第155話 核の内部へ
光の道は、リーナとカイが手を繋いだ瞬間から、まるで別のものになった。
それまで揺れていた色は、二人の歩みに合わせて静かに脈打ち、足元の光は、二人の影を包むように柔らかく広がった。
リーナは自分の手を握るカイの温かさを確かめながら、胸の奥の鼓動が強くなるのを感じていた。
「……カイがいる……」
その事実だけで、世界の色が変わって見えた。
影の色でも、アークの色でも、セイルの色でもない。
自分自身の色が、カイの存在に触れて揺れ始めていた。
カイはリーナの横顔を見つめながら歩いた。
リーナの髪が光を受けて淡く揺れ、その揺れが核の脈動と同じリズムで震えているのがわかった。
「リーナ……怖くないか」
リーナは少しだけ笑った。
涙の跡がまだ残っているのに、その笑顔は強かった。
「……怖いよ。でも……カイがいるから……行ける」
カイはその言葉に胸が熱くなるのを感じた。
ずっと届かなかった声。
ずっと触れられなかった手。
ずっと見えなかった瞳。
それが今、隣にあった。
光の道がふっと揺れた。
揺れは、リーナの胸の奥の鼓動と同じリズムだった。
そして、その揺れに合わせるように、核がゆっくりと形を変え始めた。
輪郭が伸びる。
色が濃くなる。
光が脈打つ。
まるで、核そのものが二人を迎え入れる準備をしているようだった。
リーナは息を呑んだ。
「……こんなに……近かったんだ……」
カイはリーナの手を握り直した。
「リーナの核だ。ずっと……ここにあったんだ」
リーナは胸に手を当てた。
鼓動が強くなる。
核の揺れと完全に同期している。
影が静かに言った。
「リーナ……きみは今、核の“外側”にいる。ここから先は……きみ自身の中心だよ」
アークが続けた。
「核は、きみが何者なのかを示す場所。誰かのためじゃなく……きみ自身のために存在する場所だ」
セイルは優しく微笑んだ。
「リーナ。ここから先は……きみがずっと閉じていた“本当の自分”だよ」
リーナは震える息を吐いた。
怖さと期待が混ざった息だった。
「……カイ……一緒に行ってくれる……?」
カイは迷わず頷いた。
「もちろんだ。リーナの核だろ。俺も……知りたい」
リーナは涙をこぼした。
それは悲しみではなく、ずっと閉じていた扉が開く時の涙だった。
「……ありがとう……」
二人が核へ近づくほど、光が濃くなった。
色が揺れ、空気が震え、世界が静かになっていく。
そして、核の“入口”が現れた。
それは扉ではなかった。
壁でもなかった。
ただ、光が薄く膜のように揺れているだけだった。
リーナはその膜を見つめた。
「……これ……私の……中心……?」
影が頷いた。
「そうだよ。きみがずっと触れられなかった場所。きみが閉じた自分自身が眠っている場所だ」
アークが言った。
「ここを越えれば……きみは“本当の自分”に触れられる」
セイルはリーナの肩に手を置いた。
「リーナ。行こう。きみの核へ」
リーナは震える手を伸ばした。
カイもその手を握ったまま、核の膜へ手を伸ばした。
触れた瞬間、世界が揺れた。
光が弾けた。
色が溢れた。
空気が震えた。
リーナは息を呑んだ。
「……あったかい……」
カイも同じ感覚を感じていた。
「……リーナの……感情だ……」
膜は二人の手を拒絶しなかった。
むしろ、二人の手を包むように柔らかく広がった。
リーナは涙をこぼした。
「……ずっと……怖かった……自分の中心に触れるの……」
カイはリーナの手を握り返した。
「俺がいる。リーナの核だ。怖くない」
リーナは頷いた。
涙を拭い、核の膜へ一歩踏み出した。
膜が二人を包んだ。
光が揺れた。
色が弾けた。
そして、二人は核の内部へ入った。
世界が変わった。
そこは、リーナの記憶でも、感情でも、影でも、アークでも、セイルでもない。
ただ、“リーナ自身”だけが存在する場所だった。
光が静かに揺れ、色がゆっくりと流れ、空気が柔らかく震えていた。
リーナは息を呑んだ。
「……ここ……私……?」
カイはリーナの横顔を見つめた。
「リーナの中心だ。ずっと……ここにあったんだ」
リーナは震える声で言った。
「……私……こんな場所……持ってたんだ……」
影が静かに言った。
「うん。きみはずっと、自分の中心を閉じていた。誰かのために生きることばかりで……自分のために生きることを忘れていた」
アークが続けた。
「だから、核は眠っていた。きみ自身が触れられなかったからだ」
セイルは微笑んだ。
「でも今は違う。きみは自分自身を閉じるのをやめた。だから……核が目覚めたんだよ」
リーナは涙をこぼした。
「……私……やっと……自分になれるの……?」
カイはリーナの手を握った。
「なれるよ。リーナは……ずっとリーナだった。今はそれを思い出すだけだ」
リーナは涙を拭い、核の中心へ歩き出した。
光が揺れた。
色が弾けた。
世界が震えた。
そして、リーナの核が、完全に姿を現した。
それは形ではなく、色でもなく、光でもなく。
ただ、“リーナ自身”だった。
リーナは息を呑んだ。
「……これ……私……」
カイは静かに頷いた。
「リーナの核だ。ずっと……ここにあったんだ」
リーナは震える声で言った。
「……触れても……いいの……?」
影が微笑んだ。
「リーナ。これはきみ自身だよ。触れられないはずがない」
リーナは震える手を伸ばした。
カイもその手を握ったまま、核へ手を伸ばした。
触れた瞬間、世界が光に包まれた。
リーナの核が脈打ち、色が溢れ、光が弾け、世界が震えた。
リーナは涙をこぼした。
「……あったかい……」
カイはリーナの手を握り返した。
「リーナ自身の……あたたかさだ」
核は二人を包んだ。
光が揺れ、色が流れ、世界が静かに震えた。
そして、リーナの核は、完全に目覚めた。
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