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全身麻痺の俺は回復のためにVRMMOの世界で最強を目指す  作者: 和泉大輝
第7章. 白い蜘蛛が巣食う迷宮

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5. 届いた声(ハナ視点)

酸弾が飛び交い、白い腐食煙が広場を覆っていた。

さっきまで保てていた戦線は、もう形を失いかけている。


「ナオユキさん!

二匹来る!!」


叫ぶ。

けど。


「っ……!」

ナオユキさんは大蜘蛛を押さえるので限界だった。


ダイキも、硬い白蜘蛛に張り付かれている。

誰も、次の指示を出せない。


酸弾が飛ぶ。

蜘蛛が迫る。

声だけが増えていく。


その時だった。


『魔法使いのお姉ちゃん』


耳元で、声がした。


「……え?」

反射的に振り向く。

誰もいない。


『聞こえる?』


小さい声。

でも、はっきり聞こえる。


「……もしかして、ノクティスちゃん?」


『うん』

『念話ってスキルだよ』


息が止まる。

戦場の真ん中なのに、その声だけ妙に静かだった。


『お姉ちゃん、共感感知使えるよね?』


「っ……なんで、それを」


『わたしのユニークスキル』

『まぁ今はそれいいや』


軽く言ってから、ノクティスちゃんが続ける。


『魔法の対処、困ってるよね?』


「……っ」


言い返せない。

酸弾のせいで、みんな動きを止められている。


『お姉ちゃんなら、あれくらい普通に落とせると思うけどなー』


「……え?」

思わず声が漏れる。


『あとは、魔法を感じ取れるって気づくだけ』


でも、言われた瞬間、さっきから引っかかっていた感覚を思い出した。

酸弾が飛ぶ前。

ほんの少しだけ、“来る場所”が分かる気がしていた。


『魔法撃とうとしてる感じ、分かる?』

『あと、自分の魔力の流れ』


酸弾が飛ぶ。

ミラさんが悲鳴を上げながら避ける。

ダイキが蜘蛛を殴ろうとして、横から酸弾に邪魔される。

ナオユキさんも、大蜘蛛を押さえながら酸弾を捌いている。


このままじゃ、誰かがやられちゃう。


「っ……!」


目を閉じる。

共感感知を広げる。


敵意。

殺気。

白蜘蛛の動き。

魔力。


全部、一気に流れ込んでくる。


「っ……!」


多すぎる。

頭が割れそうになる。


『全部見ようとしなくていいよ』


ノクティスちゃんの声。


『あのでっかい蜘蛛だけ見て』


「……っ!」


意識を絞る。

大蜘蛛。

あの魔法。

どこへ撃とうとしているのか。

どう動かそうとしているのか。


――感じる。


「……っ!」


見えた。

酸弾の軌道。

次に飛ぶ場所。

大蜘蛛の魔法だけが、急にはっきり見える。


同時に、自分の中の魔力の流れまで鮮明になった。


「え……?」


周囲に、水が浮かぶ。


一つ。

二つ。

三つ。


まだ増える。

ウォーターボール。

しかも、止まらない。


『そうそう、それ!』


ノクティスちゃんの声が弾む。


『そのまま感知切らないで、水撃ってみて』


過去の記憶が、一瞬よぎる。


『感知で回避先を捉え、そのまま追尾へ乗せます』


リゼルさんに言われた言葉。

あの時は、避ける相手の“避ける意思”を感じ取った。

今回は違う。

感じ取るのを、酸弾を放つ意思へ変えるだけ。


「……やる!」


飛んできた酸弾へ、反射みたいにウォーターボールを撃つ。


ぶつかる。


バシュゥゥッ!!


白煙が弾ける。

消えた。


「っ!」


次。

また撃つ。

次々に相殺していく。


気づけば、身体が勝手に動いていた。

大蜘蛛が放った酸弾を、全部撃ち落としていく。

腐食煙は途中で白煙へ変わり、霧みたいに広場いっぱいへ広がった。


「……は?」

ダイキが目を見開く。


ミラさんも、逃げる足を止めていた。

「え、全部……消した?」


ナオユキさんが、驚いた顔をする。

「……ハナちゃん、今の」


大蜘蛛が動きを止める。

酸弾が消えた。

その一瞬で、空気が変わった。


ダイキが笑う。


「よっしゃ!」


目の前の硬い白蜘蛛へ、一気に踏み込む。

今度は邪魔がない。

棍棒が真正面から叩き込まれ、轟音と一緒に白蜘蛛の外殻が砕け散る。

巨体が壁へ吹き飛び、そのまま動かなくなった。


「まず一匹!!」


ダイキが吠える。

そのままナオユキさんの方へ走る。


ミラさんの矢が飛ぶ。

残っていた白蜘蛛の目へ突き刺さる。

怯んだところへ、ダイキが横から棍棒を叩き込んだ。


もう一匹。

崩れる。


「ナオユキ!!」


「分かってる!」


盾が大蜘蛛の脚を弾く。

その隙へ、ダイキが横から殴りつけた。

大蜘蛛が怒鳴るみたいな咆哮を上げる。


でも、もう酸弾は飛んでこない。

軌道が分かる。

全部、相殺できる。


再び大蜘蛛の周囲に酸弾が浮かぶ。


けど、怖くない。

飛ぶより先に、どこへ来るか分かる。


ウォーターボールを撃つ。


相殺。


次も。

その次も。


全部、消える。


大蜘蛛の動きが、目に見えて乱れ始めた。


「その魔法さえなければ、お前なんてデカいだけや!!」

ダイキが笑う。


その瞬間。


「援軍どもォ!!

トドメは任せたぜェ!!」


土壁の向こうから、モヒカンの怒鳴り声が響く。


次の瞬間。

手斧が飛んだ。

回転しながら、大蜘蛛の脚へ突き刺さる。


一本。

二本。


白い脚が、まとめて裂けた。


大蜘蛛の巨体が大きく崩れる。


「今!!」


ナオユキさんが叫ぶ。

ミラさんの矢が飛ぶ。


一射。

二射。

三射。


大蜘蛛の目を、正確に射抜く。

悲鳴。

巨体が暴れる。


そこへ。

ダイキが踏み込む。


ナオユキさんが止めた。

ミラさんが視界を潰した。

私が魔法を消した。


全部繋いだ、その先。


「終わりやぁ!!」


全力で振り下ろされた棍棒が、白い外殻ごと大蜘蛛の頭を叩き潰した。


轟音。


大蜘蛛の巨体が、ゆっくり崩れ落ちる。


静かになる。

広場に残るのは、荒い呼吸だけだった。

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