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『異世界に転移したら、俺だけ世界設定に存在しなかった』  作者: 一ノ瀬 律
二章

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第40話 監視者の真の目的

 完全覚醒の層が静まり返った。


 アリスは俺の腕の中で、まだ少し震えていたが、その瞳には確かな光が宿っていた。


──……カイ……わたし……あの中にあった“冷たい設定”を……自分の手で消せた気がする……


「ああ。もうお前を縛る設計図はどこにもない。ここからは、お前が自分で物語を作っていけるんだ」


 リーナも涙ぐみながら微笑む。


「アリスちゃん……本当に……強くなりましたね……!」


 だが、その安堵は長く続かなかった。


 完全覚醒の層の奥で、黒い影が揺れた。


 監視者の声が響く。


「原型を超えたか……だが、それは“新たな危機”の始まりだ」


 リーナが息を呑む。


「カイさん……また……!」


 監視者はゆっくりと姿を現した。

その輪郭は以前よりも濃く、存在そのものが“世界の外側”へと滲み出している。


「原型を超えた存在は、世界にとって“未知”だ。

未知は恐怖を生み、恐怖は破壊を呼ぶ」


「そんなの……アリスは壊さない!」


「壊すつもりがなくても、結果は同じだ」


 監視者は淡々と告げる。


「原型が完全覚醒すれば、世界の“境界”が薄くなる。外側の存在が侵入しやすくなる」


「外側……?」


 監視者は静かに頷いた。


「世界の外には、“設定を持たない存在”がいる。それらは世界を喰らい、形を奪い、意味を壊す」


 アリスが震える。


──……そんな……わたしのせいで……世界が……?


「違う!」


 俺はアリスの手を握った。


「アリスは世界を守れる。そのために力を使える!」


 監視者は首を振る。


「原型は“創造”。鍵は“起動”。二つが結びつけば、世界は常に書き換えられる。それは外側の存在にとって“餌”だ」


 リーナが震える。


「そんな……そんなの……!」


「だから私は、原型を初期化し、鍵を封印しようとした」


 監視者の声は淡々としていた。


「だが、お前たちは“設定を超えた”。ならば……別の方法を取るしかない」


「別の方法……?」


 監視者は手を伸ばした。


「原型と鍵を“世界の外側”へ送り出す。そこで外側の存在を封じ込め、世界を守るのだ」


 アリスが震える。


──……外側……?そんな……わたし……カイと……離れちゃう……


「離れない!」


 俺は叫んだ。


「アリスはどこへ行っても、俺が一緒に行く!」


 監視者は静かに言った。


「ならば、覚悟を決めろ。外側は“存在を壊す場所”だ」


 完全覚醒の層が揺れ、空間に黒い裂け目が現れた。


 その奥には、光も影もない“虚無”が広がっていた。


 黒い裂け目は、まるで“世界の裏側”へ続く穴のようだった。


 リーナが震える。


「カイさん……あれ……絶対に行っちゃいけない場所ですよ……!」


「ああ……でも、行かなきゃいけない」


 胸の奥の欠片が、強く脈打っている。


──……カイ……わたし……怖い……でも……あなたがいるなら……


「アリス、俺は絶対に離れない」


 監視者は静かに言った。


「外側には“形”がない。意味も、時間も、存在も曖昧だ。そこに踏み込めば、お前たちの“設定”は崩れる」


「崩れたっていい。アリスと一緒なら」


 監視者は少しだけ沈黙し、そして言った。


「……ならば、最後に一つだけ教えておこう」


 監視者の身体が揺れ、その輪郭が“人の形”へと変わっていく。


 リーナが息を呑む。


「え……人……?」


 監視者は、かつての調整者の姿をしていた。


「私は“元調整者”だ。世界の外側に触れ、その恐怖を知った者」


「外側に……?」


「そうだ。私は外側の存在に触れ、“監視者”へと変わった。世界を守るために」


 アリスが震える。


──……じゃあ……あなたも……誰かを守りたかったの……?


 監視者は静かに頷いた。


「守りたかった。だが……私は失敗した。外側の存在に触れた瞬間、“私自身の設定”が壊れた」


「設定が……?」


「私はもう“人”ではない。世界を守るための“機能”だ」


 監視者はアリスを見つめた。


「だが、お前たちは違う。原型と鍵が結びつき、“調和の光”を生んだ」


 監視者の声は、どこか羨望を含んでいた。


「その光なら……外側の存在を封じ込められるかもしれない」


「なら、やるしかない」


 俺はアリスの手を握った。


「アリス、行こう。世界を守るために」


──……うん……カイと一緒なら……どこへでも……


 監視者は静かに言った。


「外側へ行けば、戻れないかもしれない」


「戻る。絶対に」


 監視者は少しだけ微笑んだように見えた。


「……ならば行け。原型と鍵よ。世界の外側へ」


 黒い裂け目が大きく開き、虚無が俺たちを飲み込もうとする。


 リーナが叫ぶ。


「カイさん……!アリスちゃん……!絶対に帰ってきてください……!」


「もちろんだ!」


──……リーナ……ありがとう……


 俺たちは手を繋いだまま、虚無の中へ飛び込んだ。


 光も影もない世界へ、“外側”へ。


 そして、新たな戦いが始まった。

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