8. 白き女王の最期
「今しかない……!!」
握った棍棒へ、力を込めた。
右前脚を失ったボス蜘蛛は、身体の右側を大きく沈ませていた。
砕けた脚の付け根から、赤い魔力が脈打つたびに漏れ出している。
あそこだけ、白い外殻がない。
砕けた右前脚の断面、その奥に柔らかい肉と赤い光が見えた。
残った脚が石床を掴み直す。
「立て直される!!」
ナオユキの声に、俺は駆け出した。
ミラが脚を縛った。
俺が亀裂を作り、ハナがそこを撃ち抜いた。
ナオユキは、俺たちが攻撃する間ずっと正面に立っていた。
みんなで、ここまで抉じ開けたんや。
あとは、俺が奥まで通す。
「ここで超えな、いつ超えるねんッ!!」
右足で石床を踏み抜く勢いを、腰、肩、右腕へつなぐ。
行き場を失うほどの力が、棍棒の先へ集まっていく。
握った棍棒が、俺の手の中で小刻みに震えた。
狙うのは、砕けた右前脚の付け根。
みんなで作った穴から、胴体の奥へ全部叩き込む。
「らぁぁぁぁぁっ!!」
腰ごと棍棒を振り下ろす。
ドゴォォォォォッ!!!!
棍棒の先が、砕けた断面へめり込んだ。
外殻に弾かれず、衝撃が柔らかい肉の奥へ一直線に沈んでいく。
一瞬遅れて、胴体の内側から鈍い破裂音が響いた。
ミシィィィィィッ!!!!
外殻の隙間から赤い光が噴き出す。
ボス蜘蛛の巨体が跳ね、残った脚が一斉に石床を掻いた。
ギギギギギギギッ――!!!!
絶叫みたいな軋みが広間を震わせる。
けど、脚はもう巨体を支えられなかった。
ドゴォォォンッ!!!!
ボス蜘蛛が、身体の右側から石床へ崩れ落ちた。
赤い光が二度、三度と明滅し、やがて完全に消える。
まだ心臓の音がうるさい。
握った棍棒を下ろせないまま見つめていると、視界の端へ文字が浮かんだ。
《打撃、上限突破》
《剛・打撃 Lv1を獲得》
《剛・打ち下ろし Lv1を獲得》
しばらく、誰も動かなかった。
広間の中央で、ボス蜘蛛の巨体は完全に沈黙している。
「……勝った?」
ミラの声に、ナオユキが盾を落とした。
「倒れた。今度こそ……倒れた」
その場へ座り込み、長い息を吐く。
床に倒れたまま、ドイルがへらっと笑った。
「いやぁ……新人に助けられるとか、ダサすぎるな、これ」
「笑っている場合ですか」
隣でズーリンが冷たく返す。
カズマは無言のまま、動かない蜘蛛を睨んでいた。
五人とも生きている。
けど、指一本動かせない麻痺は残ったままや。
「もう一度……浄化する」
ミラの腕に身体を預けていたハナが、震える手を持ち上げた。
「ハナ、無理するな!」
ナオユキが止めると、ハナは青ざめた顔で首を振った。
「ここまで助けたのに、動けないまま置いていけない」
息を整え、白潮旅団へ両手を向ける。
「今なら、ゆっくり集中できる。今度こそ……麻痺を抜く」
淡い水色の光が、倒れた五人を包み始めた。
ドイルが目を細める。
「はは……マジで新人かよ、お前ら」
「……お願いします」
ズーリンが静かに頭を下げた。
ナオユキは天井を見上げたまま、もう一度大きく息を吐く。
「死ぬかと思った……」
「ダイキ、最後だけ急に達人みたいだったね」
ミラがまだ興奮した顔で俺を見る。
「最後だけは余計や」
「最初からできたら、こんなにボロボロになってないだろ」
ナオユキが真顔で言った。
「盾役が横から刺すなや」
言い返すと、ミラが噴き出した。
その時、入口脇で木の根がほどける音がした。
「おおーーー……」
根の隙間から出てきたノクティスが、倒れたボス蜘蛛をきらきらした目で見上げる。
「ほんとに倒れてる。最後の、音が面白かった」
「音?」
「うん。途中から、カーンって感じになってた。前のより好き」
ノクティスは満足そうに頷いた。
「技の感想が、新曲みたいになってんで」
ノクティスが首を傾げ、張り詰めていた空気がようやく緩んだ。
「それで、何があったんですか?」
ナオユキが床へ座り込んだまま、ドイルを見る。
ドイルは寝転がったまま、倒れた蜘蛛を顎で示した。
「俺らが追ってた異常は、あの白蜘蛛だ。迷宮のモンスターを狩って、下へ行くほどでかくなってやがった」
七層で戦った大型の白蜘蛛を思い出す。
「八層から急に静かやったのは?」
「俺らが先に狩った」
カズマが短く答えた。
「じゃあ私たち、知らないうちに道を作ってもらってたんだ」
ミラが目を丸くすると、ドイルがへらっと笑う。
「その代わり、一番ヤバいのを残したけどな。ここには元々、海竜がいたんだよ」
「奥を調べるために海竜と戦って、あと少しで倒せるってところで――後ろから、あのクソ蜘蛛が来た」
「海竜と白潮旅団が弱るまで、隠れて待っていたようです」
ズーリンが横になったまま補足した。
「糸で俺らを固めて、弱った海竜だけ横取り。そこで一気に化けやがった」
ドイルが乾いた笑いを漏らす。
「蜘蛛にハイエナされたんか……」
「最初はそのまま食われると思ったんだけどな。海竜を倒したら俺らに興味なくして、代わりに白蜘蛛がわらわら集まってきた」
ズーリンが、倒れた女王蜘蛛へ目を向ける。
「急成長した個体を、群れが守ろうとしたのでしょう」
「殺すなら、さっさと殺してほしかったぜ。そしたら街へ戻れたのによ」
ドイルは軽く言ったが、誰も笑わなかった。
「……ふう」
ハナが息を吐くと、五人を包んでいた水色の光が消えた。
上げていた手が力なく落ち、ミラが慌てて支える。
「お」
ドイルの指先が動いた。続いて肩が上がり、ゆっくりと上半身を起こす。
「ハナちゃん、ありがとな。ちゃんと動くぜ」
「……よかった」
ハナはそれだけ言うと、ミラの肩へ額を預けた。
ズーリンも、ゆっくり身体を起こした。
カズマも無言のまま、握った拳を開閉している。
残りの二人も、呻きながら身体を起こしていた。
五人全員が、自分の手足で動いている。
それを見た瞬間、握り締めていた棍棒からようやく力が抜けた。
ドイルは奥の通路へ視線を向けた。
「さて、じゃあダンジョンの最奥……ダンジョンコアを見に行くか」
立ち上がり、いつものようにへらっと笑う。
「俺の勘だと、今回の異常の答えは、そこにあるぜ」
倒れた女王蜘蛛の向こうで、奥へ続く通路だけが青白く光っていた。
――――――
ダイキ
職業 なし
レベル 20
スキル
打撃 Lv56→60、打ち下ろしLv37→40
剛・打撃 Lv1、剛・打ち下ろしLv1
ダッシュLv16、ステップLv13、跳躍Lv10
回避Lv10、姿勢制御Lv6、予測Lv9
毒耐性Lv5、覚悟Lv3→5、水耐性Lv5、炎耐性Lv3、酸耐性Lv1
ユニークスキル
可塑覚醒
ハナ
職業 なし
レベル 17→20
スキル
(火)バトルイグニッションLv1
(水)ウォーターボールLv17→19、ヒールLv15→17、プロテクションLv9、浄化Lv4→6、アクアドリルLv1
(風)嵐斬Lv3
ダッシュLv4、回避Lv1
共感感知Lv8→10
炎耐性Lv1、毒耐性Lv1
魔力操作Lv7→9、多重展開Lv5
ナオユキ
職業 盾戦士
レベル 44→45
スキル
ガードLv20、強ガードLv20、構えLv20
全身ガードLv19→20、受け止めLv18→20、体勢保持Lv19
受け流しLv20、偏向Lv20、姿勢制御Lv17→18
武器逸らしLv15、連続受け流しLv15→16
横斬りLv20、袈裟斬りLv20、逆袈裟Lv20
炎薙ぎ払いLv16、炎斬り上げLv14、炎踏み込み斬りLv13
ダッシュLv12、ステップLv11、跳躍Lv9
緊急離脱Lv14、急接近Lv11
回避Lv8、予測Lv9、覚悟Lv7→8
炎耐性Lv10、水耐性Lv6、風耐性Lv5
木耐性Lv4、毒耐性Lv6、麻痺耐性Lv6
ミラ
職業 なし
レベル 14→20
スキル
射撃Lv9→12、速射Lv6→8、強弓Lv6→8、
水縛矢Lv1
ダッシュLv4、回避Lv4
念装填Lv1




