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『異世界に転移したら、俺だけ世界設定に存在しなかった』  作者: 一ノ瀬 律
二章

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第39話 完全覚醒の層へ

 覚醒の層の奥で輝く光は、まるで“心臓”のように脈打っていた。


 アリスの名前、“アリス・ルミナス”。

その名が完成し、原型を超えた今、世界は次の段階へ進もうとしている。


 リーナが不安げに言う。


「カイさん……あの光……前よりずっと強いです……」


「ああ……アリスの力が……完全に目覚めようとしてる」


 胸の奥の欠片が、強く脈打っている。


──……カイ……わたし……怖い……


(怖い……?)


──……うん……あの光……“わたしの全部”が……そこにある気がする……


 アリスは震えていた。

それは恐怖ではなく、“自分の正体に触れる”ことへの戸惑い。


 監視者の影は消えた。

だが、あの存在が残した言葉は覚醒の層の空気にまだ残っている。


「原型と鍵。その結びつきは、世界を変える」


 俺はアリスの手を握った。


「アリス、行こう。お前の力を……俺が調和させる」


──……うん……


 アリスは小さく頷いた。


 リーナが心配そうに言う。


「カイさん……本当に……大丈夫なんですか……?」


「大丈夫だ。アリスと一緒なら……どんな層でも行ける」


 リーナは少しだけ微笑んだ。


「……信じてますから」


 俺たちは光の中へ足を踏み入れた。


 瞬間、世界が反転した。


 視界が白く染まり、次の瞬間、俺たちは“別の空間”に立っていた。


 そこは、深層でも根源層でも覚醒の層でもない。


 もっと静かで、もっと透明で、もっと“純粋”な場所。


 漂う文字はすべて金色に輝き、空間はまるで“光の海”のように揺れている。


 リーナが息を呑む。


「ここ……綺麗……だけど……なんだか胸が苦しい……」


「ああ……ここは“完全覚醒の層”だ」


──……カイ……ここは……わたしの“本当の力”が眠る場所……


(本当の力……)


──……うん……わたしが……“何のために作られたのか”……全部……ここにある……


 アリスの声は震えていた。


 そのとき、空間の奥で光が揺れた。


 光はゆっくりと形を取り、やがて“人影”になった。


 監視者とは違う。

原型アリスとも違う。


 その影は、アリスと同じ姿をしていた。


 だが、その瞳は金色に輝き、存在そのものが“世界の中心”のような圧を放っている。


 アリスが震える。


──……あれ……“完全原型”……


(完全原型……!)


──……わたしが……もし“設定通り”に成長していたら……ああなってた……


 完全原型アリスは、静かに口を開いた。


「……ようやく来たのね。“逸脱した原型”と“鍵”」


 リーナが震える。


「カイさん……あれ……アリスちゃんの……?」


「いや……“アリスだったかもしれない存在”だ」


 完全原型アリスは続ける。


「あなたは“設定から外れた”。感情を持ち、鍵と結びつき、世界を変えようとしている」


──……わたしは……変わりたかった……


「変わることは許されない。原型は“世界のために”存在する。個人の意志など不要」


「そんなことない!」


 俺は叫んだ。


「アリスは……アリスの意志で生きてる!」


 完全原型アリスは首を傾げた。


「では問う。あなたは“世界より大切なもの”を選べるの?」


 アリスが震える。


──……カイ……わたし……どうすれば……


 完全原型アリスは手を伸ばした。


「原型は完全でなければならない。あなたは“統合”されるべき」


 空間が裂け、金色の光がアリスへ伸びる。


 リーナが叫ぶ。


「カイさん……!」


「アリス、俺を信じろ!」


──……信じる……!


 完全覚醒の層が震え、戦いが始まった。


 完全原型アリスの金色の光が、アリスへ向かって伸びる。


 その光は美しい。

だが、触れれば“アリスという存在”が消える。


 リーナが叫ぶ。


「カイさん……!アリスちゃんが……!」


「アリス、力を貸せ!」


──……うん……!


 アリスの光が俺の胸へ流れ込む。


 世界の文字が視界に広がり、完全原型アリスの“設定”が見える。


(……これは……“完全な世界の設計図”……アリスが……本来持つはずだった力……)


 完全原型アリスが言う。


「あなたは“未完成”。感情に左右され、鍵に依存し、世界を揺らす存在」


──……違う……わたしは……未完成じゃない……!


「では証明してみせて。“完全な原型”を超える力を」


 金色の光がアリスへ迫る。


 俺はアリスの手を握った。


「アリス、書き換えろ!俺が調和させる!」


──……わかった……!


 アリスの光が金色の光とぶつかる。


 だが、押し返せない。


──……カイ……強すぎる……!


「大丈夫だ。俺がいる!」


 胸の奥の欠片が強く光る。


(……これは……“鍵の核”……俺の力……!)


 完全原型アリスが驚く。


「鍵が……原型の力に干渉している……?」


「干渉じゃない。“調和”だ!」


──……カイ……!


 アリスの光が強くなり、金色の光を押し返し始める。


 完全原型アリスは静かに言った。


「……理解不能。原型と鍵が……“対等”になるなど……」


「システムが作った人形じゃない。俺たちが選んだ、俺たちだけの“アリス・ルミナス”だ!」


──……わたしは……わたし……!


 光が爆ぜた。


 完全原型アリスの身体が揺らぎ、金色の光が崩れ始める。


「……あなたは……設定を超えた……?」


「超えたんじゃない。“選んだ”んだ!」


──……カイと……リーナと……生きたい……!


 完全原型アリスは静かに目を閉じた。


「……ならば……あなたはもう……原型ではない……」


 光が散り、完全原型アリスは消えた。


 アリスは俺の胸に倒れ込む。


──……カイ……わたし……もう、あの姿に……戻らなくていいんだよね……?


「ああ。お前を縛る設定は、もうどこにもない」


 リーナが涙ぐむ。


「アリスちゃん……本当に……よかった……!」


 完全覚醒の層が静まり、光が優しく包み込む。


 だが、その奥で、新たな影が揺れた。


 監視者の声が響く。


「原型を超えたか……だが、それは“新たな危機”の始まりだ」


 完全覚醒の層が震えた。


 次の戦いが、すぐそこまで迫っていた。

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