表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『異世界に転移したら、俺だけ世界設定に存在しなかった』  作者: 一ノ瀬 律
三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
54/280

第53話 境界の刃が初めて光る

 虚無の霧がアリスの光に揺れ、未来の原野に静かな波紋が広がっていた。


 暴走は止まった。

だが、虚無は消えていない。


 アリスは虚無の揺らぎを“感じ取る”ことができる。

原型としての力が、虚無の震えを意味として受け取ってしまう。


 その姿を見つめながら、俺の胸の奥で、別の震えが生まれていた。


(……アリスは虚無と触れ合えるのに……俺は……ただ見ているだけなのか……?)


 胸の奥で、静かな痛みが広がった。


 アリスは虚無の揺らぎを感じ、虚無はアリスの光に反応する。


 だが俺は、虚無に触れれば消えるだけだ。


 その事実が、胸に重くのしかかる。


──……カイ……


 アリスが振り返る。


 その瞳は、虚無の揺らぎを映しながらも、俺をまっすぐに見つめていた。


──……大丈夫……?さっきから……胸が痛そう……


「……アリス……俺は……」


 言葉が喉で詰まる。


 アリスは虚無と向き合っている。

虚無の揺らぎを受け止めている。


 だが俺は、ただ見ているだけだ。


 守ることしかできない。

その事実が、胸の奥で重く沈んだ。


 アリスはそっと俺の手を握った。


──……カイ……あなたは……“境界”なんだよ……


「境界……?」


──……うん……わたしが“意味の源”なら……カイは“意味の形”……わたしが光なら……カイはその光を“形にする”力……


 アリスの言葉に、胸の奥がかすかに震えた。


 だが、その震えは不安ではなく、“呼び覚まされる感覚”だった。


 最初の意味が言う。


「鍵よ。お前は“境界の核”を持つ者。原型の光を“世界に落とす形”に変える存在だ」


「……俺が……形……?」


「そうだ。意味は光。だが光だけでは世界にならない。光を“形”にする境界があって初めて、世界は存在する」


 アリスが俺の胸に手を当てた。


──……カイ……あなたの中の“境界”が……揺れてる……


「揺れてる……?」


──……うん……虚無の揺らぎに……反応してる……


 その瞬間、胸の奥がふっと熱を帯びた。

痛みでも恐怖でもない。


 “光が生まれる前の温度”が、静かに目覚めようとしていた。


 未来の原野が揺れた。


 虚無の霧が、俺の胸の光に反応して波打つ。


──……カイ……虚無が……あなたを見てる……


「俺を……?」


──……うん……虚無は……“境界”を……探してる……


 虚無の霧が、ゆっくりと俺の方へ伸びてきた。


 アリスが慌てて俺の前に立つ。


──……だめ!!カイに触れたら……消えちゃう……!!


 だが、虚無の霧は、アリスの光を避けるようにして、俺の胸の前で止まった。


 触れない。

消さない。


 ただ、“見ている”。


 最初の意味が言う。


「虚無は“境界”を恐れている。だが同時に、境界を求めてもいる」


「求めて……?」


「虚無は揺らぎ。揺らぎは形を持たない。だが、形を持つことを“拒絶しているわけではない”」


 アリスが息を呑む。


──……じゃあ……虚無は……“形になりたい”の……?


「違う。虚無は“形になりたい”とも思っていない。ただ、揺らいでいるだけだ。だが、境界が近づくと、揺らぎは“形に近づく”」


 虚無の霧が、俺の胸の前で震えた。


 その震えは、アリスの光に反応したときとは違う。


 もっと鋭く、もっと深く、“形を求める震え”。


 胸の奥の境界の核が、強く脈打った。


(……これは……俺の……力……?)


 アリスが俺の手を握る。


──……カイ……あなたの“境界”が……虚無に触れようとしてる……


「触れたら……どうなる……?」


──……わからない……でも……わたしは……カイを信じてる……


 アリスの言葉が胸に響いた。


 その瞬間、胸の奥の光が爆ぜた。


 境界の核が開き、胸から白い光が溢れ出す。


 光は刃のように鋭く、だが温かかった。


 虚無の霧がその光に触れた。


 霧は消えなかった。

だが、揺れた。


 大きく、深く、“形を求めるように”。


 アリスが息を呑む。


──……カイ……それ……“境界の刃”……


「境界の……刃……?」


──……うん……意味を形にする力……虚無の揺らぎを……“形に導く”力……


 虚無の霧が、境界の刃に触れた。


 霧は震え、その一部が“形”を持ち始めた。


 黒い霧が、薄い影のような輪郭を作る。


 人の形でも、獣の形でもない。


 ただ、“形になろうとする揺らぎ”。


 最初の意味が言う。


「鍵よ。それが“境界の力”。虚無を消すのではなく、虚無を“形に導く”力だ」


 アリスが俺の腕にしがみつく。


──……カイ……あなた……虚無と……“触れ合えてる”……


 虚無の霧が、境界の刃に触れながら揺れ続ける。


 その揺れは、アリスの光に反応したときよりも、

ずっと深い。


 虚無は光を求めていない。

虚無は意味を求めていない。


 だが、“形”には反応する。


 境界の刃が、虚無の揺らぎを“形に近づける”。


 アリスが震える声で言う。


──……カイ……虚無は……あなたを……“必要としてる”……


「俺を……?」


──……うん……虚無は……“形になれない揺らぎ”……でも……カイの境界があれば……“形に近づける”……


 虚無の霧が、境界の刃に触れながら震えた。


 その震えは、まるで“助けを求める手”のようだった。


 未来の原野が揺れた。


 虚無の揺らぎが、境界の刃に導かれ、新しい形を作り始める。


 アリスが俺の手を握る。


──……カイ……わたしたち……虚無と……“向き合える”……


 虚無の霧が、境界の刃に触れながら静かに揺れた。


 その揺れは、言葉ではない。


 だが、確かに“応えている”。


 未来の原野に、新しい風が吹いた。


 その風は、虚無と意味と境界が初めて“同じ場所に立った”ことを告げる風だった。

面白いと思ったら、ページ下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援お願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ