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予知能力で彼女を寝取られる未来を見た ~諦めて他のSS級美少女たちを救ってたら、なぜか執着され始めた件~  作者: おなきく


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第3話 悪夢③

 ここは写真部の部室。

 俺と長澤ながさわ先輩だけが残っていた。

 長澤先輩は胸のコサージュもそのままに、卒業証書の入ったファイルを机に置いた。


「よお、来たか」


 何がそんなに楽しいんだろう。

 長澤先輩は、唇の端を吊り上げた薄気味悪い笑みを浮かべていた。

 やがて彼は、部室の隅に置いてあったライカのデジカメを手に取ると、俺の首に腕を回してきた。


「よく見てみろ」


 長澤先輩が上部の電源ボタンを押す。

 液晶が、じわりと灯った。

 先輩がカメラのボタンを操作し、一枚の写真を呼び出す。


「くっ……」


 液晶画面に映っていたのは――紛れもなく、結月ゆずきだった。

 旅館の一室らしき場所で、彼女は浴衣を乱したまま、力なく横たわっていた。


「いやお前、案外知らないことが多いんだな。結月のこと、全部分かってるつもりだったんだろ?」

「て、てめぇ……!!」

「俺が教えてやったんだよ。お前の知らない結月ってやつをな」


 俺は長澤先輩を睨みつけた。

 だが彼は平然と――いや、むしろ楽しげな笑みを浮かべていた。


「俺もいろんな奴を見てきたが、結月ほどの女はいなかったぜ」

「人の彼女を奪っておいて、ふざけたことを……!!」

「まあまあ、落ち着けって。まだ続きがあるんだから」


 長澤先輩はボタンをいくつか操作し、写真を表示させた。

 メイド服にナース、サンタにバニー、チャイナにセーラー……衣装だけでも、目が眩むほど並んでいた。

 それらの服を着た結月が場所も選ばず、浴室、部室、トイレ、屋上、教室……最後には、俺の部屋まで写っていた。


 そこに写っていたのは、俺の知らない結月ばかりだった。


「ほんと、使い甲斐があったぜ。顔も可愛いし、胸もでけぇし」

「くっ……!!」

「しかも後になってからはねだりまでしたんだぜ? あ、この写真は、お前とデートしてる時に俺が呼び出したやつだ」


 俺とのデートで着ていた私服姿のまま、長澤先輩の隣にいる結月の写真を見て、俺はその場に崩れ落ちた。

 だが彼はそれすらも許さないとばかりに、しゃがみ込んで耳元で囁いた。


「聞いたぜ? あの時お前、あいつを誘ったのに断られたんだろ? あれ、本当に疲れてたわけじゃないんだよ。理由は――」

「黙れ、黙れ、黙れぇっ!!」


 俺は長澤先輩の胸ぐらを掴んだ。

 だが彼は相変わらず慌てる様子もなく、余裕の表情で俺の手首を掴んだ。

 力の差がありすぎた。

 まるで子どもをあしらうように、あっけなく胸ぐらを掴む手を引き剥がされた。


「人の彼女をこんな風に奪っておいて、恥ずかしくないのか!?」

「なんか誤解があるみたいだが、俺は別に奪っちゃいないぜ?」


 止めどなく涙を流す俺に、長澤先輩は言った。


「借りただけさ。もう返してやるよ。あ、妊娠してたらお前がちゃんと育ててやれよ?じゃあ、俺はこれで」


 彼が俺の手首を離すと、俺は放り投げられた人形のように床に崩れ落ちた。

 気づけば、熱が身体の奥で醜く渦巻いていた。

 どす黒い自己嫌悪が、じわりと込み上げてきた。


「クソッ……」


 今の俺に、何ができるだろうか。

 俺は、どうすればよかったのだろうか。

 いや――俺にできることなど、最初からあったのだろうか。


「クソォォォッ―――!!」


 ただ悪態をつくことだけが、俺にできる全てだった。



 ◇



「はぁ、はぁ……」


 目を覚ますと、朝の日差しが眩しかった。

 ここは部室ではなく、見慣れた俺の部屋。

 さっき見たのは全て『悪夢』だった。

 昨日見たものよりも、内容がさらに酷くなっていた。


「ほんと、俺は救いようがないな……」


 身体に残った嫌な熱が、夢の内容を思い出させた。

 怒りよりも先に、あの光景を頭から追い払えなかった自分がいた。

 これほど自分が嫌いになったことはなかった。


「クソッ!」


 ドンッ、と壁を拳で強く殴った。

 とにかく、やるべきことは変わらない。

 まだ諦める段階じゃない。

 どうにかして、あの最悪の未来を回避しなければならない。


 気を取り直してベッドから起き上がり、着替えるためにパンツを脱いだ。

 だが、その瞬間。


れん! すごい音がしたけど、どこかぶつけ――」

「あ」


 結月がドアを勢いよく開けた。

 壁を殴った音を、何かぶつけた音と勘違いして、心配して様子を見に来たらしい。


 彼女がわずかに顔を赤らめて言った。


「ご、ごめん。着替え中だったんだね」


 普通なら、適当にごまかして結月を部屋から追い出すところだろう。

 そのとき、ふとよからぬ考えが脳裏をよぎった。


「結月。今、少しだけ……俺のそばにいてくれないか」

「え? 昨日もずっと一緒にいたじゃん」

「……嫌か?」

「嫌じゃないけど……」


 俺は思わず拳を強く握りしめた。

 長澤先輩の前では、あんなに言いなりになっていたのに。


 だがすぐに、俺は首を横に振った。

 あれは未来の結月だ。

 今の結月を責めても意味がない。


「……ごめん、冗談だよ」

「あ、あー、だよね? あまりにも真剣に言うから、本気かと思っちゃったじゃん~」


 ぎこちなく笑いながら、彼女を部屋の外へ押し出した。

 俺は着替えてからベッドに腰を下ろした。

 一体、長澤先輩はどうやって結月を丸め込んだんだろうか。

 俺と何が違うのだろうか。

 男としての魅力が劣っているのだろうか。


 涙が溢れそうになるのを、必死にこらえた。



 ◇



 学校にいる時も、放課後も、俺はずっとあの悪夢を思い返してはノートに書き留め続けた。

 少しでも最悪の未来を回避するためのヒントを得るためだ。

 思い出すだけでも胸が張り裂けそうだったが、どうにか一つだけ手がかりを見つけた。

 そして部活が終わり、いつものように俺の部屋へやってきた結月に尋ねた。


「もしかして写真部って、夏に合宿へ行くのか? 旅館とか取ってさ」

「あ、うん、そうだよ!夏にみんなで撮影に行くんだって。2泊か3泊くらい。どうして分かったの?」


 悪夢の中で長澤先輩が最初に見せてきた、浴衣姿の結月の写真のことだ。

 それで気づいたとは、とても言えなかった。


高木たかぎから聞いたんだ」

「へえ、そうなんだ? 高木くん、写真部に興味あるのかな?」

「さあな。あいつ、元からいろんな噂を聞きつけては言いふらしてるから」

「あー、なるほど!」


 結月がくすくすと笑った。

 悪いな、高木。

 こういう時、お前の普段の行いがすごく助かるよ。


「あー、もう今からすっごく楽しみ! 絶景スポットに行くらしいんだよ」

「……あのさ、結月」


 俺はベッドの上で膝をつき、深く頭を下げて言った。


「夏の合宿……行かないでくれないか?」

「……え?」

「一生のお願いだ。この通り!」


 恋人に対する態度ではないかもしれない。

 だが、あの恐ろしい未来を避けるためなら、今はなんだってやらなきゃならない。


「蓮、どうしたの?前は私が部活することに、こんなにいちいち口出ししなかったじゃない。最近おかしいよ」

「結月は長澤先輩を悪く思ってないみたいだけど……。俺はやっぱりちょっと不安なんだよ。自分勝手なお願いだって分かってるけど、それでもなんとか……」


 実際のところ、夏合宿が本当にあんな関係のきっかけになるのかどうかは分からない。

 それでも、今の俺はわずかな可能性すら潰しておきたかった。


 結月が困ったように頬を掻いた。


「もう合宿費も払っちゃったし……。ごめん、蓮。そのお願いは、ちょっと聞いてあげられないかも」

「お金なら俺が代わりに払うよ。あ、そうだ。夏に俺と二人で撮影旅行に行こう。それがいい」

「いや、その……。お金の問題じゃなくて、他の部員たちにも迷惑がかかるから……。それに私、真剣に写真撮りに行くんだよ?浮気しに行くわけじゃないんだから」


 彼女の写真に対する情熱は本物だ。

 予想はしていた。

 意志が揺らぐ様子はなかった。

 だが一方で、別の感情がこみ上げてきた。


 ――真剣に写真を撮りに行くなんて言いながら、裏では長澤先輩とあんなことをしているくせに。


 そんな言葉が喉まで出かかったが、辛うじて飲み込んだ。

 俺は結月から視線を逸らしたまま、震える声で言った。


「……ごめん。今の忘れてくれ」

「蓮、私も蓮のお願いを聞きたくなくて言ってるわけじゃないんだよ。分かるでしょ?」

「……もちろん」

「その……朝、私が返事を濁したから拗ねてるんでしょ? 今ならちゃんと話を聞くから、機嫌直してくれない?」

「別にそれで怒ってるわけじゃ……」

「ほら、やっぱり怒ってるじゃん。合宿のこと以外で、何かしてほしいことがあったら言って。なんでもするから」


 なんでも?

 本当に?

 俺は喜びを感じるより、真っ先に疑念が頭をよぎった。


「じゃあ、俺が知らないところで誰かに呼び出されても、絶対に行かないって約束してくれ」

「え……? それは、状況にもよるでしょ。部活の連絡かもしれないし」


 誰が見ても分かるほど、困惑した顔だった。

 強要することはできない。

 ただ――長澤先輩の方が、俺よりも特別だったのかな、という思いだけがよぎる。


「じゃあ、そのお願い券は後で使うよ」

「う、うん。分かった」

「もう家まで送ってくよ」

「え……? ま、まだそんなに遅くないよ? 私、蓮の機嫌が直るまで一緒にいるから」


 俺は首を横に振った。


「ごめん、今日はそんな気分じゃないんだ」


 それは、紛れもない俺の本心だった。

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