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『異世界に転移したら、俺だけ世界設定に存在しなかった』  作者: 一ノ瀬 律
七章

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第156話 核が目覚めた世界で

 核が目覚めた瞬間、世界は静かになった。

静かすぎて、最初は音が消えたのかと思ったほどだった。


 けれど違う。

音が消えたのではなく、世界が、リーナの核の鼓動に合わせて呼吸していた。


 淡い光がゆっくりと流れ、色が静かに揺れ、空気が柔らかく震えている。


 リーナは核の中心に立っていた。

カイの手を握ったまま、胸の奥の鼓動を確かめるように息を吸った。


「……世界が……変わってる……」


 声は震えていた。

けれど、恐怖だけではなかった。

驚きと、安堵と、痛みと、期待が混ざった声だった。


 カイはリーナの横顔を見つめた。

光に照らされた頬が、淡く揺れている。

涙の跡がまだ残っているのに、その瞳はまっすぐ前を見ていた。


「リーナの核が目覚めたからだ。世界が……リーナに合わせてる」


 リーナはゆっくりと周囲を見渡した。


 そこには、形のない光が漂っていた。

色は淡く、輪郭は曖昧で、触れれば消えてしまいそうなほど脆い。


 けれど、その光は、確かにリーナ自身だった。


 影が静かに言った。


「リーナ……きみの核が目覚めたことで、アステル全体が揺れ始めているよ」


 アークが続けた。


「今まで閉じていた領域が開き始めている。きみが触れられなかった記憶や感情が……流れ出している」


 セイルは優しく微笑んだ。


「リーナ。きみは今、自分の中心を取り戻したんだよ」


 リーナは胸に手を当てた。

鼓動が強くなる。

核の揺れと完全に同期している。


「……こんなに……あったんだ……私の中に……」


 声が震えた。

涙がこぼれた。


「……こんなに……たくさんの感情が……眠ってたんだ……」


 カイはリーナの手を握り返した。


「リーナは……ずっと優しすぎたんだ。誰かのために使うことばかりで……自分のために使うことを忘れてた」


 リーナは唇を噛んだ。

涙が光に溶けていく。


「……だって……怖かったんだよ……自分の感情を見たら……壊れちゃう気がして……」


 カイは静かに言った。


「壊れないよ。リーナは……ずっと壊れなかった。閉じてただけだ」


 リーナは震える息を吐いた。

その息は、核の光を揺らした。


「……カイ……」


 名前を呼ぶ声は、泣きそうで、強くて、弱くて、優しかった。


「……私……これから……どうなるの……?」


 カイはリーナの手を握りながら、核の揺れを見つめた。


「リーナの核が目覚めたことで……アステルが変わり始めてる。きみの感情が戻ってきてる。きみの中心が……形になってる」


 リーナは震える声で言った。


「……アステルが……私の中に合わせてるの……?」


 影が頷いた。


「そうだよ。アステルはリーナの内側の世界。きみが変われば、世界も変わる」


 アークが続けた。


「今まで閉じていた領域が開き始めている。きみが触れられなかった記憶や感情が……流れ出している」


 セイルは優しく微笑んだ。


「リーナ。きみは今、自分の中心を取り戻したんだよ」


 リーナは涙を拭い、核の中心を見つめた。


「……これから……私は……どうすればいいの……?」


 カイはリーナの手を握り返した。


「リーナの核は……まだ完成してない。形は見えたけど……まだ揺れてる。まだ不安定だ」


 リーナは息を呑んだ。


「……じゃあ……」


 カイは静かに言った。


「これからは……リーナ自身が核を“選ぶ”んだ」


 リーナは震える声で言った。


「……選ぶ……?」


 影が頷いた。


「そう。核は固定されたものじゃない。きみが何を思い、何を選び、何を望むかで形が変わる」


 アークが続けた。


「きみが自分自身をどう受け止めるかで……核は完成する」


 セイルは優しく言った。


「リーナ。きみは今、自分の中心に触れた。ここから先は……きみ自身が決めるんだよ」


 リーナは胸に手を当てた。

鼓動が強くなる。

核の揺れがそれに応えるように震える。


「……私……自分の核を……選ぶ……?」


 カイは頷いた。


「リーナならできる。ずっと閉じてた自分自身を……今、開いたんだ」


 リーナは涙をこぼした。


「……怖い……」


 カイはリーナの手を握り返した。


「怖くていい。怖いままでいい。リーナは……ずっとそうやって進んできた」


 リーナは震える息を吐いた。


「……カイ……一緒にいてくれる……?」


 カイは迷わず頷いた。


「もちろんだ。リーナの核だろ。最後まで一緒に行く」


 リーナは涙を拭い、核の中心へ一歩踏み出した。


 光が揺れた。

色が弾けた。

世界が震えた。


 そして、リーナの核は、ゆっくりと“選ばれる準備”を始めた。


 核の揺れは、リーナの胸の奥だけでなく、アステル全体へと静かに広がっていった。


 光の粒が空気の中で震え、色がゆっくりと流れ、世界そのものが、リーナの核の脈動に合わせて呼吸している。


 リーナはその中心に立ち、カイは隣で揺れる光の海を見つめていた。


 その時だった。


 世界が、変わった。


 揺れではない。

震えでもない。

もっと大きく、もっと深く、もっと“構造そのもの”が変わるような感覚だった。


 リーナが息を呑んだ。


「……今の……何……?」


 影が静かに言った。


「リーナ。きみの核が……世界設定に触れた」


 アークが続けた。


「アステルの内側だけじゃない。外側の世界にも……きみの核の揺れが届いている」


 セイルは少しだけ不安そうにリーナを見た。


「リーナ。きみの核は……外側の世界を揺らし始めてる」


 リーナは胸に手を当てた。


「……外側……?」


 カイはその言葉に、胸の奥が強く揺れた。


 外側、それは、俺がずっと立っていた場所だ。

世界設定に存在しなかった俺が、誰にも認識されず、誰にも触れられず、ただ“例外”として漂っていた場所。


 リーナはカイを見た。


「……カイ……何か……感じる……?」


 カイはゆっくりと息を吸った。


 胸の奥が熱い。

痛いほど熱い。

それは、アステルの揺れとは違う。

もっと大きく、もっと深く、もっと“世界そのもの”の揺れだった。


「……感じる。外側が……揺れてる」


 リーナは目を見開いた。


「……外側が……?」


 カイは頷いた。


「リーナの核が目覚めたことで……外側の世界が、リーナを“認識し始めてる”」


 影が静かに言った。


「リーナ。きみの核は……外側の世界設定に触れた。今まで閉じていた領域が……開き始めている」


 アークが続けた。


「そして……その影響は、外側の“例外”にも届いている」


 セイルはカイを見た。


「カイ。きみの存在が……揺れに触れてる」


 リーナは息を呑んだ。


「……カイの……存在が……?」


 カイはゆっくりとリーナの手を握った。


「リーナの核が目覚めたことで……外側の世界が、俺を“存在として扱い始めてる”」


 リーナは震える声で言った。


「……じゃあ……カイは……」


 カイは静かに言った。


「俺は……もう“世界設定に存在しない”だけの存在じゃなくなるかもしれない」


 リーナは涙をこぼした。


「……そんなの……ずっと……望んでた……」


 カイはリーナの手を握り返した。


「俺もだ。ずっと……リーナの世界に触れたかった」


 リーナは震える声で言った。


「……じゃあ……カイは……私の核が目覚めたから……ここに来れたの……?」


 カイは頷いた。


「リーナの核が……俺を“存在として認めた”からだ」


 影が静かに言った。


「リーナ。きみの核は、外側の世界設定に“例外”を許した。だからカイはここに来れた」


 アークが続けた。


「きみの核が目覚めたことで……世界設定そのものが揺れ始めている」


 セイルは優しく微笑んだ。


「リーナ。きみは……カイを世界に連れてきたんだよ」


 リーナは涙をこぼした。


「……私が……カイを……?」


 カイはリーナの手を握りながら言った。


「リーナの核が……俺を“存在として扱った”。だから俺は……ここに来れた」


 リーナは震える声で言った。


「……じゃあ……カイは……これから……どうなるの……?」


 カイはゆっくりと息を吸った。


 胸の奥が熱い。

痛いほど熱い。

それは、世界設定が揺れている証だった。


「……わからない。でも……ひとつだけ確かなことがある」


 リーナは涙を拭いながら、カイを見つめた。


「……何……?」


 カイはリーナの手を握り返した。


「俺は……もう“例外”じゃなくなる。リーナの核が……俺を世界に繋げたからだ」


 リーナは息を呑んだ。


「……カイ……」


 カイは静かに言った。


「リーナ。きみの核が目覚めたことで……俺は世界に“存在する”ようになる」


 リーナは涙をこぼした。


「……そんなの……ずっと……望んでた……」


 カイはリーナの手を握り返した。


「俺もだ。ずっと……リーナの世界に触れたかった」


 リーナは震える声で言った。


「……じゃあ……これから……一緒に……?」


 カイは頷いた。


「一緒に行く。リーナの核が選ばれる場所まで。世界が変わる場所まで」


 リーナは涙を拭い、核の中心を見つめた。


「……行こう……カイ……」


 カイはリーナの手を握り返した。


「行こう。リーナの核へ。世界の中心へ」


 光が揺れた。

色が弾けた。

世界が震えた。


 そして、リーナの核は、二人を“次の領域”へ導き始めた。

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