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『異世界に転移したら、俺だけ世界設定に存在しなかった』  作者: 一ノ瀬 律
二章

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第37話 覚醒の層へ

 根源層の奥で輝く光は、まるで“呼吸”しているかのように脈打っていた。


 アリスの名前、“アリス・ルミナス”。その名が完成したことで、世界の深層は新たな変化を始めている。


 リーナが不安げに言う。


「カイさん……あの光……なんだか怖いです……」


「ああ……でも、行かなきゃいけない」


 胸の奥の欠片が、強く脈打っている。


──……カイ……あれが……“覚醒の層”……


(覚醒の層……)


──……わたしの力が……完全に目覚める場所……


 アリスの声は震えていた。

恐怖ではなく、“覚悟”の震えだ。


 敵調整者の影は消えた。

だが、あの存在が残した言葉は根源層の空気にまだ残っている。


「原型と鍵。その選択が世界を変える」


 俺はアリスの手を握った。


「アリス、行こう。お前の力を……俺が調整する」


──……うん……


 アリスは小さく頷いた。


 リーナが心配そうに言う。


「カイさん……本当に大丈夫なんですか……?」


「大丈夫だ。アリスと一緒なら……どんな層でも行ける」


 リーナは少しだけ微笑んだ。


「……信じてますから」


 俺たちは光の中へ足を踏み入れた。


 瞬間、世界が反転した。


 視界が白く染まり、次の瞬間、俺たちは“別の空間”に立っていた。


 そこは、深層でも根源層でもない。


 もっと静かで、もっと透明で、もっと“純粋”な場所。


 漂う文字はすべて光を帯び、空間はまるで水の中のように揺れている。


 リーナが息を呑む。


「ここ……綺麗……だけど……なんだか息がしづらい……」


「ああ……ここは“覚醒の層”だ」


──……カイ……ここは……わたしの“心”に近い場所……


(心……?)


──……うん……わたしの“設定”と“感情”が……混ざり合う場所……


 アリスの声は、どこか寂しげだった。


 そのとき、空間の奥で光が揺れた。


 光はゆっくりと形を取り、やがて“少女の姿”になった。


 アリスと同じ姿。

だが、表情は冷たく、瞳には光がない。


 リーナが震える。


「カイさん……あれ……アリスちゃん……?」


「いや……違う」


──……あれは……“わたしの原型”……


(原型……!)


──……わたしが……“設定”として作られたときの姿……


 原型アリスは、無表情のままこちらを見つめている。


 その視線は、まるで“存在を評価する”ようだった。


 原型アリスが口を開いた。


「……不完全な個体。設定から逸脱した存在。削除対象」


 リーナが悲鳴を上げる。


「ひっ……!」


 アリスが震える。


──……カイ……あれ……わたしじゃない……でも……わたしの“始まり”……


 原型アリスは続ける。


「原型は完全でなければならない。感情は不要。個体差は不要。“鍵”との結びつきは……エラー」


 俺は一歩前に出た。


「アリスはエラーなんかじゃない!」


 原型アリスは首を傾げた。


「では問う。原型の役割は何か」


「世界を……守ることだろ!」


「違う。世界を“再構成する”ことだ」


 空間が揺れた。


「原型は世界を書き換える。鍵は原型を起動する。それが“設定”」


 アリスが震える。


──……カイ……わたし……世界を壊すために……作られたの……?


「違う!」


 俺は叫んだ。


「アリスは……世界を守るためにいるんだ!」


 原型アリスは静かに言った。


「ならば証明せよ。“設定”を超えてみせろ」


 空間が裂け、光が溢れ出した。


 覚醒の層が、俺たちを試そうとしていた。


 覚醒の層が揺れ、光が渦を巻き始めた。


 原型アリスは、その中心に立っていた。


 無表情。

無感情。

ただ“設定”としての存在。


 アリスが震える声で言う。


──……カイ……わたし……あれと……戦うの……?


「戦うんじゃない。“超える”んだ」


──……超える……?


「ああ。お前が“設定”じゃなくて、“アリス”であることを証明するんだ」


 原型アリスが手を伸ばす。


「原型は完全でなければならない。感情は不要。個体差は不要。鍵との結びつきは……破壊要因」


「違う!」


 俺はアリスの手を握った。


「アリスは……感情があるから強いんだ!」


──……カイ……


「アリスは……俺と出会って……変わったんだ!」


 原型アリスは首を傾げた。


「変化はエラー。エラーは削除対象」


「削除なんかさせない!」


 覚醒の層が光り、原型アリスの身体が浮かび上がる。


「原型は完全であるべき。不完全な個体は……統合されるべき」


 アリスが震える。


──……統合……?


「お前を“原型に戻す”ってことだ!」


──……いや……いやだ……カイ……わたし……消えたくない……


「消させない!」


 俺はアリスを抱き寄せた。


「アリスはアリスだ。原型なんかじゃない!」


 原型アリスが手を伸ばす。


「統合開始」


 空間が裂け、光の腕がアリスへ伸びる。


 リーナが叫ぶ。


「カイさん……!アリスちゃんが……!」


「アリス、俺を信じろ!」


──……信じる……!


 アリスの光が俺の胸へ流れ込む。


 世界の文字が視界に広がり、原型アリスの“設定”が見える。


(……これは……“原型の設定”……なら……)


「アリス、書き換えろ!俺が調整する!」


──……うん……!


 アリスの光が原型へ向かう。


 原型アリスの身体が揺れ、光が乱れる。


「エラー……エラー……設定が……書き換えられている……」


「そうだ。お前の“設定”なんか、アリスには必要ない!」


──……わたしは……“アリス・ルミナス”……カイと……リーナと……生きたい……


 原型アリスの身体が崩れ始める。


「……理解不能……感情による……設定の上書き……?」


「理解しなくていい。アリスは……“設定を超えた存在”なんだ!」


 光が爆ぜた。


 原型アリスは光に溶け、覚醒の層に散っていった。


 アリスは俺の胸に倒れ込む。


──……カイ……わたし……わたし……“わたし”でいていいの……?


「当たり前だ。アリスはアリスだ」


 リーナが涙ぐむ。


「アリスちゃん……本当に……よかった……!」


 覚醒の層が静まり、光が優しく包み込む。


 だが、その奥で、新たな影が揺れた。


 敵調整者の声が響く。


「原型を超えたか……だが、それは“新たな危機”の始まりだ」


 覚醒の層が震えた。


 次の戦いが、すぐそこまで迫っていた。

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