4.知り合いの女と監視者
女は引き出しから両手を離した。
女の肩が一度跳ねた。
けど、逃げようとも、武器を取ろうともしない。
「違います」
女は胸元の鎖を引き、銀色の札をゆっくり持ち上げた。
波を三つ重ねた印と、名前が刻まれている。
「蒼海商会王都本部、監査室のセレス・アーデルです。この倉庫が帳簿にない荷を扱っている疑いがあり、調査に来ました」
ナオユキが俺の横へ出る。
盾は下げず、女が差し出した札だけを受け取った。
「蒼海商会の印は、港の事務所で見たものと同じだ」
「本物?」
ミラが弓を持ったまま、ナオユキの肩越しに札を覗く。
「少なくとも、ここで偽物だと決めつけられる材料はない」
つまり、まだ信用はできへん。
「監査官が、なんで一人で犯罪者の倉庫におんねん」
「お互い、武器を向けたままでは話しづらいですね」
「向けられてるの、あんただけやけど」
「では、私だけが話しづらいようです」
セレスが困ったように笑う。
一つ聞くと、笑顔で二つ返してくる。
こっちが棍棒を下ろすまで、いくらでも話を続けそうや。
ハナは杖を下げなかった。
ノクティスも、俺の後ろからセレスを見上げている。
「質問に答えて」
ナオユキが監査証を返す。
「ここにいた連中は、どこへ行った」
「港の商会事務所で帳簿を調べ、この倉庫を見つけました。空き倉庫として届けられているのに、夜間の荷役料だけが毎週支払われていたんです」
セレスが、開いた引き出しを指す。
「昼過ぎから、向かいの空き荷捌き場で見張っていました。私の馬車は一つ離れた商人街に待たせています。追跡を頼むため、馬に乗った協力者も路地に待機させていました」
「ここにいた連中は?」
「少し前、背丈ほどある大槌を背負った男と、黒い短髪の男が出てきました。二人は青い幌馬車の御者台へ乗り、そのまま西へ」
ギルとガレス。
入口に残っていた車輪の跡も、西へ続いている。
「荷台は?」
「出ていく時には、幌が閉じていました」
セレスは一度も目を逸らさなかった。
「私は戦える職ではありません。二人を止める代わりに、馬車が出た時点で、その協力者を追わせました。倉庫が静かになったのを確かめてから中へ入り、残った帳簿を調べていたところです」
「その協力者は?」
ナオユキが聞いた。
「ノア。港では、表より裏の道に詳しい情報屋です」
まだ、見失ったと決まったわけやない。
止まりかけていた足が、また前へ出そうになる。
俺は棍棒を下ろさないまま、セレスへ一歩近づいた。
「その青い幌馬車に、レティシアさんが乗せられてるかもしれへん」
セレスの指が、監査証の鎖を握った。
鎖の下から、葉を刻んだ古い木札が一瞬だけ覗く。セレスは親指で押し戻した。
「……レティシア・ハルシオン?」
今度は、こっちが止まった。
「なんで、フルネームを知ってる」
「王都薬学研究所の本部で、何度かお会いしています」
セレスの笑みが消える。
「ノアから、彼女が予定の船に乗らず、ギルドに捜索依頼が出たと聞きました」
ミラが弓を持ったまま、セレスへ顔を寄せる。
「知り合いが行方不明で、怪しい馬車も出たんでしょ。それで中を見なかったの?」
「大槌を持った男へ、私一人で荷台を見せろと言う勇気はありません」
「確かにそれは無理ね。背丈ほどある大槌って、近づいたらぺちゃんこじゃん」
「ここへ来たのは、レティシアさんを捜すため?」
ハナが聞く。
「いいえ。不正な荷役料を調べるためです。ただ、あの馬車に彼女が乗せられているなら、不正な荷と拉致が同じ馬車で動いている。見過ごせません」
そこは、迷わず答えた。
ハナはセレスの顔を見たまま、杖の先を床へ下ろした。
それでも、杖から手は離していない。
「ノアって人は、どこまで追う約束なん?」
「幌馬車が荷を降ろすか、街道の分岐へ入るまでです。西門では荷の確認で速度が落ちるので、そこで短い報告を伝令へ預けるよう頼んであります」
その時、倉庫の外から短い口笛が二度鳴った。
ナオユキが盾を扉へ向ける。
顔を出したのは、俺より小さな少年やった。
裸足で走ってきたらしく、膝へ泥が跳ねている。
「監査官さん。西門の、灰色の兄ちゃんから」
少年が細く丸めた書類を差し出した。
セレスは銅貨を一枚渡し、すぐに紐を解く。
書かれていたのは、二行だけ。
――青い幌馬車、西門を通過。
――大槌と黒髪。北街道へ。
「ノアからです」
「青い馬車が門で止まってる間に、これを渡されたんだ。灰色の兄ちゃんは、馬でそのまま北へ行ったよ」
少年が西門の方を指した。
書類にあるのは、西門を通った時の情報や。
今どこにいるかまでは分からへん。
それでも、ノアは西門で追跡をやめていない。
青い幌馬車は重く、セレスの馬車は二頭立て。今すぐ出れば、まだ距離を詰められる。
「行こ。今なら追いつける」
ハナが杖を握り直した。
セレスは机の帳簿を閉じ、腰の書類筒から一枚抜いた。
第七倉庫の封鎖と、帳簿の保全を求める文を書き、銀色の印を押す。
「北三番の荷上げ口に、港湾管理の職員がいるはずです。これを渡してください」
少年は書類と銅貨を受け取り、来た道を駆け戻った。
「この倉庫の封鎖は、港湾管理へ要請しました。私の馬車は、一つ先の商人街です」
「監査はええんか」
「違法な倉庫から出た馬車を追うのも監査です。拉致が事実なら、なおさら見過ごせません」
返事が早い。
俺たちを倉庫から追い出したいだけかもしれへん。
それでも、ノアが青い幌馬車を追っているという情報は、今の俺たちに必要や。
「信用したわけやないで」
「信用は馬車の中で決めてください。ここで迷っている間にも、青い幌馬車は進みます」
気に食わんけど、正しい。
俺たちはセレスに続いて倉庫を出た。
荷捌き場を抜け、一つ先の商人街へ曲がる。
路地の陰に、二頭立ての黒い馬車が止まっていた。
御者が手綱を取り、セレスを見るとすぐに扉を開けた。
乗り込もうとしたところで、ノクティスが俺の服を引く。
「屋根の人、帰っちゃうみたい」
「屋根の人?」
「ご飯の時間なのかな」
振り返る。
倉庫二つ先の屋根で、灰色の頭巾と口布を着けた人影が、真鍮の筒をこちらへ向けていた。
俺と目が合うと、筒を閉じて身を翻す。
瓦を蹴り、港の東へ走っていく。
「ノアか?」
「違います」
セレスの声から、さっきまでの柔らかさが消えた。
「ノアは北街道です」
俺は棍棒を握り、屋根の影へ足を向ける。
ナオユキの手が肩を掴んだ。
「ダイキ。あいつを追えば、青い幌馬車から離れる」
屋根の影はもう小さい。
青い幌馬車は今も、レティシアさんを乗せたままかもしれない。
そのまま街から遠ざかっている。
どっちも追う時間はない。
「……北街道や」
棍棒を戻し、馬車へ乗り込む。
ハナたちも続き、最後にセレスが扉へ手をかけた。
「少なくとも、私とあなたたちが接触したことは見られました。報告されれば、次からは警戒されるでしょう」
「今から追手を止めに来るん?」
「いいえ。あの男が走って知らせても、この馬車より先に北街道へは着けません」
セレスが御者へ西門を告げる。
「ですが、薬屋の地下と、この倉庫まで用意した相手です。追手を止める場所も、先に決めていると考えるべきです」
黒い馬車が走り出す。
青い幌馬車へ追いつく前に、先回りして待っている奴らを抜かなあかん。
※地下の処分部隊との戦闘は対人戦のため、通常レベルの上昇なし。
ダイキ
職業 なし
レベル 20
スキル
打撃Lv60→62、打ち下ろしLv40
剛・打撃Lv1→2、剛・打ち下ろしLv1
ダッシュLv16→17、ステップLv13、跳躍Lv10
回避Lv10→11、姿勢制御Lv6→7、予測Lv9→10
毒耐性Lv5、覚悟Lv5、水耐性Lv5、炎耐性Lv3、酸耐性Lv1
ユニークスキル
可塑覚醒
ハナ
職業 共鳴術士
レベル 20
スキル
(火)バトルイグニッションLv1
(水)ウォーターボールLv19、ヒールLv17、プロテクションLv9、浄化Lv6、アクアドリルLv1
(風)嵐斬Lv3
支援接続Lv1→2
ダッシュLv4、回避Lv1
共感感知Lv10→11
炎耐性Lv1、毒耐性Lv1
魔力操作Lv9→10、多重展開Lv5
ナオユキ
職業 守護騎士
レベル 45
スキル
守護宣言Lv1→3、限界防御Lv1→2
ガードLv20、強ガードLv20、構えLv20
全身ガードLv20、受け止めLv20、体勢保持Lv19→20
受け流しLv20、偏向Lv20、姿勢制御Lv18→19
武器逸らしLv15、連続受け流しLv16→17
横斬りLv20、袈裟斬りLv20、逆袈裟Lv20
炎薙ぎ払いLv16、炎斬り上げLv14、炎踏み込み斬りLv13
ダッシュLv12、ステップLv11、跳躍Lv9
緊急離脱Lv14、急接近Lv11
回避Lv8、予測Lv9、覚悟Lv8
炎耐性Lv10、水耐性Lv6、風耐性Lv5
木耐性Lv4、毒耐性Lv6、麻痺耐性Lv6
ミラ
職業 念装射手
レベル 20
スキル
射撃Lv12→15、速射Lv8→9、強弓Lv8
水縛矢Lv1、制止矢Lv1→3
ダッシュLv4、回避Lv4
念装填Lv1→3




