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『異世界に転移したら、俺だけ世界設定に存在しなかった』  作者: 一ノ瀬 律
一章

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第18話 第三の試練、世界の選択

 光の奔流に飲み込まれたあと、足元の感覚がふっと消えた。

落ちているのか、浮いているのか、それすら曖昧なまま、世界の輪郭が遠ざかっていく。

音も匂いも温度もない。

ただ、白い“余白”だけが広がっていた。


(……ここが……第三の試練……)


 第一の試練は“自分自身との対峙”。

第二の試練は“揺らぎとの対話”。

そして第三の試練は。


「“世界の選択”だ」


 声がした。


 振り返ると、観測者が立っていた。

黒い外套は風もないのに揺れ、瞳は星のように光っている。

だが、いつもの冷静さとは違う“緊張”がその表情に宿っていた。


「ここは“世界の深層”。世界設定書の根幹に近い場所だ」


 観測者が手をかざすと、白い空間に“線”が走った。

線はゆっくりと広がり、巨大な円形の“盤”が浮かび上がる。


 盤は透明で、内部には無数の文字が流れていた。

文字は言語ではなく、概念そのもののように見える。

触れれば意味が伝わり、離れれば霧のように消える。


「これは“世界の選択盤”。世界が、お前をどう扱うかを決める場所だ」


「……世界が……俺を?」


「そうだ。お前を“調整者”として迎えるか、“異物”として排除するか、世界が判断する」


 胸の奥の欠片が、静かに脈打つ。


(……世界が……俺を選ぶ……?)


 観測者は続けた。


「だが、世界は“意思”を持たない。世界の選択は、世界に刻まれた“記憶”と“揺らぎ”によって決まる」


「記憶……?」


「お前がこの世界に来てから起きたすべての出来事。村の反応。リーナの視線。神殿の判断。白い髪の少女の干渉。それらすべてが、世界の“判断材料”になる」


 胸が重くなる。


(……俺の存在が……世界にどう映っているか……それで決まる……?)


 観測者は盤の中央を指した。


「世界は、お前の“存在の軌跡”を読み取る。その結果、お前を“必要”と判断すれば、調整者として迎える。“不要”と判断すれば──」


 観測者は言葉を切った。


「お前は消える」


 胸が締めつけられる。


(……ここが……本当の分岐点……)


 観測者は静かに言った。


「だが、世界は“お前だけ”を見て判断するわけではない」


「……どういうことだ?」


「世界は“関わった者たち”の感情も読み取る。お前が誰にどう影響したか。誰が、お前をどう見ているか。それらすべてが、選択盤に刻まれる」


 その瞬間、盤の内部に“光”が生まれた。


 光はゆっくりと形を取り、リーナの姿になった。


「……リーナ……!」


 リーナは盤の中で、俺の方を見ていた。

その瞳は、あの日と同じように揺れている。


──カイさん……私は……あなたを見ていますから……


 その声が、盤の中から響いた。


 胸の奥の欠片が強く脈打つ。


 観測者が言った。


「リーナの“願い”が、世界に刻まれている。彼女はお前を“存在してほしい者”として見ている」


 盤の光が強くなる。


 だが、次の瞬間、盤の別の場所に“影”が生まれた。


 白い髪の少女。


 彼女は盤の中で、胸を押さえながら呟いた。


──返して……返して……返して……


 その声は、痛みと喪失の色を帯びていた。


 観測者が言った。


「彼女の“喪失”も、世界に刻まれている。お前が欠片を抱えたことで、彼女は“空白”になった。その痛みもまた、世界の判断材料だ」


 盤の光と影がぶつかり合い、空間が揺れる。


(……リーナの願い……少女の喪失……どちらも……俺のせい……)


 観測者は静かに言った。


「世界は、お前の“存在の重さ”を測っている。お前が誰を救い、誰を傷つけ、どんな未来をもたらすか、それを見ている」


 盤の内部で、光と影が渦を巻き始めた。


 リーナの声。


──カイさん……生きてください……


 少女の声。


──返して……返して……!


 光と影がぶつかり、盤が震える。


 観測者が言った。


「カイ。世界は“お前の意思”も求めている。お前がどう生きたいか。誰を救いたいか。何を選び、何を捨てるか」


 胸の奥の欠片が脈打つ。


(……俺は……どうしたい……?)


 盤の光が強まり、影が揺れ、世界が震える。


 観測者が言った。


「言え。世界に示せ。お前は、“何を選ぶのか”」


 胸が熱くなる。


 リーナの願い。

少女の喪失。

俺の存在。


 全部が胸の奥で渦を巻く。


 俺は、ゆっくりと口を開いた。


「……俺は……」


 盤の光が揺れる。


「俺は、“二人とも救いたい”」


 観測者が目を見開いた。


「世界に選ばれるためじゃない。調整者になるためでもない。ただ、俺がそうしたいからだ」


 盤の光が強くなる。


「リーナを守りたい。少女を救いたい。どちらかだけなんて……選べない」


 影が揺れ、少女の姿が震える。


──……救う……?


「救う。お前を“消えたまま”にはしない。リーナを“揺らぎに巻き込んだまま”にもしたくない」


 盤の光が爆ぜる。


「俺は、“二人を救う存在”になりたい」


 その瞬間、盤が強く光った。


 光が空間を満たし、影を押し返し、世界が震える。


 観測者が呟いた。


「……世界が……お前を“選んだ”……」


 盤の光が収まり、中央に一つの文字が刻まれた。


 それは、“調整者”。


 胸の奥の欠片が、静かに脈打つ。


 観測者が言った。


「カイ。お前は今、正式に“調整者”となった」


 世界が揺れた。


 だが、それは拒絶でも恐怖でもない。


 世界が、俺を“迎え入れた”揺れだった。

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