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6.届いた手

俺の右手が、ようやく椅子の背へ届いた。


「今、縄を切ります」


左手の短剣を、レティシアさんの右手首へ回す。

縄と赤く擦れた肌の間へ刃先を差し込み、外へ向けて引いた。


一本目の縄が切れる。


力の抜けた右腕が、肘掛けから落ちた。

レティシアさんの上体が、前へ傾く。


右手を椅子の背から離し、レティシアさんの肩を支えた。


「すみません。足に、力が……」

「謝らんでええです。もうちょいだけ、じっとしててください」


左手を反対の肘掛けへ伸ばす。

二本目を切ると、自由になった指が俺の病院服を掴んだ。


最後は腰の縄や。


短剣を入れた瞬間、正面扉の外で砂を蹴る音がした。

ユリウスが逃げていく。


ハナが杖を床へ立て、立ち上がろうとする。


「追わんでええ。今はレティシアさんや」

「でも……」


ハナの膝は、まだ床から離れてへん。

それでも、正面扉から目を逸らさなかった。


「あいつのスキルの条件、まだ分かってへん。追ったら、今度こそ止められるかもしれん」


何より、右手の下でレティシアさんの肩が震えている。

ここで離すために、港から王都まで追ってきたんやない。


「レティシアさんを、先に外へ連れ出す」


ハナは唇を噛み、逃げた扉からレティシアさんへ目を戻した。


「……うん」


左手の短剣で、腰の縄を切る。


レティシアさんの身体が椅子から崩れた。

右腕を背中へ回し、そのまま胸元で受け止める。


「大丈夫です。離しません」


病院服を掴んだ指に、少しだけ力が戻った。


「本当に……迎えに来てくださったんですね」

「言うたでしょ。連れて帰るって」


レティシアさんが顔を伏せる。

肩が一度、大きく揺れた。


「レティシアさん」


ハナが膝をついたまま、こちらへ手を伸ばす。

レティシアさんも片手を伸ばし、その手を握った。


「遅くなって、ごめんなさい」

「違います。来てくださって……ありがとうございます」


乾燥棚の向こうで、盾と大槌がぶつかった。


まだ終わってへん。


短剣を床へ置き、左手で棍棒を拾う。

右腕をレティシアさんの背中へ回したまま、立ち上がった。


「ナオユキ! レティシアさん助けた! 俺らは正面から出る!」


乾燥棚の向こうから、すぐに声が返る。


「了解! ミラ、下がるぞ!」

「分かった!」


弦が一度だけ鳴る。


「ガレス!」


乾燥棚の向こうで、ギルの声が響いた。

大槌が盾を叩く音が止まる。


棚の隙間から、ギルが倒れたガレスへ駆け寄るのが見えた。

ガレスは脇腹を押さえ、兄に肩を抱かれても咳き込んでいる。


ナオユキたちも、荷運び口へ退き始めてる。


「ハナ、立てる?」

「歩ける。走るのは、ちょっと無理」


ハナが杖へ両手を置き、今度こそ腰を上げた。

膝は震えているが、自分の足で立っている。


レティシアさんの左腕を、俺の肩へ回す。

右手で腰を支えると、レティシアさんが一歩だけ前へ出た。


二歩目で膝が折れかける。


右腕を引き寄せ、身体を立て直した。


「重くないですか?」

「ここで気ぃ遣わんといてください」


レティシアさんの口元が、ほんの少しだけ緩んだ。


三人で正面扉を出る。


建物の裏から、青い幌馬車が回ってきた。

御者台にはカゲマルが座り、片手で手綱を握っている。


「御者は縛った。逃走用の三頭も押さえてあるでござる」


カゲマルが荷台の扉を開けた。


「逃げた男が一人おる」

「正面から出た者なら、拙者が裏手を押さえている間に離れたようでござるな」


カゲマルがユリウスの消えた道を見る。

木立の先には、もう人影はなかった。


「足跡はまだ新しい。追うなら、今でござる」


建物の裏から、槍先が盾の縁を擦る音が響く。

右腕の中で、レティシアさんの膝がまた折れかけた。


「……いや。先に全員、ここから離れる」


「承知した。ならば今は、離脱を優先するでござる」


レティシアさんを幌馬車へ乗せる。

ハナは荷台の縁を掴み、カゲマルに腕を引かれて座り込んだ。


少し遅れて、建物の右側からナオユキたちが走ってくる。

三人の後ろに、ギルたちの姿はない。

ナオユキの盾には大槌の丸いへこみが増え、縁には槍で削られた傷が残っていた。

ミラは弓を握ったまま、荷台の中を覗き込む。


「この人が、レティシアさん?」

「そうや」

「よかった! 今度はちゃんといた!」


レティシアさんが目を丸くする。


「第一声、それでええん?」

「だって、何回も空振りしたんだもん!」


ミラが荷台へ飛び乗る。

その後ろから、ノクティスが顔を出した。


「お迎え、間に合ったね」


ナオユキが最後に荷台へ上がり、開いた扉を閉める。


「出してくれ」


レティシアさんが、俺たちを一人ずつ見る。

赤く擦れた両手首を胸元へ寄せ、何度も小さく頷いた。


青い幌馬車が動き出す。


窓の外で、薬材倉が木立の向こうへ隠れていく。


助けられた。


港で別れた時と同じ声で、レティシアさんが目の前にいる。


息を吐くと、棍棒を握っていた左手まで震えた。


「ほんま、よかった……」


ハナも顔を伏せ、袖で目元を拭う。


「うん」


レティシアさんは俺たちを見てから、眼鏡を押し上げるように指を上げた。

けど、指は何もない鼻の上で止まる。


「皆さんに、お話ししなければならないことがあります」


「今は休んでください。話は安全な場所へ着いてからでええです」

「はい。ですが、一つだけ」


レティシアさんが、遠ざかる薬材倉へ顔を向ける。


「先ほど、あの方が尋ねていた『青い花』。私が薬屋で見たのは、あれとは別の薬草です」




※薬材倉での戦闘は対人戦のため、通常レベルの上昇なし。


ダイキ

職業 なし

レベル 20

レベル上限:20

スキル

打撃Lv64→67、打ち下ろしLv40

剛・打撃Lv4、剛・打ち下ろしLv1、瞬・打撃Lv1(新規獲得)

ダッシュLv18→19、ステップLv14→16、跳躍Lv10

回避Lv12→15、姿勢制御Lv8→11、予測Lv11→13

毒耐性Lv5、覚悟Lv5、水耐性Lv5、炎耐性Lv3、酸耐性Lv1

ユニークスキル

可塑覚醒ニューロアウェイク


ハナ

職業 共鳴術士

レベル 20

スキル

(火)バトルイグニッションLv1

(水)ウォーターボールLv20、ヒールLv17、プロテクションLv9、浄化Lv6、アクアドリルLv1

(風)嵐斬Lv3

支援接続Lv4→7

ダッシュLv4、回避Lv1

共感感知Lv13→16

炎耐性Lv1、毒耐性Lv1

魔力操作Lv12→14、多重展開Lv6


ナオユキ

職業 守護騎士

レベル 45

スキル

守護宣言Lv3、限界防御Lv4

ガードLv20、強ガードLv20、構えLv20

全身ガードLv20、受け止めLv20、体勢保持Lv20

受け流しLv20、偏向Lv20、姿勢制御Lv20

武器逸らしLv15→16、連続受け流しLv18→19

横斬りLv20、袈裟斬りLv20、逆袈裟Lv20

炎薙ぎ払いLv16、炎斬り上げLv14、炎踏み込み斬りLv13

ダッシュLv12、ステップLv11、跳躍Lv9

緊急離脱Lv14、急接近Lv11

回避Lv8、予測Lv9、覚悟Lv8

炎耐性Lv10、水耐性Lv6、風耐性Lv5

木耐性Lv4、毒耐性Lv6、麻痺耐性Lv6


ミラ

職業 念装射手

レベル 20

スキル

射撃Lv18→19、速射Lv11→12、強弓Lv9

水縛矢Lv1、制止矢Lv5

ダッシュLv4、回避Lv4

念装填Lv5→6

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