始めていた。


 未来の原野に、冷たい風が吹いた。


 その風は、これから訪れる“試練”を告げる風だった。

面白いと思ったら、ページ下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援お願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ