第1話 世界に拒まれた瞬間
目を開けた瞬間、世界が変わった。
眩しい光の中で、俺はただ立ち尽くしていた。
さっきまでいた教室も、友達の声も、机の木目も、全部消えている。
代わりに広がっていたのは、見たこともない空だった。
群青より深く、夜より静かで、昼なのに星のような光が輝いている。
その空の下で俺の目の前に“文字”が浮かび上がった。
心臓が跳ねた。
まさか、本当に異世界転移なんて。
だが次の瞬間、俺は理解した。
これは異世界転移じゃない。異常だ。
浮かび上がったステータス画面には、何もなかった。
名前:____
種族:未登録
職業:未登録
レベル:――
スキル:――
全てが空白。
まるで俺という存在が、この世界に“登録されていない”みたいに。
「……は?」
そのとき、森の奥から魔物が現れた。
黒い狼のような影。
牙を剥き、俺に向かって一直線に走ってくる。
恐怖で足がすくむ。
だがその瞬間、狼は俺の身体をすり抜けた。
風だけが残り、狼はそのまま後ろの木に激突した。
「……え?」
俺を見ていない。
いや、俺を“存在として認識できていない”。
その証拠に、狼は俺の目の前を通り過ぎても、まるでそこに何もないかのように素通りした。
その瞬間、頭の中に声が響いた。
――判定:対象は“存在しない”ため、世界法則の適用外とします。
「俺はここにいる。息もしている。なのに、存在……しない?」
だが声は続く。
――警告。設定外の存在を確認。排除プロトコルを起動します。
世界が、俺を拒んだ。
そのとき、空の星のような光がひとつ揺れた。
まるで誰かが、俺を“見つけた”かのように。
空の光が揺れた瞬間、世界が震えた。
地面が低く唸り、森の木々がざわめく。
まるで“世界そのもの”が俺の存在を探しているようだった。
――排除プロトコル、第一段階を開始します。
頭の中に響く声は、感情の欠片もない。
ただ淡々と、俺を“消す”ための手続きを進めている。
「待てよ……俺、何もしてないだろ……!」
叫んでも、返事はない。
森の奥から、黒い霧のようなものが溢れ出した。
霧は地面を這うように広がり、触れた草木を音もなく溶かしていく。
――世界法則の外側にある存在を検知。空間の整合性を維持するため、削除処理を実行します。
「削除……って、俺を……?」
足が震えた。
逃げなきゃ。でも、どこへ?
俺はこの世界に“存在しない”。
なら、どこに逃げても意味がないんじゃないか。
黒い霧が迫る。
触れたら終わりだと、本能が叫んでいた。
「……っ!」
俺は反射的に走り出した。
だが、走りながら気づく。
地面に足音が残らない。草が俺の体を避けるように揺れる。
この世界は、本当に俺を“存在”として扱っていない。
そのとき――
「動くな」
声がした。
どこからともなく、しかし確かに俺に向けられた声。
世界が俺を認識できないはずなのに。
「……誰だ?」
黒い霧が目前まで迫る中、空の星のような光がひとつ、すっと降りてきた。
光は人の形を取り、俺の前に立つ。
そして、はっきりと言った。
「ようやく見つけた。設定外の転移者。」
その瞬間、黒い霧が光に触れ、弾かれるように消えた。
世界に拒まれた俺を、世界の外側から“認識できる”存在が現れたのだ。
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