表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『異世界に転移したら、俺だけ世界設定に存在しなかった』  作者: 一ノ瀬 律
一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
20/171

第19話 調整者、最初の揺らぎ

 光が収まったとき、俺は神殿の石床の上に立っていた。

足元の冷たさが、現実へ引き戻すようにじわりと伝わってくる。

胸の奥の欠片は、以前よりも静かで、深いところで脈打っていた。


 観測者は俺の前に立ち、静かに言った。


「調整者としての“最初の任務”が発生した」


 その声はいつも通り淡々としているのに、どこか急いているようにも聞こえた。


「任務……?」


「世界の揺らぎが、神殿の外で発生している。お前が調整者として認められた瞬間、世界は“次の修正点”を示した」


 観測者が手をかざすと、空中に淡い光が集まり、ひとつの“地図”が浮かび上がった。


 地図は、村と神殿を含む周辺の地形を示している。

その一角が、黒い染みのように揺れていた。


「……森……?」


「境界の森だ。お前が神殿へ来る前に通った場所。あの森で“揺らぎ”が拡大している」

 

 胸がざわつく。


(……あの森……俺が通ったときも、空間が歪んでいた……)


 観測者は続けた。


「揺らぎの中心には“空白の穴”が生まれている。放置すれば、周囲の存在が削られ、森そのものが消える」


「森が……消える……?」


「存在が薄れ、記録が失われ、やがて“なかったこと”になる」


 背筋が冷たくなる。


「調整者の役割は、揺らぎを修正し、世界の破綻を防ぐこと。お前は、最初の揺らぎを“閉じる”必要がある」


 観測者は俺を見据えた。


「行け。世界は、お前の行動を待っている」


 その言葉と同時に。


「カイさん!」


 扉が開き、リーナが駆け込んできた。

息を切らし、頬を赤くしている。


「カイさん……!調整者になったって……本当なんですか……?」


 俺は頷いた。


「本当だ。世界に……認められた」


 リーナの瞳が潤む。


「よかった……本当に……よかった……!」


 その声は震えていた。

安堵と喜びと、少しの不安が混じっている。


 観測者はリーナに視線を向けた。


「少女。お前の“願い”は、世界に届いた」


「え……?」


「お前がカイを“存在してほしい者”として見たことが、世界の選択に影響を与えた」


 リーナは驚いたように目を見開いた。


「わ、私が……?」


「世界は、関わった者の感情を読み取る。お前の願いは、確かに刻まれた」


 リーナは胸に手を当て、少し震えながら言った。


「……よかった……本当に……」


 観測者は続けた。


「だが、調整者の任務は危険だ。お前は彼のそばにいるべきではない」


 リーナは顔を上げた。


「嫌です」


 観測者の瞳がわずかに揺れた。


「危険だと言っている」


「危険でも……私はカイさんのそばにいたいんです」


 その声は、震えているのに強かった。


「カイさんは……私を見てくれた。触れられなかったときも、存在が揺らいでいたときも……私を見ようとしてくれた」


 リーナは俺の手を握った。


「だから……今度は私が、カイさんを見たいんです」


 胸が熱くなる。


(……リーナ……)


 観測者はしばらく沈黙し、やがて言った。


「……調整者の任務に同行することは許可されない。だが、“見守る”ことは妨げない」


 リーナは小さく息を呑んだ。


「見守る……?」


「お前の存在は、カイの欠片を安定させる。だが、近づきすぎれば揺らぎを増幅させる。距離を保てば、彼の力になる」


 リーナは俺を見た。


「……行きましょう、カイさん」


 俺は頷いた。


「行こう」


 観測者が手を上げると、空中の地図が消えた。


「揺らぎは、境界の森の奥にある。お前が通った道の“先”だ」


「先……?」


「お前が通ったとき、森はお前を拒んだ。だが今は違う。調整者としての“道”が開かれる」


 観測者は静かに言った。


「行け。世界の揺らぎを、正せ」


 俺は深く息を吸い、リーナとともに神殿を出た。


 森へ向かう道は、以前よりも静かだった。

風の音も、鳥の声も、木々のざわめきもない。

まるで森全体が息を潜めているようだった。


 リーナが不安そうに言った。


「……森の空気が……変です……」


「ああ。揺らぎが広がってる」


 森の奥へ進むにつれ、空気が重くなっていく。

足元の土が柔らかくなり、木々の影が揺れ、

視界の端で“何か”が動いた気がした。


 やがて、森の奥に“穴”が見えた。


 黒い。

深い。

光を吸い込むような穴。


 周囲の木々は色を失い、葉は灰のように崩れている。


「……これが……揺らぎ……?」


 リーナが息を呑む。


「違う。これは“揺らぎの入口”だ」


 胸の奥の欠片が脈打つ。


(……呼ばれてる……)


 穴の奥から、声がした。


──返して……


 少女の声。


──返して……返して……!


 リーナが震える声で言った。


「カイさん……あの声……」


「ああ。彼女だ」


 穴の奥から、冷たい風が吹き出す。風は森の色を奪い、空気を震わせ、世界の輪郭を削っていく。


 俺は一歩、穴へ踏み出した。


「行くよ、リーナ」


「……はい……!」


 リーナは俺の手を握り、強く頷いた。


 穴の奥へ進むと、世界が揺れた。


 空間が歪み、光がねじれ、

音が遅れて届く。


 そして、穴の中心に、少女が立っていた。


 白い髪。

黒い瞳。

影のような輪郭。


 だが、以前よりも“はっきり”している。


──返して……


 少女は俺を見た。


──返して……返して……!


 その声は、痛みと怒りと、そして“願い”が混じっていた。


 リーナが震える声で言った。


「カイさん……あの子……泣いてます……」


 少女の頬を、透明な涙が伝っていた。


 俺は一歩、少女へ近づいた。


「……話をしよう」


 少女は涙を流しながら、俺を見つめた。


──返して……返して……返して……!


その声は、叫びではなく、“助けて”と同じ響きを持っていた。


 胸の奥の欠片が強く脈打つ。


(……彼女を……救わなきゃ……)


 俺は少女に手を伸ばした。


「返せない。でも、お前を救う方法を、一緒に探す」


 少女の瞳が揺れた。


──……たすけて……?


「助ける。お前を“消えたまま”にはしない」


 少女は震える声で言った。


──……こわい……


「大丈夫だ。俺がいる」


 少女の影が揺れ、涙が光った。


──……ありがとう……


 その瞬間、穴の奥から、黒い“何か”が飛び出した。


 影の塊。

揺らぎの化身。


 世界の歪みそのもの。


 リーナが叫んだ。


「カイさん!!」


 俺は少女を庇い、影の前に立った。


(……これが……調整者としての……最初の戦い……!)


 胸の奥の欠片が光る。


 世界が揺れる。


 そして、影が襲いかかってきた。

面白いと思ったら、ページ下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援お願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ