表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
予知能力で彼女を寝取られる未来を見た ~諦めて他のSS級美少女たちを救ってたら、なぜか執着され始めた件~  作者: おなきく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/61

第43話 不安な二人

 結月ゆずきのノートを握りしめる手が、ガタガタと震えていた。


「こ、こんなの私じゃない……」


 俺だって、最初は信じられなかった。

 だが、もがけばもがくほど最悪の結末へと転がり落ちていく。

 幾度もそんな『悪夢』を突きつけられれば、いやでも認めざるを得ない。

 結月は、そういう裏切りができる人間なのだと。


「信じるか信じないかは、お前の自由だ」

「れ、れん!私、昔から今まで、ずっと蓮一筋だよ。長澤ながさわ先輩にあそこまでなびくなんて、絶対にあり得ない!」

「それは昔から今までの話だろ。未来のお前じゃなくて」

「うっ……」


 そう、今の結月には何の非もないかもしれない。

 だが、だからといって確定した最悪の未来をそのまま受け入れられるほど、俺の器は大きくない。


「お前が教えてくれって言うから、教えただけだ」

「だ、だけど、こんなの……」

「もう分かっただろ?どうして俺が一ヶ月もあんなおかしな真似をしてたのか」

「ご、ごめん、あの時はよく分かりもしないでおかしくなったって言って……」

「謝る必要はない」


 俺を見つめる結月から目を逸らしたまま、言葉を続けた。


「お前が俺を頭のおかしいやつ扱いしようが、もう関係ないからな」

「ち、違うよ!私、蓮をそんな風には見てない。少なくとも今は、蓮の言葉もこのノートも全部信じる。ただ、どうしても信じられなくて……」


 初めて彼女に予知能力についてほのめかした時、彼女が向けてきた視線を今でも鮮明に覚えている。

 だからこそ、今の彼女の態度をそのまま鵜呑みにはできなかった。

 正直、俺の言葉を信じているというよりは、未練があって信じたふりをしているだけなんじゃないかとも思えた。


「で、でも、蓮。今日みたいに悪い未来は変えられるんじゃないの?」

「そこに書いてあるだろ、俺が一ヶ月間何をしてきたか。俺にできることはほとんど全部やったけど、全部失敗したんだ」

「き、きっとあるよ!」

「具体的に、どんな?」

「え?」


 気がつけば、苛立ちが胸の奥から込み上げていた。


「俺はどうすればよかったんだ?」

「そ、それは……」

「何をやっても駄目だったから、最後のデートの時、俺はおかしくなったんだ。長澤先輩の真似を先にすればいいと思ったからだ。でも、お前は嫌がったよな」

「あ、いや、それは……」


 結月はいつもそうだった。

 勢いだけで、いざ何かをしようとすると口ごもる。

 付き合っていた頃は、その勢いこそが長所だと、俺は思っていた。

 ——今となっては、ただの短所だ。


「長澤先輩にお前を奪われるのを、俺はただ見ているしかない。あいつの嘲笑を聞かされて、劣等感に苛まれて、そのうえお前にまで捨てられる。そんなふうに、ずっと苦しめって言うのか?」

「ち、違う!ご、ごめん。私が全部悪かった」

「俺は謝罪してほしいわけじゃない」


 俺がわざわざ家に連れてきてノートを見せた理由は一つだった。


「お前と別れるしかなかったことを納得してくれ」


 これ以上未練がましく付きまとわれたら、林間学校の時のようにまた吐いてしまう。

 ただのクラスメイトとして接するには、まず物理的に距離を置くしかない。

 付き合って別れた他のカップルたちと同じように、俺たちはそれぞれ自分の道を歩まなければならない。


「……納得はしたよ」

「そうか?」

「どうしてそこまで蓮が苦しんでいたのか、どうして私を振ったのかも全部」


 よかった——思い通りに進んでいる。

 伊藤いとうさんの言う通り、俺よりいい男と結ばれてほしい。

 それが、元カレであり幼馴染だった俺の本心だった。

 まあ、長澤先輩のところへ行こうが、それはそれで構わないが。


「私、蓮のことなら何でも分かってるつもりだった。……本当は、何も分かってなかったんだね」

「別に、お前が悪いわけ——」

「ううん、私が悪かったの。だから、私、直すから。長澤先輩に、ううん、誰にも奪われない、蓮だけの女になる」


 結月が突然床に膝をついた。

 そのまま縋りつくように俺の膝元へ身を寄せ、震える手を俺の制服に伸ばしてきた。


 慌てて彼女の肩を掴み、無理やり引き離した。


「何してるんだ!」

「私、蓮のためなら何でもするから。蓮が望むなら、どんな形でも受け入れるよ。蓮だけを選ぶって、ちゃんと証明するから」

「いや、だから、そういうことをしても変わらないってば」


 何か様子がおかしい。

 どうしてここまで俺に執着するんだろう。

 こんな結月は見たことがない。

 父親が突然いなくなった時でさえ、ここまでじゃなかったのに。


「あ、でもそれも限界があるね。蓮のノート通りなら、私はその先輩の言葉に流されるんだよね。あ、そうだ。私、学校辞める」

「は?」

「それがいい!学校なんて辞めて、ここで花嫁修業でもするね。いっそ私を蓮の部屋に監禁するのもいいかも。私が蓮以外の誰とも会えなくなれば、誰にも奪われなくなるんでしょ?」

北山きたやまさん、正気になれ。今、なんて馬鹿げたことを言ってるんだ」


 それじゃ、まるで俺を犯罪者に仕立て上げるようなものじゃないか。

 百歩譲ってそれを受け入れたとしても、相手を閉じ込めてまで独占するなんて、誰がどう見ても異常な関係でしかない。


「さっき菅原すがわら先輩が奴隷って言ってたよね。私が本当の奴隷になるから、ね?」

「俺は北山さんにそんなこと望んでない」

「な、なら、せめて都合のいい相手でもいいから。私が全部受け止める。良くない?」

「良くない。言っただろ、これからは絶対にお前とそういう真似はしないって」

「嫌だ——!!」


 とうとう結月が頭を両腕で抱えながら叫んだ。


「捨てないで、捨てないでよぉ——!!」


 彼女の頬を涙の筋が伝っていた。

 ここまで彼女が取り乱す姿は初めて見た。

 これまでずっと一緒にいたから、見ることがなかったのだろうか。


「北山さん、落ち着けって」

「前みたいに私のことも呼び捨てにしてよ!! 私、もう和花のどかや菅原先輩よりも下なの!?」

「そういうわけじゃなくて……」


 思わずため息が漏れる。

 こんなことになるくらいなら、部屋になど入れず、ずっと無視しておくべきだったのかもしれない。

 まるで駄々をこねる子どもを相手にしているようで、言いようのない不快感が募るばかりだった。


 その時、部屋のドアが開いた。


「ほんと、見苦しいわね」


 愛理あいりだった。

 一階まで、結月の声が筒抜けだったらしい。


 結月がガバッと立ち上がり、ずかずかと愛理に歩み寄った。


「その場所返してください!!そこは元々私の場所なんです!!」

「あら、自分で蹴飛ばしておいて、今更返してだなんて。厚かましいにも程があるんじゃない?」

「蓮の言葉を信じられなかったこと、反省してます!すごく後悔してます!!だから、だから——!!」


 愛理は小馬鹿にするように、ふっと鼻で笑い飛ばした。


「反省なんて、これっぽっちもしてないじゃない。今だって蓮くんの気持ちより、自分がすがりつきたいっていう感情を優先してるだけだし」

「うっ……!」

「北山さん、あなたが蓮くんとまたやり直したいなら、やるべきことはここでこんな風に喚くことじゃないわ」

「私に一体何をしろっていうんですか……!!」

「簡単よ」


 顔を歪ませた結月の前に、愛理が手のひらを差し出した。


「変わったってことを、分かりやすく見せてあげなきゃ」

「言うのは簡単ですよ……!」

「蓮くんはあなたを振るまでずっと苦しんでいたのに、北山さんはそれすら甘受できないってこと?」

「うっ……。やればいいんでしょ、やれば!!」


 結月が鞄を手に取り、俺の方へと顔をふいっと向けた。

 そして宣言するように叫んだ。


「私、絶対にここに戻ってくるから!!」


 まるで海外映画のサイボーグみたいな台詞だった。

 俺はただ座ったまま、結月が部屋を出ていくのを見送るしかなかった。


 愛理が俺の前に近づいてきた。


「蓮くん、ずっと無理してない?」

「……普通だよ」

「最近ちゃんと発散できてないの?」

「いやまあ、別にそういうわけじゃ……」

「蓮くんは本当に嘘が下手ね」


 彼女が小さく微笑んだ。


「私のために我慢しないで。私、何でも蓮くんの役に立ちたいの」

「十分に役に立ってるよ」

「それとも私、女としての魅力がない? 蓮くんの好みじゃない?」

「そういうわけじゃないけど……」

「そう?」


 愛理が俺との距離を詰め、制服のシャツのボタンを一つ外した。


(で、でかい……)


 結月ほどはそうそういないと思っていたが、愛理もまるで引けを取らない。

 さっきまで沈んでいた気分が、一瞬で吹き飛んだ。

 以前聞いたスリーサイズは、どうやら誇張ではなかったらしい。


「ねえ、蓮くん。私、これでも精一杯誘惑してるんだけど?」


 何と答えればいいのか分からず、口が動かない。

 ただ、生唾を飲み込むことしかできなかった。


「こうしても全く微動だにしないなら、私本当に自信なくなっちゃうかも」

「いや、その……。正直に言うと、男としては先輩みたいな美人にここまでされたら、意識しない方が無理です」

「じゃあ、どうして?」

「その……。いくらなんでもお互い好きなわけでもないのに、そういう関係になるのはどうかと思って……」

「そういうところで真面目なのが蓮くんらしいわね。でもね、蓮くん」


 愛理が俺の頬に小さくキスをして言葉を続けた。


「私には蓮くんしかいないのに、蓮くんが私に何も求めてくれないと、すごく不安になるの。だから私を安心させて。私のために、ちゃんと私を頼って」


 おそらく、これは紛れもない本心だ。

 よく考えれば、彼女の立場でそう感じるのは当然だろう。

 唯一の家族さえ、今はもう事実上いない。

 だから彼女が頼れるのは、俺しかいない。

 そんな俺が拒んでばかりいたら、彼女の心は、ずっと不安定なままだ。


「……分かった、本当に俺が我慢できなくなったら、その時は頼むよ」

「今はまだそのくらいじゃないの?」

「うん」


 愛理が少しがっかりしたように俯いた。

 なぜか罪悪感を覚える。

 こういうことは、男よりも女のほうがずっと勇気が必要なはずなのに……。


「たった一つ、今望んでることがある」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ