第2話 観測者と、存在しない俺
光の中に立つ男は、まるで空気そのものを押し返すような存在感を放っていた。
黒い外套。星の光をそのまま形にしたような瞳。
俺を“認識できる”唯一の存在。
「……設定外の転移者。お前は、ここにいてはならない」
その声は静かで、しかし世界の震えよりも重かった。
「待てよ……俺はただ、気づいたらここにいて……!」
「それが問題だ」
観測者は一歩近づく。
黒い霧が彼の足元に触れた瞬間、霧は音もなく消滅した。
「この世界は“設定”によって成り立っている。本来存在しないお前は、世界法則の外側にある。だから排除プロトコルが起動した」
「……じゃあ、お前は何なんだよ」
「観測者。世界設定書の外側から、世界の整合性を監視する者だ」
世界設定書。
その単語が、頭の奥で引っかかった。
「お前をこのまま放置すれば、世界は崩壊する。だから本来なら、ここで“削除”するべきだ」
観測者の手がゆっくりと上がる。
その指先に、星の光が集まっていく。
終わる──そう思った瞬間。世界が、また揺れた。
観測者の動きが止まる。
「……干渉が入ったか」
「干渉?」
「お前を“保護”しようとする意志がある。この世界の内部からだ」
観測者は空を見上げた。
星の光がひとつ、またひとつ揺れている。
「……面倒だな。内部の意志が動いている以上、今ここで処理するわけにはいかない」
観測者は手を下ろした。
「設定外の転移者、カイ。一時的に“観測保留”とする。だが勘違いするな。お前は依然として、この世界に存在してはならない」
その言葉を残し、観測者の姿は光の粒となって消えた。
黒い霧も、世界の震えも、すべてが嘘のように消えていく。
残されたのは、静かな森と──
膝から崩れ落ちる俺だけだった。
「……存在しては、ならない……?」
その言葉が胸に刺さったまま、意識が遠のいていく。
最後に見えたのは、森の奥から駆け寄ってくる誰かの影。
その影が俺の名を呼んだ気がした。
──そして、俺は倒れた。
面白いと思ったら、ページ下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援お願いします!




