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予知能力で彼女を寝取られる未来を見た ~諦めて他のSS級美少女たちを救ってたら、なぜか執着され始めた件~  作者: おなきく


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第84話 独立①

「えええええっ――!? 結月ゆずきも一緒にれんの家で暮らすって!?」


 一階に下りて食卓を囲むと、俺はさっき部屋で起きた出来事を手短に説明した。

 もちろん、結月が泣いていたことや、精神的に不安定そうだったことまでは伏せた。

 すると案の定、和花のどかは身を乗り出し、素っ頓狂な声を上げた。


 結月がうつむいた。


「ごめんね、和花。私、邪魔はしないから……」


 そんなふうに謝られては、和花もそれ以上強く出られなかったのだろう。

 乗り出していた上体を、すっと引いた。

 正直、どう考えてもビンタの一つくらい飛んできてもおかしくない話だった。

 もしかすると、相手が結月だからこそ、和花も矛先を向けきれないのかもしれない。


「蓮がそう決めたなら構わないけど……でも、私だけ仲間外れにされるみたいで、ちょっと嫌かも……」


 和花が箸先を唇に当てたまま、ぷくりと頬を膨らませた。

 しかも、目元までじわりと潤みはじめている。


 ヤバい。

 これはガチの嫉妬だ。


 慌てて「の、和花!」と声をかけようとした、そのときだった。

 そこへ、母さんが割って入った。


「もう、うちの息子ったら! 誰に似てこんなに女心が分からないのかしら。そこはのどちゃんも一緒に暮らそうって言うところでしょ」


 いや、母親の立場なら、そこはむしろ止めるところじゃないのか。

 和花が泣きそうになっているから、どうにか場を収めようとしたのだろうか。

 そもそも、のどちゃんなんて呼び方を、いつの間に覚えたんだ。


「分かった。和花も一緒に暮らそう。もちろん、ご両親の許可がもらえたらだけど。俺も一緒に説得するから」

「ほ、本当に? えへ、えへへ……。なんだか大人の階段を上ってる気分、いいかも……」


 和花がだらしなく頬を緩めた。

 それを見て、俺は心の中で深く安堵の息をついた。

 ……とはいえ、初めてまともにご挨拶へ伺う用件が、いきなり同棲の許可だなんて、ハードルが高すぎないか?


「そういえば、あゆみさんにも許可を取らないとな」

「それは心配ないです。ラインで報告したら、大丈夫だって返ってきましたから」


 結月がスマホを取り出し、俺に差し出した。


 ―――もともと蓮くんのことは、お婿さんみたいに思っていたから構わないわ。蓮くんなら万が一のことがあっても、ちゃんと責任を取ってくれるだろうし。


 あゆみさん、俺への信頼が厚すぎるだろ……。

 とにかく反対されると色々と厄介だから、俺としては助かるけど。


「ところで蓮くん」


 愛理あいりがおかずを頬張ったまま言った。


「へあはどうふゅるの?」

「……何だって? ちゃんと飲み込んでからしゃべれよ」

「だってすごく美味しいんだもの。和花さんのご飯」


 それは認めるが。


 愛理がごくんと飲み込んでから、言葉を続けた。


「部屋はどうするの? 空き部屋、もうないんじゃない?」

「うーん……やっぱり、三人まとめて愛理の部屋に、っていうのはキツいよな」

「なるほど。だったら、こうしましょう。北山きたやまさんと和花さんは今の私の部屋に泊まって、私は蓮くんと――」

「なるわけないでしょ、先輩!! 三人一緒ならともかく、先輩とだけはダメですから!!」


 和花が椅子を鳴らして立ち上がり、眉間にしわを寄せた。

 結月は戸惑いながら俺と母さんを見比べ、小さな声で言った。


「わ、私は、無理に蓮と一緒に暮らさなくても大丈夫ですから……」

「ダメだ。結月も絶対いなきゃダメ。反論は聞かない」

「え? あ、は、はい……」


 思いのほか強く出た俺に、和花と愛理が目を丸くした。

 結月をできるだけそばに置いておきたい理由に、トラウマを克服させたいという気持ちがあるのも嘘ではない。

 だが本当は、彼女をひとりにした隙に、取り返しのつかないことが起きるのではないかと恐れていた。

 少しでも、俺の目の届くところにいてほしかったのだ。


「蓮、いっそこうしたらどう?」


 母さんがもう一度割り込んできた。


「この際、一人暮らししなさい。――いいえ、独立しなさい」

「え?」

「え? じゃないわよ。まあ、少し早いかもしれないけど、いつかはしなきゃいけないことだし」


 いや、早すぎると思うんだけど。


「お金のことなら、あんたが自分でどうにかできるでしょ。それに、女の勘で言わせてもらうと、あんたの嫁たち、一生あんたを手放す気なさそうだし。ならもう結婚したのと同じじゃない?」

「俺、いつの間に既婚者になったの?」

「とにかく、あんたの嫁たちだってわざわざ義両親と一緒に暮らしたくはないでしょ。嫁たちのためにも、独立してあんたたちだけで暮らしなさい」

「とりあえず母さんの考えは分かった。父さんは?」

「そもそもこの案、お父さんが言い出したのよ」

「ん? 父さんが?」


 どうしてだ?

 うちの父さんはむしろ保守的な方のはずなのに。

 父さんはいつも、まずは学生としての本分を守れって言っていたし。


「夜中に若い女の子と家の中で鉢合わせするたびに、心臓が縮み上がるって言ってたのよ。やっぱりお父さん、かなり気を遣ってるみたい」」

「あ……」


 確かに、母さんなら同性だからまだしも、父さんにとっては気まずいことこの上ないだろう。


「お父さんのためにも独立しなさい」

「……まあ、分かった。でも俺、不動産の知識も経験もほとんどないから、物件探しは少し母さんに手伝ってほしい」

「分かったわ。あ、そうだ。これ受け取っておきなさい」


 母さんが席を立ち、寝室へと消えた。

 ほどなくして、一封の封筒を手に戻ってきた。


「はい、これ」

「え? 何?」


 受け取った封筒の口を開ける。

 中身を見た瞬間、思わず目を見開いた。

 ――現金が入っていた。


「お祝い金よ。独立するんだから、親としてこれくらいはしてあげたいと思って」

「母さん……」

「あんたが結婚したら渡そうと思って、昔から少しずつ貯めてきたのよ。今じゃもうお父さんよりずっと稼いでるから、正直、意味があるのか迷ったけど……でもやっぱり、こういうのは気持ちの問題だから」


 思わず鼻の奥がツンとした。

 こみ上げてくるものを持て余していると、ふと、ある考えがよぎった。


「……一体いつから俺を独立させようと思ってたの?」


 どうにも準備がよすぎる気がする。


「あんたたちが、とうとう一線を越えたんじゃないかって思ったときよ」

「……」


 やっぱり一階に丸聞こえだったのか。

 今度は別の意味で、顔が熱くなってきた。



 ◇



 それから一週間後。

 俺たちはふたたび心愛ここあさんのマンションに集まり、前と同じように夏休みの宿題に取りかかっていた。

 俺と結月、心愛さんは詰まることもなくサクサク進めていたが――


「あー、疲れた!」


 和花がテーブルに突っ伏して、ギブアップを宣言した。

 続いて愛理も両腕をぐっと後ろへ伸ばし、そのままごろんと床に転がった。


「蓮くん、私、熱出たかも」

「知恵熱?」

「そうかも」


 時計を見ると、思いのほか時間が経っていた。

 そろそろ休憩を入れるべきだろう。


 そのタイミングを見計らったように、心愛さんが席を立った。


「それじゃあ少し休みましょう! 実は今日、皆さんに振る舞おうと思って、お菓子を作っておいたんですよ!」

「え? お菓子??」


 死んだ魚のようだった和花の目が、たちまち光を取り戻した。

 結月もぱっと顔を上げ、心愛さんを見つめた。

 そういえば、二人ともスイーツ好きだったな。


「そこまで期待しないでくださいね! 正直、市販品ほどは美味しくないと思いますから」

「でも手作りなんでしょ? ちょっと期待しちゃうかも」


 愛理が相変わらず寝転がったまま、首だけ和花の方へ向けた。


「あら、和花さんはお菓子作れないの? 料理は得意なのに」

「先輩、料理とお菓子作りは全然違いますよ! 私もお菓子のことは詳しくありませんけど、料理なら目分量で入れても、あとから味を調整できるじゃないですか?」

「お菓子はそれができないの?」

「はい。グラム単位で正確に量らないといけないし、味が微妙でも、焼き上がってからじゃ修正がきかないんですよ。生地の状態で味見しても、焼き上がりの味は分かりにくいですし」


 それは俺も知らなかった話で、思わず聞き入ってしまった。

 ところが、その説明にいちばん目を丸くしていたのは、当の心愛さんだった。


「へえ、そうなんですね! 初めて知りました!」

「いや、お菓子手作りしたんじゃないんですか」

「蓮様、一からあたしが全部配合したわけないじゃないですか! 市販のミックスを使ったんですよ~」


 いやまあ、考えてみればそれもそうか。

 市販のミックスでも、忙しい中でわざわざ焼いてくれたのだから、その気持ちだけで十分ありがたかった。


 やがて心愛さんが、皿を載せたお盆をキッチンから運んできた。

 皿の上には、色とりどりのクッキーと、きれいに切り分けられたパウンドケーキが並んでいた。


「「おお……」」


 見た目は、なかなか様になっている。

 甘いものにさほど興味のない俺から見ても、十分美味しそうだった。


 みんなが同時に皿へ手を伸ばした、そのとき――


「あ、ちなみに味の保証はできませんよ!」


 心愛さんの言葉に、俺たち全員の手がぴたりと止まった。

 代表して、俺が尋ねる。


「どうしてですか?」

「だって、あたしも味見してないですから! それに、お菓子を作ったの、今回が初めてなんですよ!」

「……」


 一瞬ためらったものの、俺は真っ先にクッキーを一つ手に取り、口へ運んだ。

 市販のミックスで、レシピ通りに作ったなら、そうそう失敗はしないはずだ。

 それに、心愛さんは意外となんでも器用にこなす人だから。

 俺は彼女を信じることにした。


「普通に美味しいよ」

「そ、そう?」

「ここで蓮くんが口から泡を吹いて倒れたら、ラブコメとして完成するのにね」

「それ、いつの時代のラブコメだよ、愛理……」


 パウンドケーキも、クッキーに負けず劣らず美味しかった。

 やっぱり心愛さんも多才だ。

 愛理とは方向性が違うだけで、本質的には似た者同士なのかもしれない。


 それから、みんなでお菓子をつまみながら他愛もない話をした。


「蓮様、独立するって言ってたじゃないですか。どこに住むんですか?」

「そうですね……通学圏内で、ある程度の広さがあって、セキュリティのしっかりしたマンションを探してるんですけど、なかなか難しいですね」


 どうしても、どこかしら条件に引っかかる。

 遠すぎる。設備が足りない。隣人が妙に怪しい。

 理由は毎回違うけれど、どれも決め手に欠けた。

 良い物件を見つけるには、どうやらもう少し時間がかかりそうだ。


「じゃあじゃあ、蓮様! ここのマンションはどうですか?」

「え?」


 心愛さんが無邪気な笑みを浮かべた。


「あたしと同じマンションに住めばいいんですよ!」

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