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『異世界に転移したら、俺だけ世界設定に存在しなかった』  作者: 一ノ瀬 律
一章

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第2話 観測者と、存在しない俺

 光の中に立つ男は、まるで空気そのものを押し返すような存在感を放っていた。

 黒い外套。星の光をそのまま形にしたような瞳。


 俺を“認識できる”唯一の存在。


「……設定外の転移者。お前は、ここにいてはならない」


 その声は静かで、しかし世界の震えよりも重かった。


「待てよ……俺はただ、気づいたらここにいて……!」


「それが問題だ」


 観測者は一歩近づく。

黒い霧が彼の足元に触れた瞬間、霧は音もなく消滅した。


「この世界は“設定”によって成り立っている。本来存在しないお前は、世界法則の外側にある。だから排除プロトコルが起動した」


「……じゃあ、お前は何なんだよ」


「観測者。世界設定書の外側から、世界の整合性を監視する者だ」


 世界設定書。

その単語が、頭の奥で引っかかった。


「お前をこのまま放置すれば、世界は崩壊する。だから本来なら、ここで“削除”するべきだ」


 観測者の手がゆっくりと上がる。

その指先に、星の光が集まっていく。


 終わる──そう思った瞬間。世界が、また揺れた。


 観測者の動きが止まる。


「……干渉が入ったか」


「干渉?」


「お前を“保護”しようとする意志がある。この世界の内部からだ」


 観測者は空を見上げた。

星の光がひとつ、またひとつ揺れている。


「……面倒だな。内部の意志が動いている以上、今ここで処理するわけにはいかない」


 観測者は手を下ろした。


「設定外の転移者、カイ。一時的に“観測保留”とする。だが勘違いするな。お前は依然として、この世界に存在してはならない」


 その言葉を残し、観測者の姿は光の粒となって消えた。


 黒い霧も、世界の震えも、すべてが嘘のように消えていく。


 残されたのは、静かな森と──


 膝から崩れ落ちる俺だけだった。


「……存在しては、ならない……?」


 その言葉が胸に刺さったまま、意識が遠のいていく。


 最後に見えたのは、森の奥から駆け寄ってくる誰かの影。


 その影が俺の名を呼んだ気がした。


 ──そして、俺は倒れた。

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