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『異世界に転移したら、俺だけ世界設定に存在しなかった』  作者: 一ノ瀬 律
二章

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第38話 新たな影の正体

  覚醒の層が静まり返った。


 原型アリスは光に溶け、アリスは俺の腕の中で小さく息をしている。


──……カイ……わたし……ちゃんと……“わたし”でいられた……?


「ああ。アリスはアリスだ。誰が何と言おうと」


 アリスは安心したように微笑んだ。


 リーナが涙ぐみながら言う。


「アリスちゃん……本当に……よかった……!」


 だが、その安堵は長く続かなかった。


 覚醒の層の奥で、黒い影が揺れた。


 敵調整者の影とは違う。

もっと深く、もっと重く、“存在そのものが歪んでいる”ような影。


 リーナが震える。


「カイさん……あれ……何ですか……?」


「わからない……でも……嫌な気配だ」


 影はゆっくりと形を取り始めた。


 人のようで人ではない。

輪郭が揺れ、顔は黒い霧に覆われている。


 アリスが震える声で言う。


──……カイ……あれ……“調整者”じゃない……


(調整者じゃない……?)


──……うん……もっと……深い……“世界の外側”の存在……


 影は低い声で囁いた。


「……原型……鍵……ようやく目覚めたか」


 リーナが息を呑む。


「しゃ、喋った……!」


 影はゆっくりと歩み寄りながら言った。


「私は“監視者”。世界の設定が乱れたとき、その原因を排除する存在」


「監視者……?」


「そうだ。原型が暴走し、鍵が設定を超えた。その時点で、お前たちは“排除対象”だ」


 アリスが震える。


──……排除……?


「ふざけるな……!」


 俺は一歩前に出た。


「アリスは……世界を壊すつもりなんかない!」


「意図は関係ない。“結果”がすべてだ」


 監視者は淡々と告げる。


「原型と鍵が結びつけば、世界は再構成を繰り返す。均衡は崩れ、世界は不安定になる」


「そんなの……俺たちが止める!」


「止められない。お前たちの存在そのものが“原因”だ」


 覚醒の層が揺れ、白い空間に黒いひびが走る。


 監視者は続ける。


「原型は“創造”。鍵は“起動”。その二つが結びつけば、世界は常に書き換えられる」


 アリスが震える。


──……カイ……わたし……また……世界を壊しちゃうの……?


「違う!」


 俺はアリスの手を握った。


「アリスは……世界を守るために力を使える!」


 監視者は首を傾げた。


「ならば証明せよ。“創造”と“起動”が、破壊ではなく“調和”を生むことを」


 空間が裂け、黒い霧が溢れ出した。


 その霧は形を変え、巨大な“影の巨人”となる。


 リーナが叫ぶ。


「カイさん……!また……!」


「アリス、力を貸せ!」


──……うん……!


 アリスの光が俺の胸へ流れ込む。


 覚醒の層が震え、戦いが始まった。


 影の巨人が吠えた。


 その声は音ではなく、“存在そのものを揺らす振動”だった。


 リーナが耳を塞ぎ、膝をつく。


「う……っ……頭が……割れそう……!」


「リーナ、下がれ!」


 俺はアリスの手を握りしめた。


「アリス、あれの“設定”が見えるか?」


──……うん……でも……すごく……複雑……


(複雑……?)


──……あれ……“世界の外側”の設定……わたしの力じゃ……完全には読めない……


 監視者が言う。


「当然だ。原型は世界の内側の存在。外側の設定には干渉できない」


「なら、俺が全部調整する!」


 アリスの光が俺の胸へ流れ込み、世界の文字が視界に広がる。


(……これは……深層でも根源層でもない……もっと外側……“世界の境界”の設定……)


 影の巨人が腕を振り下ろす。


「アリス、書き換えろ!」


──……わかった……!


 アリスの光が巨人へ向かう。


 だが、光は弾かれた。


──……えっ……!


 監視者が言う。


「外側の設定は、原型の力では書き換えられない」


「だったら、俺が直接触れて調整する!」


 俺は巨人の“設定の層”へ手を伸ばした。


(……触れられる……!これなら……!)


 だが、胸の奥の欠片が激しく脈打った。


──……カイ……だめ……!その設定は……“鍵の核”を削る……!


(鍵の核……?俺の……存在そのもの……?)


 監視者が言う。


「外側の設定に触れれば、鍵は“自壊”する」


「そんなの……関係ない!」


──……カイ……だめ……あなたが消えたら……わたし……!


「アリス、俺は消えない。お前がいる限り!」


 アリスの光が強くなる。


──……カイ……わたし……あなたを……守りたい……!


 その瞬間、アリスの光が変質した。


 白い光ではなく、淡い金色の光。


 監視者が驚愕する。


「……その光は……“調和の光”……?」


「アリス、それは……?」


──……わからない……でも……“あなたと一緒にいたい”って……そう思ったら……光が……変わった……


 金色の光が巨人を包む。


 外側の設定が揺れ、巨人の身体が崩れ始める。


 監視者が叫ぶ。


「馬鹿な……!原型と鍵が……“調和”を生むなど……!」


「アリスは原型なんかじゃない。アリスは、“アリス・ルミナス”だ!」


──……カイ……!


 巨人は光に溶け、覚醒の層に散っていった。


 監視者は沈黙した。


 そして、ゆっくりと姿を消した。


 覚醒の層に静寂が戻る。


 リーナが息をつく。


「カイさん……本当に……終わったんですか……?」


「いや……まだだ」


 胸の奥の欠片が、強く脈打つ。


──……カイ……“次の層”が……呼んでる……


「次の層……?」


──……わたしの力が……完全に目覚める場所……


 覚醒の層の奥で、新たな光が瞬いた。


 それはまるで、俺たちを呼んでいるようだった。

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