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4. 退路封鎖


「ナオユキさん!」

ハナが、即座に治癒魔法を飛ばす。

淡い光が、壁際のナオユキを包んだ。


「っ……はぁ……」

ナオユキが、荒く息を吐く。

盾を支えにしながら、なんとか立ち上がった。


「大丈夫か!?」

「……まだやれる」


声は重い。

盾を持つ腕が、わずかに震えていた。


その時、ボス蜘蛛の身体がぴくりと震える。


「っ……!」


嫌な予感がした。


ドバァッ!!


巨大な糸が、入口側へ撃ち出される。


「なっ――」


白い糸が、開いていた扉周辺へ一気に広がった。

ベチャベチャと粘つく音。

何重もの糸が、壁と床へ絡みついていく。


「うそ……」

ミラの顔が引きつった。


扉が、みるみる白く埋まっていく。

さっきまで開いていた退路が、一瞬で塞がれていく。


「逃がす気、ゼロやな……」

思わず呟く。


ボス蜘蛛は、じっとこちらを見ていた。

赤黒い目。

獲物を逃がさない捕食者の目や。


ナオユキが、入口を見る。

それから、ボス蜘蛛へ視線を戻した。


「……逃げ切れない」

短い声だった。


誰も、否定できなかった。


白い外殻が、ギチギチと軋む。

巨大な脚が、ゆっくり持ち上がった。


――本気で、殺しに来る。


その沈黙を破ったのは、ナオユキだった。

「俺が正面持つ」


盾を構え直す。

「ミラは脚を狙え。軌道ズラすだけでいい」

「ハナは動き読め。見えたら叫べ」


視線が、こっちへ向く。

「ダイキ、お前は横から削れ」


低い声。

けど、不思議と迷いはなかった。


「欲張るな」

「一発入れたら、すぐ離れろ」


ボス蜘蛛が、ゆっくり脚を持ち上げる。



ドゴォンッ!!

巨大な脚が、真正面から振り下ろされる。


「右来る!!」

ハナの声が飛んだ。

同時に、ミラの矢が脚の関節へ突き刺さる。


ガギィッ!!


ほんのわずか。

脚の軌道がズレた。


「っ……!!」

ナオユキが、盾を斜めへ滑らせる。

真正面では受けない。流す。


ズドンッ!!


衝撃が横へ逃げ、石床が砕けた。

それでも、耐え切る。

「次、左!!」

横薙ぎ。

また矢が飛ぶ。


ガギィンッ!!


脚がぶれた。

ナオユキが半歩ずらして受け流す。


その瞬間、空いた脇へ踏み込む。

「おらぁ!!」

脚の付け根へ、棍棒を叩き込む。


ガンッ!!


硬い。

だが、浅くは入った。


「いける……!」

ミラが叫ぶ。


ボス蜘蛛の脚が、連続で振り下ろされる。

右。

左。

前。

ハナの声が飛ぶ。

ミラが軌道をズラす。


ナオユキが受け流す。

その隙へ、何度も叩き込む。

今までで、一番噛み合ってる。


なのに。


削り切れない。


白い外殻へ傷は増えていく。

けど、それだけだった。


致命傷にならない。

止まらない。

倒れない。


「硬っ……!!」

棍棒が、白い外殻に弾き返される。

傷は増えている。

けど、致命傷には程遠い。


赤黒い目が、じっとこちらを見ていた。

余裕すら感じる。


「ハナ!」

脚を避けながら叫ぶ。


「ガーゴイルの時みたいに、ウォーターボール重ねられるか!?」

「……やってみる!」


ハナの周囲へ、水球が浮かぶ。

一つ。

二つ。

三つ。

水球が、ゆっくり重なっていく。


その間にも、ボス蜘蛛の脚が叩きつけられる。

「前っ!!」

ハナの声。

ミラの矢。

ナオユキの盾。


ギリギリで受け流す。

「できた!!」


振り向く。

巨大化したウォーターボールが、ハナの前へ浮かんでいた。

「いけぇっ!!」


水塊が一直線に飛ぶ。

だが。

巨大な脚が、真正面へ割り込んだ。


バシャァッ!!


水が弾け飛ぶ。

「なっ……!?」

防がれた。

しかも、ほとんど効いてない。


だが、その隙へ、再び踏み込む。

「おらぁぁっ!!」


今度は脚じゃない。

胴体側。

外殻の繋ぎ目を狙う。


ゴギンッ!!


別の脚が、横から割り込んできた。

棍棒が止められる。

「っ……!!」

そのまま押し返される。

床を滑った。


「ダメや……!」

全部、防がれる。

全部、対応される。


「右と左、同時!!」

ハナの声。


左右の脚が、同時に迫っていた。

「ミラ! 右お願い!!」

「任せて!!」

ミラの矢が右脚へ飛ぶ。

同時に、ハナのウォーターボールが左脚へ直撃した。


バシャァッ!!


左脚がぶれる。

けど。

右は止まり切らない。

「ぐっ……!!」


ドゴォンッ!!


ナオユキが、無理やり盾で受け止めた。

石床が陥没する。

その瞬間。

正面が空く。


「今や!!」

踏み込む。


最短距離。

脚の隙間を抜ける。

届く――


そう思った瞬間。


巨大な身体が、

滑るみたいに後ろへ流れる。


「なっ……!?」


速い。

デカいくせに、速すぎる。


その後も、何度も攻撃する。

けど。

全部、防がれる。

避けられる。

脚で止められる。


「チッ……!」

ナオユキが舌打ちした。

「ダメだ……地力が違いすぎる」


息が荒い。

盾を持つ肘が下がり、盾の縁が石床すれすれまで落ちていた。

「すまん……」

思わず漏れる。

「俺が応用技さえ使えれば――」


その瞬間。

来る。

速い。


「っ!!」

ミラが、反射的に矢を放つ。


外れた。

集中が切れかけてる。


「ナオユキ!!」

巨大な脚が、真正面から迫る。

盾は間に合った。

けど。


ズドンッ!!


衝撃。

直撃。

「がっ……!!」

ナオユキの身体が、吹き飛ぶ。


まずい。

壁――


「ハナ!!」

「分かってる!!」

ウォーターボールが、ナオユキの背後へ飛ぶ。


バシャァッ!!


水が弾けた。

衝撃が、わずかに逃げる。

それでも、ナオユキは壁へ激突した。

「っ……!」


だが、さっきより浅い。

「ナオユキさん!!」


「……ハナちゃん、助かった」

咳き込みながら、ナオユキが笑う。

「こんな使い方も、できるんだな……」


けど。

状況は最悪だった。

反撃の目が、見えない。

このままじゃ、じきに耐え切れなくなる。

逃げ道も、塞がれてる。


どうする――

その時だった。


ボゥッ!!


突然、

入口側の白糸が赤く燃え上がる。


「……は?」


白い糸が、一気に炎へ包まれていく。

塞がれていた退路が、

燃えながら崩れ落ちた。


赤い火の向こう。


小さな影が、

ゆっくり歩いてくる。


「待つの飽きた」

ノクティスだった。

いつもの調子で、ふわぁ……と欠伸していた。


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