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全身麻痺の俺は回復のためにVRMMOの世界で最強を目指す  作者: 和泉大輝
第7章. 白い蜘蛛が巣食う迷宮

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4. 崩れ始める連携(ハナ視点)


嫌な気配だった。


広場全体を覆うみたいな殺気に、思わず喉が乾く。

共感感知を使っているせいか、空気そのものがざわついて感じた。


「気ぃつけろ……

そいつが親玉だ」


土壁の奥から飛んできた掠れ声に、空気が張りつめる。


広場の奥。

白い巨大な蜘蛛が、ゆっくり脚を動かした。


カツ。

カツ。


硬い脚音が、石壁に響く。


大きい。


車みたいな巨体。

脚は一本欠けていて、白い外殻には何本もの傷が走っている。

それでも、弱ってる感じはまるでなかった。


むしろ。

傷ついてるのに、空気だけは今までの蜘蛛よりずっと怖い。


「うげー……

あれ、ホントに蜘蛛!?

大っきすぎるんだけど!」

ミラさんが引きつった声を上げる。


「ゲームの中やからって、サイズ感おかしいやろ……」

ダイキも棍棒を握り直した。


土壁の陣地は、広場の壁際にある。

背後は石壁。

左右は土壁。

正面だけを開けて、白蜘蛛を受け止めている形だった。


その中にノクティスちゃん達がいるはずなのに、姿は見えない。

聞こえるのは、荒い息遣いと武器のぶつかる音だけ。


その時だった。


ふわり、と空気が揺れた。


「……え?」

思わず声が漏れる。


次の瞬間、身体が軽くなった。

第七層に入ってから、ずっとまとわりついていた重苦しさが、一瞬だけ薄くなる。


魔力の流れまで、急に鮮明だった。


同時に。

大蜘蛛の動きが、ほんの少しだけ鈍った気がした。


「なにこれ……?」

思わず呟く。


「たぶん、強化魔法と弱体魔法や」

ダイキが前を見たまま答えた。


次の瞬間、ナオユキさんが小さく目を細める。

「……こんな広範囲に、効果あるなんて、かなり高度な魔法だな」


あんな大蜘蛛まで鈍って見える。

しかも、こっちは身体が軽い。


(……すご)


「ヒャハッ!

ノクティスちゃん、まだやれんじゃねぇか!」


土壁の向こうからモヒカンの声が響く。


「援軍どもォ!

こっちの蜘蛛は抑える!

親玉頼んだァ!!」


土壁の向こうから怒鳴り声が響く。


その瞬間、広場中の白蜘蛛が一斉に動いた。


ほとんどは、そのまま陣地側へ殺到する。

壁や天井を這いながら、犬くらいの白蜘蛛が何匹も土壁へ飛びついていった。


けど。


そのうち三匹だけが、こっちへ向きを変える。


「来る!」


自分でもびっくりするくらい大きな声が出た。


大蜘蛛が真っ直ぐこちらへ向かってくる。

その後ろから、白蜘蛛三匹が壁と天井を使い、一気に距離を詰めてきた。


「ナオユキさん!」


「ああ!」


大蜘蛛が前脚を振り上げる。


次の瞬間、叩き潰すみたいに振り下ろされた脚を、ナオユキさんが真正面から盾で受け止めた。


轟音。


石床が砕け、衝撃が足元まで響く。

けど、ナオユキさんは下がらない。


「っ、重……!」


歯を食いしばりながら、盾を押し返す。

「大蜘蛛は俺が受ける!

先に雑魚を落とせ!!」


「了解!」


ダイキが一番近かった蜘蛛へ一気に踏み込む。

白蜘蛛が牙を鳴らしながら飛び込んでくる。


けど、ダイキは止まらない。


そのまま横薙ぎに棍棒を叩き込んだ。


鈍い衝突音。


白蜘蛛の外殻が砕け、そのまま身体ごと吹き飛ぶ。

蜘蛛は壁へ叩きつけられ、動かなくなった。


「よっしゃ!

まず一匹!」

ダイキが笑う。


速い。


しかも、迷いがない。


その横で、私とミラさんも動く。


ウォーターボールを放つ。

同時に、ミラさんの矢が飛んだ。


水弾で体勢を崩した蜘蛛へ矢が突き刺さり、白蜘蛛が悲鳴みたいな音を上げて転がる。


「やった!」

思わず声が出た。


「いや、まだ動いてる!

しぶとっ……!」

ミラさんが慌てて二本目の矢をつがえる。


その時だった。


ぞわっ、と背筋が粟立つ。


上。


天井を這う気配。


しかも速い。


「……っ!

一匹、上回ってる!」

反射的に叫ぶ。


全員の視線が上へ向いた。


白蜘蛛が天井へ張りつき、ミラの真上を取るように移動している。

脚が、じわりと縮む。


飛ぶ。


「ミラ、ダイキの方へ走れ!!

ダイキ、フォロー!!」


ナオユキさんの声が飛ぶ。


「ハナちゃん!

落とせ!!」


その瞬間、白蜘蛛が真上から飛びかかった。


「いやちょっ、待っ――!」

ミラさんが慌てて駆け出す。


ウォーターボールを撃つ。


直撃。


白蜘蛛が天井から落下する。

そこへダイキが踏み込み、横から棍棒を叩き込んだ。


けれど、その白蜘蛛だけ、外殻の色が少し違っていた。

白というより、骨みたいに鈍い色。


ガギィッ!!

嫌な音が響く。


白蜘蛛が、棍棒を脚で受け止めていた。


「……は?」

ダイキの声が止まる。


今までの蜘蛛と違う。


「なんやこいつ!

めっちゃ硬いやん!!」


白蜘蛛が牙を鳴らし、そのままダイキへ突っ込んだ。


「うおっ!」

ダイキが慌てて距離を取る。


脚の振りが速い。

しかも重い。


「ちょ、こいつ雑魚やろ!?

なんでこんな強いねん!!」


叫びながら棍棒を弾き返している。


その間にも、横ではナオユキさんが大蜘蛛を押さえ続けていた。


盾へ爪が叩き込まれるたび、鈍い衝撃音が広場に響く。


ナオユキさんは大蜘蛛を止めるので精一杯だった。

ダイキも、硬い白蜘蛛に張り付かれて動きを止められている。


まずい。


みんな、余裕がない。


(……私が、なんとかしないと)


その時、大蜘蛛が急に後ろへ下がった。


「……?」


距離を取る。


同時に、周囲にいた白蜘蛛二匹が大蜘蛛の近くへ戻っていく。


広場の音が、一瞬だけ遠のいた。

嫌な感じがした。


大蜘蛛の腹が、ゆっくり膨らむ。


次の瞬間。


大蜘蛛の周囲に、白く濁った液体の塊が浮かび上がった。


一つ。

二つ。

三つ。


「……え」


増える。


乳白色の酸弾が、宙へ次々と生まれていく。

刺すような刺激臭が広場へ広がり、思わず目の奥が痛くなる。


八個。


酸弾が、大蜘蛛の周囲をゆっくり回っていた。


「魔法……!?」


思わず息を呑む。


「はァ!?

蜘蛛が使うんかよそんなの!!」

ダイキの声が響く。


その瞬間、酸弾が飛び出した。


「散れ!!」

ナオユキさんの声と同時に、白い弾が一斉に飛ぶ。


速い。


ダイキが蜘蛛へ殴りかかった瞬間、横から酸弾が飛び込んだ。


バシャァッ!!


白い腐食煙が弾ける。


「っ、うわ!?

装備溶ける!!」


棍棒を引き戻しながら、ダイキが顔をしかめる。


石床がじゅうじゅう音を立てて溶けていく。

飛び散った液が、黒い泡を立てていた。


攻撃しようとするたび、酸弾が飛んでくる。


ナオユキさんも同じだった。

盾で大蜘蛛を止めながら、酸弾まで捌かされている。


しかも、残りの酸弾はこっちへ向かってきていた。


「多っ……!

ちょ、無理無理無理!!」


ミラさんが半泣きで逃げ回る。


ウォーターボールを撃つ。


水弾と酸弾がぶつかる。


バシュゥゥッ!!


白煙が噴き上がった。


けど、数が多すぎる。

一つ相殺しても、次が飛んでくる。


鼻が痛い。

目がしみる。

刺激臭が肺に刺さる。


白い煙が広場を覆い、一気に戦場が崩れ始めた。


さらに。


「おい!

二匹そっち行ったぞォ!!」

土壁の向こうからモヒカンの声が飛ぶ。


横を見る。

さっきまで陣地側へ向かっていた蜘蛛が二匹、こっちへ走ってきていた。


「ナオユキさん!

二匹来る!!」

叫ぶ。


けど。


「っ……!」


ナオユキさんは大蜘蛛を押さえるので限界だった。

ダイキも強い蜘蛛に張り付かれている。


誰も、次の指示を出せない。


酸弾が飛ぶ。

蜘蛛が迫る。

声だけが増えていく。


戦線が、一気に崩れ始めていた。


その中心で、

私はまだ、次に誰を助ければいいのかさえ決められなかった。

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