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『異世界に転移したら、俺だけ世界設定に存在しなかった』  作者: 一ノ瀬 律
一章

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2/13

第1話 世界に拒まれた瞬間

 目を開けた瞬間、世界が変わった。


 眩しい光の中で、俺はただ立ち尽くしていた。

 さっきまでいた教室も、友達の声も、机の木目も、全部消えている。


 代わりに広がっていたのは、見たこともない空だった。

群青より深く、夜より静かで、昼なのに星のような光が輝いている。


 その空の下で俺の目の前に“文字”が浮かび上がった。


 心臓が跳ねた。

 まさか、本当に異世界転移なんて。


 だが次の瞬間、俺は理解した。


 これは異世界転移じゃない。異常だ。


 浮かび上がったステータス画面には、何もなかった。


名前:____

種族:未登録

職業:未登録

レベル:――

スキル:――


 全てが空白。

 まるで俺という存在が、この世界に“登録されていない”みたいに。


「……は?」


 そのとき、森の奥から魔物が現れた。

 黒い狼のような影。

牙を剥き、俺に向かって一直線に走ってくる。


 恐怖で足がすくむ。


 だがその瞬間、狼は俺の身体をすり抜けた。

風だけが残り、狼はそのまま後ろの木に激突した。


「……え?」


 俺を見ていない。

いや、俺を“存在として認識できていない”。

 その証拠に、狼は俺の目の前を通り過ぎても、まるでそこに何もないかのように素通りした。


 その瞬間、頭の中に声が響いた。

――判定:対象は“存在しない”ため、世界法則の適用外とします。


「俺はここにいる。息もしている。なのに、存在……しない?」


 だが声は続く。

――警告。設定外の存在を確認。排除プロトコルを起動します。


 世界が、俺を拒んだ。


 そのとき、空の星のような光がひとつ揺れた。

まるで誰かが、俺を“見つけた”かのように。


 空の光が揺れた瞬間、世界が震えた。


 地面が低く唸り、森の木々がざわめく。

まるで“世界そのもの”が俺の存在を探しているようだった。


――排除プロトコル、第一段階を開始します。


 頭の中に響く声は、感情の欠片もない。

ただ淡々と、俺を“消す”ための手続きを進めている。


「待てよ……俺、何もしてないだろ……!」


叫んでも、返事はない。


 森の奥から、黒い霧のようなものが溢れ出した。

霧は地面を這うように広がり、触れた草木を音もなく溶かしていく。


――世界法則の外側にある存在を検知。空間の整合性を維持するため、削除処理を実行します。


「削除……って、俺を……?」


 足が震えた。

逃げなきゃ。でも、どこへ?


 俺はこの世界に“存在しない”。

なら、どこに逃げても意味がないんじゃないか。


 黒い霧が迫る。

触れたら終わりだと、本能が叫んでいた。


「……っ!」


 俺は反射的に走り出した。

だが、走りながら気づく。


 地面に足音が残らない。草が俺の体を避けるように揺れる。


 この世界は、本当に俺を“存在”として扱っていない。


 そのとき――


「動くな」


声がした。


 どこからともなく、しかし確かに俺に向けられた声。

世界が俺を認識できないはずなのに。


「……誰だ?」


 黒い霧が目前まで迫る中、空の星のような光がひとつ、すっと降りてきた。


 光は人の形を取り、俺の前に立つ。

そして、はっきりと言った。


「ようやく見つけた。設定外の転移者。」


 その瞬間、黒い霧が光に触れ、弾かれるように消えた。


 世界に拒まれた俺を、世界の外側から“認識できる”存在が現れたのだ。

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