3.追うための勝ち方
剣士へ、もう一度棍棒を向ける。
今度は足を止めない。
右の前腕だけに力を入れ、棍棒の先を小刻みに揺らした。
剣士の目が、すぐに棍棒へ落ちる。
「また、それか」
剣士が二歩下がった。
中央の槍使いも、俺の右手へ短槍を向ける。
二人とも、さっきの《剛・打撃》やと思ってる。
本物なら、一歩動けば棍棒へ溜めた力が散る。
けど、今は右腕だけを揺らしてる。
棍棒を震わせたまま、左足を踏み出す。右足も続く。
「え?」
「《打撃》!」
右腕だけで返した棍棒が、剣士の右腕を横から叩いた。
剣が跳ね上がる。
剣士は街道の右端までよろめき、目を見開いた。
「偽物かよ! そういうのもあり!?」
「油断するな、ばか!」
槍使いが怒鳴る。
二人とも、俺を見ている。
今や。
空荷の荷馬車へ目を向ける。
空堀側の前輪。その下に噛んだ三角の木片。
頼む。あの木片を外してくれ。
そうすれば逆風が止まり、俺が鉄鎖まで走れる。
「《支援接続》」
ハナの声が飛ぶ。
頭の中に、声が聞こえたわけやない。
それでも、ミラの弓先が木片へ向いた。
けど、そのまま撃てば、矢はまた左へ流される。
ミラはすぐに弓先を二歩右へずらした。
ミラも、さっきの矢がどれだけ曲がったか覚えてた。
「どこ狙ってんの?」
荷台の短杖使いが笑う。
ミラは答えず、矢を放った。
矢は車輪止めの右へ飛び、逆風に入った。
風に押され、左へ曲がる。
「また外れ――」
短杖使いの声が止まった。
曲がった矢が、三角の木片へ突き刺さる。
木片が前輪の下から弾け飛んだ。
「は?」
空荷の荷馬車が、右の斜面へ半輪分ずれる。
鉄鎖が張り、荷台が大きく傾いた。
短杖使いは膝をつき、床へ刺していた杖も倒れる。
地面を覆っていた白い輪が消えた。
頬へ吹きつけていた土埃が落ちる。
街道脇の草が起き上がった。
逆風が止まった。
「リーネ、立て直せ! 全員、あいつを止めろ!」
槍使いの短槍が、俺へ向く。
「ダイキ、みんなそっちに来る!」
ハナの声が飛んだ。
荷馬車をつないでいる石柱までは、あと二十歩。
あそこまで走って鉄鎖を切れば、道が開く。
「鎖まで走る! 十秒だけ敵を止めて!」
「右を走って! 左から来る人は私が止める!」
右端へ飛び出した。
土手で、弩の弦が鳴る。
同時に、右肩を後ろへ引かれる感覚が走った。
ハナの《支援接続》や。
伝わった通りに肩を引く。
太い矢が胸の前を抜け、空荷の荷馬車へ突き刺さった。
「こんなことも出来るんか!」
驚いている暇はない。
街道の左から、丸盾の男が俺の進路へ走り込んでくる。
間に合わん。
「そのまま右!」
ハナの声が飛ぶ。
そう思った瞬間、俺の背中の横から水球が飛んできた。
一発目が丸盾を叩く。
二発目が、男の足元で弾けた。
濡れた土に靴を滑らせ、丸盾の男が止まる。
その右を駆け抜けた。
土手から、弩を巻き上げる音が聞こえる。
「弩も私が止める!」
ハナの声のあと、水の弾ける音が重なり、弩の巻き上げ音が止まった。
前へ向き直る。
今度は、槍使いが中央から進路へ入ってくる。
「ダイキ、走って! そいつは私が止める!」
ミラの声と同時に、その左足へ矢が飛んだ。
槍使いは短槍で矢を払い、足を止める。
その一拍で、右を抜けた。
背後で、剣と盾がぶつかる。
「行け! こいつは俺が止める!」
ナオユキの声に押され、石柱まで走り切った。
空荷の荷馬車から伸びた鉄鎖が、柱の腰ほどの高さへ巻かれている。
石柱の根元へ右の踵をかける。
さっき矢を払った槍使いが、左斜め前まで追いついてきた。
槍使いの右後ろに、石柱へ巻かれた鉄鎖がある。
棍棒を左から右へ振れば、こいつが避けたあと、そのまま鉄鎖まで届く。
これを切れば、またレティシアさんを追える。
「さっきの手には、もう騙されないぜ」
槍使いの目は、俺の棍棒から離れない。
鉄鎖には気づいてへん。
ええ。もう偽物は使わん。
本物を見せて、こいつ自身に鎖の前から退いてもらう。
今度は腕だけやない。
足裏から腰、肩へ力をつなぐ。
全身の力が棍棒の先へ集まり、両腕と棍棒が低く震え始めた。
槍使いの顔から笑みが消える。
「今度は本物かよ!」
短槍が伸びた。
狙いは俺の胸やない。棍棒を握る右手や。
ここで右手を刺されたら、棍棒へ溜めた力が散る。
避けようと足を動かしても同じや。
槍の穂先が迫る。
「ダイキの手には、当てさせない! 《制止矢》!」
右肩の横を、水色の矢が抜けた。
槍使いが短槍を返し、矢を柄で弾く。
金属音が鳴った。
弾かれた矢が、落ちない。
矢に触れた短槍まで、空中で止まっている。
「《制止矢》……念装射手か!」
槍使いの声が、場違いなくらい弾んだ。
槍使いが短槍を引く。
動かない。
俺の棍棒は、まだ震えている。
槍使いは短槍から手を離し、左へ飛び退いた。
目の前から誰もいなくなる。
その先に、鉄鎖だけが残った。
「《剛・打撃》!」
棍棒を右へ振り抜く。
鉄鎖の輪が一つ潰れ、その隣から二つに千切れた。
空荷の荷馬車が、右の斜面へ転がり出す。
「ちょっ、待って!」
短杖使いが荷台から飛び降りた。
車輪が土を跳ね上げ、荷馬車が街道から消える。
「ほんとにお散歩した」
黒い馬車の中で、ノクティスが嬉しそうに言った。
石橋の入口に、馬車一台分の道が開いている。
「道、開いた! 早く!」
ハナが窓から叫ぶ。
「御者、今です!」
セレスの声と同時に、黒い馬車が俺たちの横へ走り込んできた。
「追え! まだ行かせるな!」
槍使いが、止まった短槍を置いて走り出す。
剣士と丸盾の男も、黒い馬車へ向かってきた。
ナオユキが俺の横まで下がり、盾の底を石橋へ打ちつける。
「ここで使う! 《限界防御》!」
盾の縁から緑の光が広がった。
俺たちと黒い馬車の左前輪を隠すように、壁が立つ。
弩の矢が、緑の壁へ突き刺さった。
追いついた剣士の刃も、壁の右端で止まる。
光の壁がへこみ、ナオユキの靴が石橋の上を滑った。
それでも、矢も剣も馬車には届かない。
「ダイキ! ナオユキ!」
開いた右窓から、ハナとミラが手を伸ばしている。
馬車と並んで走り、ハナの手を掴んだ。
ミラが俺の腕も引く。
「重っ!」
「感想はあとにして!」
足掛けへ右足を乗せ、車内へ転がり込む。
ナオユキも盾を抱えたまま飛び乗った。
黒い馬車が、石橋を渡り切る。
窓の外で、剣士が叫んだ。
「まだ勝負の途中じゃねーか!逃げんのかよ!」
槍使いは石橋の向こうで足を止め、千切れた鉄鎖を見ている。
「そう来るか」
口元が上がった。
「しゃあねえな、俺たちの負けだ」
声は、走る馬車の音に消えた。
座席へ背中を預ける。
両腕が重い。右手には、鉄鎖を叩いた震えが残っている。
剣士へ《剛・打撃》は当てられへんかった。
人へ当てる方法は、まだ分からない。
けど、今ほしかったのは、あいつを倒した証明やない。
窓の向こうで、北街道が続いている。
まだ追える。
レティシアさんが別の場所へ運ばれる前に、追いつけるかもしれへん。
「やったね!」
ハナが杖を抱えて笑った。
「あの水球、ほんま助かった。盾の人が来た時、もう間に合わんと思ったで」
「ダイキの方へ来る人を狙っただけ。ちゃんと止まってよかった」
ハナは照れくさそうに杖を抱え直した。
その横で、ミラも弓を膝へ置き、右手をひらひら振っている。
「今ので、《制止矢》は本当に終わり。もう一発も撃てないからね」
「最後の一発、完璧やったで」
「そうでしょ! 私もファインプレーだなって思ったもん」
ミラが胸を張る。
「自分で言うんや」
「ダイキが言ったんでしょ!」
ナオユキは盾を床へ置き、右腕を左手で押さえた。
「《限界防御》も使い切った。次に追いつかれたら、同じ守り方はできない」
勝ったから休めるわけやない。
今のうちに、青い幌馬車へ追いつかなあかん。
御者台のセレスが右手を上げた。
「分岐です。一度、速度を落とします」
前方で、街道が三つに分かれている。
左は海沿い。中央は農村。右は川沿いの運搬路。
どの道にも、幌馬車の轍が何本も重なっていた。
見ただけでは選べへん。
セレスが、ノアから受け取った灰色の印紙を取り出す。
印紙の端に、灰色の光が浮かぶ。
セレスの目が、右の運搬路へ動いた。
「こちらです。右へ」
御者が手綱を右へ引く。
黒い馬車は、川沿いの道へ入った。
青い幌馬車さえ見つければ、レティシアさんを取り戻せる。
そう思って、前方から目を離さなかった。
「監査官様。あれでは?」
御者が、川沿いの道から外れた古い荷捌き場を指した。
傾いた木柵の奥に、青い幌が見える。
「青い幌馬車です!」
黒い馬車が速度を上げた。
追いついた。
馬車が止まり切る前に扉を開け、地面へ飛び降りる。
青い幌馬車の前には、馬がいない。
手綱だけが御者台から垂れ、地面を擦っていた。
「レティシアさん!」
返事はない。
荷台へ駆け寄り、青い幌を掴む。
ここまで追ってきた。
この中にいてほしい。
幌を一気に開く。
荷台には、誰もいなかった。
レティシアさんだけやない。
大槌の男も、黒い短髪の男もいない。
俺たちが追いついたのは、
空になった青い幌馬車だけやった。
※鉄杭隊との戦闘は対人戦のため、通常レベルの上昇なし。
ダイキ
職業 なし
レベル 20
スキル
打撃Lv62→64、打ち下ろしLv40
剛・打撃Lv2→4、剛・打ち下ろしLv1
ダッシュLv17→18、ステップLv13→14、跳躍Lv10
回避Lv11→12、姿勢制御Lv7→8、予測Lv10→11
毒耐性Lv5、覚悟Lv5、水耐性Lv5、炎耐性Lv3、酸耐性Lv1
ユニークスキル
可塑覚醒
ハナ
職業 共鳴術士
レベル 20
スキル
(火)バトルイグニッションLv1
(水)ウォーターボールLv19→20、ヒールLv17、プロテクションLv9、浄化Lv6、アクアドリルLv1
(風)嵐斬Lv3
支援接続Lv2→4
ダッシュLv4、回避Lv1
共感感知Lv11→13
炎耐性Lv1、毒耐性Lv1
魔力操作Lv10→12、多重展開Lv5→6
ナオユキ
職業 守護騎士
レベル 45
スキル
守護宣言Lv3、限界防御Lv2→4
ガードLv20、強ガードLv20、構えLv20
全身ガードLv20、受け止めLv20、体勢保持Lv20
受け流しLv20、偏向Lv20、姿勢制御Lv19→20
武器逸らしLv15、連続受け流しLv17→18
横斬りLv20、袈裟斬りLv20、逆袈裟Lv20
炎薙ぎ払いLv16、炎斬り上げLv14、炎踏み込み斬りLv13
ダッシュLv12、ステップLv11、跳躍Lv9
緊急離脱Lv14、急接近Lv11
回避Lv8、予測Lv9、覚悟Lv8
炎耐性Lv10、水耐性Lv6、風耐性Lv5
木耐性Lv4、毒耐性Lv6、麻痺耐性Lv6
ミラ
職業 念装射手
レベル 20
スキル
射撃Lv15→18、速射Lv9→11、強弓Lv8→9
水縛矢Lv1、制止矢Lv3→5
ダッシュLv4、回避Lv4
念装填Lv3→5




