第35話 根源層の真実
世界が反転した。
深層のさらに奥、“根源層”と呼ばれる場所へ、俺たちは落ちていった。
落下というより、“吸い込まれる”感覚に近い。
光も影もない。
ただ、白い空間が無限に広がっている。
リーナが震える声で言う。
「ここ……どこなんですか……?深層より……もっと静かで……怖い……」
「根源層だ。世界の“最初の設定”が眠る場所」
俺自身も、この空間の圧に息を呑んでいた。
漂う文字は一切ない。代わりに、“白紙”のような空間が広がっている。
アリスの声が震える。
──……ここ……わたし……知ってる……
(知ってる……?)
──……わたしが……最初に“生まれた場所”……
胸の奥が熱くなる。
(アリス……ここで……?)
敵調整者の影が、白い空間の中にゆっくりと姿を現した。
「ようこそ、根源層へ。ここは“世界の始まり”だ」
リーナが息を呑む。
「世界の……始まり……?」
「そうだ。世界の設定が書かれ、存在が定義される場所。そして、アリス・ルミナスが生まれた場所だ」
アリスの声が震える。
──……わたし……ここで……“設定”された……
影は続ける。
「アリス・ルミナス。世界を書き換える“原型”。世界の均衡を保つために作られた存在」
「作られた……?」
影は静かに頷く。
「そうだ。アリスは“人間”ではない。世界のために作られた“設定の器”だ」
リーナが震える。
「そんな……アリスちゃんは……ちゃんと感情があって……優しくて……人間と同じじゃないですか……!」
影は冷たく言う。
「感情は“設定”だ。与えられたものにすぎない」
──……違う……わたしは……わたしだ……
アリスの声が震えながらも、確かな意志を持って響いた。
影は続ける。
「そして、カイ。お前もまた“設定された存在”だ」
「……俺も?」
胸の奥の欠片が、強く脈打った。
「アリス・ルミナスを“起動”させる鍵。それが、お前の本来の役割だ」
リーナが驚愕する。
「カイさんが……鍵……?」
影は淡々と告げる。
「アリスが暴走したとき、その力を制御できる唯一の存在。それが“鍵”だ」
(俺が……アリスを制御する……?)
──……カイ……わたし……あなたに……会うために……作られたの……?
アリスの声が震えている。
影は静かに言った。
「そうだ。お前たちは“対”として作られた。原型と鍵。書き換えと調整。世界を保つための二つの存在」
胸の奥が熱くなる。
(俺とアリスは……最初から……)
影は続ける。
「だが、お前たちは“設定”から外れた。アリスは感情を持ち、お前は彼女を守ろうとした」
リーナが言う。
「それの何が悪いんですか……!」
「悪い。設定から外れた存在は、世界を壊す」
深源層が震えた。
「だから、アリスを“初期化”する」
影が手を伸ばした。
アリスの身体が光に包まれ、引き寄せられていく。
──……カイ……助けて……!
「アリス!!」
俺はアリスの手を掴んだ。
影が言う。
「鍵よ。選べ。アリスを守るか、世界を守るか」
白い空間が揺れ、世界が二つに割れようとしていた。
アリスの身体は光に包まれ、影の方へ引き寄せられていく。
俺は必死に手を握りしめた。
「アリスを……離さない!」
影は静かに言う。
「鍵よ。その選択は“世界の命運”を決める」
「そんなの……関係ない!」
「関係ある。アリスを守れば、世界は再構成される。世界を守れば、アリスは初期化される」
リーナが叫ぶ。
「そんな二択……おかしいです……!」
影は淡々と告げる。
「世界とは、常に“選択”だ」
──……カイ……わたし……怖い……消えたくない……でも……世界を壊したくない……
アリスの声が震えている。
(アリス……)
影が言う。
「鍵よ。お前の役割は“調整”だ。原型を制御し、世界を守るために存在する」
「俺は……そんなために生まれたんじゃない!」
「では何のためだ?」
「アリスを守るためだ!」
影は静かに笑った。
「それが“設定から外れた”証拠だ」
根源層が揺れ、白い空間に亀裂が走る。
アリスの声が震える。
──……カイ……わたし……あなたと……いたい……
胸が締めつけられる。
(アリス……俺も……お前といたい)
影が言う。
「ならば選べ。アリスか、世界か」
その瞬間、胸の奥の欠片が強く光った。
(……これは……?)
アリスの声が響く。
──……カイ……それ……“鍵の核”……
(鍵の……核……?)
──……あなたは……わたしを“起動”させるためじゃない……“わたしと世界を繋ぐため”に作られた……
「アリス……?」
──……だから……あなたなら……“どっちも守れる”……
影が驚愕する。
「馬鹿な……鍵が……原型と世界を同時に……?」
胸の奥の光が広がり、俺とアリスを包む。
リーナが叫ぶ。
「カイさん……!アリスちゃん……!」
俺はアリスの手を強く握った。
「アリス、俺たちは“設定”じゃない。俺たちは……俺たちの意志で決める!」
──……うん……!
光が爆ぜた。
根源層の白い空間が揺れ、世界の文字が一斉に現れる。
影が叫ぶ。
「やめろ!!それは“設定の否定”だ!!」
「設定なんか知らない!アリスは……アリスだ!!」
アリスの声が響く。
──……カイ……ありがとう……あなたと一緒なら、わたしは“人でいられる”……
光が根源層を満たし、影の身体が揺らぐ。
「……愚か者どもが……だが……その愚かさが……世界を変えるのかもしれんな……」
影は光に飲まれ、姿を消した。
根源層の光が静まり、アリスの身体が俺の腕の中に落ちてくる。
──……カイ……ありがとう……
「アリス……!」
リーナが駆け寄る。
「カイさん……!アリスちゃん……!」
アリスは微笑んだ。
──……わたし……あなたと……世界を……守りたい……
根源層の光が消え、世界が再び動き始めた。
だが、影の残した言葉が胸に残る。
「鍵と原型。その選択が……世界を変える」
俺たちの戦いは、まだ終わっていなかった。
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