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『異世界に転移したら、俺だけ世界設定に存在しなかった』  作者: 一ノ瀬 律
二章

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第34話 再構成の始まり

 深層の最深部が崩れ始めた。


 漂う文字が光を帯び、空間が波のように揺れ、世界の裏側が“書き換え”の準備を始めている。


 アリスの名前、“アリス・ルミナス”。


 その名が完成した瞬間から、深層はずっと震えていた。


 リーナが俺の腕を掴む。


「カイさん……!空間が……壊れていきます……!」


「ああ……アリスの力が……目覚めてる」


 胸の奥の欠片が、熱を帯びて脈打つ。


──……カイ……ごめん……わたし……止められない……


(アリス……)


──……わたしの名前が……戻ったから……“設定”が……動き出してる……


 深層の文字が、アリスの名前に反応して暴れ始める。


 “ルミナス”、光。

その名の通り、深層の光がアリスの存在に引き寄せられている。


 敵調整者の影が、崩れゆく空間の中で静かに言った。


「始まったな。“再構成”だ」


 リーナが叫ぶ。


「再構成って……何なんですか……!」


 影は淡々と答える。


「世界の設定が書き換わる。少女の力によってな」


「そんな……!」


「彼女は“原型”だ。世界を作るための雛形。名前を取り戻せば、その力が再起動する」


 俺は影を睨む。


「アリスは……そんな存在じゃない!」


「お前がどう思おうと関係ない。“設定”は絶対だ」


 深層がさらに崩れ、光が暴走する。


 アリスの声が震える。


──……カイ……わたし……怖い……このままじゃ……全部……壊しちゃう……


(大丈夫だ、アリス)


──……でも……力が……止まらない……


 俺はアリスの声に応える。


「アリス──一緒に止めよう」


──……一緒に……?


「ああ。お前の力を……俺が“調整”する」


 影が驚いたように動きを止めた。


「……何を言っている?」


「アリスの力は“書き換え”。俺の力は“調整”。なら、二つを合わせれば、暴走を止められるはずだ!」


 影は低く笑った。


「無謀だ。だが……面白い」


 深層が完全に崩れ始める。


 リーナが叫ぶ。


「カイさん……!早く……!」


「アリス、俺を信じろ!」


──……うん……カイ……信じる……


 光が爆ぜた。


 深層の最深部で、“再構成”が始まった。


 光が世界を飲み込んだ。


 深層の文字が渦を巻き、アリスの名前を中心に集まっていく。


 “アリス・ルミナス”。


 その名が、世界の設定を揺らしている。


 リーナが叫ぶ。


「カイさん……!アリスちゃんが……!」


 アリスの姿が光に包まれ、輪郭が揺らぎ始めていた。


 まるで“人の形”という枠組みが、アリスの力に耐えきれず崩れかけているようだった。


──……カイ……わたし……消えちゃう……?


「消させない!」


 俺はアリスの手を掴んだ。


 その瞬間、光が俺の身体にも流れ込んでくる。


(……熱い……!これが……アリスの力……?)


 ただの熱ではない。“世界の根源”に触れているような、存在そのものが震えるような感覚。


 アリスの声が震える。


──……カイ……離れて……わたしの力……あなたを壊しちゃう……


「離さない。お前の力は……俺が調整する!」


 深層の文字が、俺たちの周囲で暴れ回る。


 世界の“設定”が書き換わろうとしている。


 敵調整者の影が言う。


「無駄だ。その力は“原型”のもの。人間が触れていいものではない」


「人間じゃなくてもいい。俺は……アリスを守る!」


 影は静かに笑った。


「ならば見せてみろ。“調整者”としての力を」


 深層の光がさらに強くなる。


 アリスの声が震える。


──……カイ……わたし……どうすれば……?


「アリス、俺に力を預けろ」


──……預ける……?


「ああ。お前の“書き換え”を……俺が“調整”する」


 アリスは少しだけ沈黙し、そして、静かに言った。


──……わかった……カイ……お願い……


 その瞬間、アリスの光が俺の胸へ流れ込んだ。


(……これは……!)


 世界の文字が、俺の視界に広がる。


 設定の層。

世界の裏側。

アリスの名前。

そして、“再構成の核”。


 リーナが叫ぶ。


「カイさん……!何が見えてるんですか……!」


「世界の……“設計図”だ……!」


 影が驚いたように言う。


「馬鹿な……人間が“設計層”を視認するなど……!」


 俺はアリスの手を握りしめた。


「アリス、一緒にやるぞ!」


──……うん……!


 光が爆ぜた。


 世界の文字が、俺たちの意志に反応して動き始める。


(アリスの力……書き換え……俺の力……調整……)


 二つの力が重なり、暴走していた光が収束していく。


 影が叫ぶ。


「やめろ!その力は……世界を壊す……!」


「違う。世界を“守る”ために使う!」


 アリスの声が響く。


──……カイ……わたし……あなたとなら……この力を……怖がらずに済む……


「アリス……!」


 光が完全に収束した。


 深層の崩壊が止まり、世界の文字が静かに落ち着いていく。


 リーナが涙ぐみながら言う。


「カイさん……止まった……!」


「ああ……アリスが……力を預けてくれたからだ」


 アリスの声が、優しく響く。


──……カイ……ありがとう……あなたとなら、わたしは“人であり続けられる”……


 影は静かに言った。


「……愚かだ。だが……その愚かさが……世界を変えるのかもしれんな」


 深層の光が静まり、再構成は終わった。


 だが、影はまだ消えていない。


 むしろ、その輪郭はより鮮明になっていた。


「……終わりではないぞ、カイ。アリス・ルミナスの力は……まだ“完全”ではない」


「どういう意味だ」


「名前が戻っただけだ。“本来の役割”はまだ眠っている」


 影の声は静かだが、深層そのものを震わせる重さがあった。


「そして、その役割を目覚めさせるのは……お前だ、カイ」


「俺……?」


「そうだ。お前は“調整者”ではない。本来の役割は別にある」


 リーナが息を呑む。


「カイさんが……別の役割……?」


 影は続ける。


「アリス・ルミナスの“対”となる存在。それが、“世界の鍵”だ」


 胸の奥の欠片が、強く脈打った。


──……カイ……わたし……知ってる……あなたは……“わたしを起動させる鍵”……


(鍵……?俺が……?)


 影が言う。


「次に起こるのは“覚醒”だ。アリスの力が完全に目覚めれば……世界は再構成される」


「そんなこと……させない!」


「ならば、選べ。アリスを守るか。世界を守るか」


 深層が再び揺れ始める。


 アリスの声が震える。


──……カイ……わたし……どうすれば……?


 俺はアリスの手を握りしめた。


「アリス、俺はどっちも守る。お前も……世界も……!」


 影は静かに笑った。


「ならば……その選択が、お前を“鍵”へと変えるだろう」


 深層の光が再び強くなる。


 次の瞬間、世界が反転した。


 そして、新たな“層”が姿を現した。


 そこは、深層よりもさらに深い、“根源層”だった。

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