表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
全身麻痺の俺は回復のためにVRMMOの世界で最強を目指す  作者: 和泉大輝
第6章. 海霧迷宮に広がる異変

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
52/58

8. 間に合わなかった一歩



二匹。

確かに減った。


あと四匹。

このままいける。


そう思った、その瞬間だった。


「っ……!」


奥の方から、

かすれた叫び声が響いた。


全員の動きが止まる。


声。


人の声。


掠れていて、

今にも消えそうな声だった。


「……レオン、か……!」


喉を潰したみたいな、

必死の声。


「もう……結界が、もたない!」


空気が変わる。

ハナが顔を上げた。


「……トーマ!」


レオンの顔色が、

一瞬で変わった。


次の瞬間には、

もう走り出していた。


「セリア!! トーマ!!」


「っ、おい!」


止める間もない。


レオンの背中が、

通路の奥へ消える。


「しゃあない、追うぞ!」


俺も地面を蹴った。


湿った空気を切り裂いて走る。

角を曲がる。

もう一つ。

その先。


青い光が、暗い通路の奥で揺れていた。


小さな結界。

今にも砕けそうな、薄い青。


その中に、男が一人、膝をついていた。


あれがトーマか。


大柄な男だった。

鎧は傷だらけで、肩で息をしている。


その隣。

淡い青のローブを着た女が倒れている。


長い髪が石床に広がり、

片手には折れかけた杖を握ったままだった。


血。

動かない。


その光景を見た瞬間、

レオンが叫んだ。


「……セリア!!」


嫌な汗が、背中を伝った。


結界の外では、

残った白い蜘蛛たちがじりじりと囲んでいる。


霧に溶けるような白い外殻。

かち、かち、と鳴る硬い口器。

節だった脚先が、石を細かく引っかいていた。


床に見える影は三つ。


でも、

霧と暗がりのせいで、

天井までははっきり見えなかった。


そして、レオンの声を聞くと、

いくつもの目が一斉にそっちを向いた。


飛び込んできた獲物を、

待っていたみたいに。


レオンが叫ぶ。


「セリア! トーマ!」


その瞬間。


三匹が、一斉に腹を沈めた。


次の瞬間には、

白い影が石床を這うように飛び出していた。


レオンへ向かって、

一直線に迫る。


その後ろで。


青い結界に、

大きな亀裂が走った。


ぱきん、と嫌な音が響く。


その直後、

薄い青の壁が、

音もなくほどけるように消えた。


「やばっ!」


でも。


結果だけ見れば、間に合った。

結界が砕ける前に、

あいつらの意識はこっちに向いた。


作戦は崩れた。


けど、

助けるなら今しかない。


飛び込んできた一匹を、

ナオユキが真正面から受け止めた。


振り下ろされた前脚が、

盾に叩きつけられる。


鈍い衝撃。

盾ごと押し込まれる。


それでも止める。


「下がれ!!」


二匹目。

間髪入れずに来る。


「っ、まだ!」


踏ん張る。

受ける。

弾く。


硬い脚先が盾を擦り、

火花が散った。


三匹目。


そこへ、レオンが飛び込んだ。


振り下ろされた前脚を、

剣で無理やり受ける。


「させるかぁ!!」


その声で、俺も踏み込む。


三匹目の横。

白い外殻へ、棍棒を叩き込む。


重い。


手応えはある。

でも、浅い。


「っ、浅い!」


横から、

ハナの水弾が叩きつけられる。


鈍く弾ける。

怯む。


でも、倒れない。


硬い。

普通に、しぶとい。


「ミラさん!」


叫ぶ。


あと一発、

あいつの矢があれば落とせる。


そう思った。


でも。


返事がない。


振り向く。


ミラは。


消えた結界の中へ、

一直線に走っていた。


セリアを見た瞬間、

顔色が変わっていた。


これまで見せたことないような、

真剣な顔で。


迷いなく。


「……ミラさん!?」


届かない。

止まらない。


くそ。


起き上がろうとする白い蜘蛛が、

かち、と口器を鳴らす。


舌打ちが漏れた。


「っ、しゃあない!」


今はこっちや。


棍棒を握り直して、

目の前の敵に向き直る。


少し横では、

レオンが剣を振っている。


二人で一匹。

それでも、簡単には倒れない。


少し離れた前では、

ナオユキが二匹を相手に踏ん張っていた。


盾を構え、

ほとんど防戦一方。


押し返すので精一杯や。


そのさらに奥。


消えた結界の跡で、

倒れたセリア。


そのそばにミラ。


膝をついたトーマ。


あっちは、戦えない。


余裕なんか、ない。


目の前の一匹を、

まず倒さないといけない。


こいつに足を止められてる間に、

全部崩れる。


「っ、倒れろ!」


そのまま踏み込み、

三匹目へ棍棒を叩き込む。


鈍い音。


浅い。


まだ倒れない。


ちっ、

マジでしぶとい。


その時だった。


後ろから、

ハナの声が飛ぶ。


「……待って!」


振り抜きながら、

思わず返す。


「なんや!?」


ハナの顔色が変わっていた。

目を見開いている。


空気を探るみたいに、

視線が揺れる。


「数が……合わない!」


一瞬、

意味が分からなかった。


でも。


次の言葉で、

血の気が引く。


「セリアたちの方!」


「一匹、行ってる!!」


反射で視線を走らせる。


消えた結界の跡。


倒れたセリア。


そのそばにミラ。


その上。


白い蜘蛛が、

天井を這っていた。


霧に紛れるみたいに、

腹を石に張りつけたまま、

音もなくセリアたちの真上へ回り込んでいる。


一匹。


いた。


飛びかかってきたのは三匹。


でも、

最初は四匹いた。


残り一匹。


そいつは最初から前に出ていなかった。


床じゃなく、

天井から。


ずっと機を見ていた。


一番弱っている場所。


一番守れない場所。


まっすぐ。


セリアたちへ向かっている。


「っ、うそやろ!」


喉が焼ける。


近い。


かなり近い。


このままじゃ、

先に届かれる。


ナオユキも気づいた。


盾を動かそうとする。


でも。


前の二匹を離せば、

こっちが崩れる。


「くそっ……!」


止められない。


「ダイキ!」


ナオユキが叫ぶ。


「行くな!!」


分かってる。


行ったら、

こっちも崩れる。


たぶん正解じゃない。


でも。


そんなもん、

知るか。


「無理や!!」


地面を蹴る。


三匹目を無視して、

横を抜ける。


「おい!!」


後ろで、

ナオユキの怒鳴り声が響く。


それでも止まらない。


心臓がうるさい。


足が勝手に前へ出る。


間に合え。


間に合え。


間に合え。


駄目や。


届かない。


白い蜘蛛が、

天井から落ちる。


ミラの前。


倒れたセリアへ、

鎌みたいな前脚が振り下ろされる。


その瞬間。


トーマが、

無理やり身体を起こした。


「っ……!」


剣を杖みたいに突き、

ふらつきながら前に出る。


セリアを庇うように。


立ち塞がる。


「トーマ!!」


レオンの叫び。


次の瞬間。


白い蜘蛛が、

上からトーマに落ちた。


振り下ろされた前脚ごと、

その身体がぶつかる。


鈍い音。


身体が吹き飛ぶ。


その瞬間。


トーマの手が、

咄嗟に短剣を抜いた。


浅い。


それでも。


白い外殻の隙間に、

確かに突き刺さる。


黒っぽい体液が散る。


トーマの身体が、

地面に叩きつけられた。


動かない。


レオンが息を呑む音がした。


「……トーマ?」


返事はない。


そして。


粒子みたいに、

静かに消え始めていた。


「っ、くそぉ!!」


喉が裂けるくらい叫ぶ。


トーマが、

身体ごと止めてくれた。


あの一瞬。


それだけで、

十分だった。


「こっち見ろやぁ!!」


ダッシュスキル。


地面を蹴り砕くみたいに、

一気に間合いを詰める。


外殻の隙間。


トーマが作った傷。


そこへ。


全力で、

棍棒を叩き込む。


鈍い。


でも、入った。


もう一発。


もう一発。


もう一発。


「っ、倒れろや!!」


振り下ろす。


叩きつける。


何度も。


何度も。


ばき、と外殻が割れる音。


硬いものの奥で、

何かが潰れる感触。


それでも止めない。


その時。


魔物が、

ぐらりと体を起こした。


まだ立つ。


まだ来る。


「っ、まだか!」


振り上げた腕が、

一瞬だけ止まる。


その横から。


ハナのウォーターボールが、

頭部に叩きつけられた。


鈍い音。


いくつもの目が、

横へ逸れる。


怯む。


今や。


「終わりや!!」


全身の力を乗せて、

最後の一撃を叩き込む。


鈍い音と一緒に、

白い巨体が完全に崩れ落ちた。


息が切れる。


腕が震える。


目の前で。


トーマの身体が、

完全に消えていった。


遅かった。


守れなかった。


助けに来たのに。


それでも、

間に合わなかった。


その重さだけが、

胸の奥に沈んでいた。


息が荒い。


腕が痺れてる。


でも、

止まってる暇なんかない。


反射みたいに、

後ろを振り返る。


まだ終わっていなかった。


少し離れた前では、

ナオユキが二匹を相手にまだ踏ん張っていた。


少し横では、

レオンが一匹と斬り結んでいる。


その後ろでは、

ハナが息を切らしながら、

ウォーターボールと回復魔法を回し続けていた。


地面を蹴る。


一匹減れば、あとは早い。


包囲さえ崩れれば、

こっちの形に戻せる。


まずはレオンの方へ。


俺が踏み込み、

ハナのウォーターボールが怯ませる。


その隙を逃さず、

レオンと二人で叩き切った。


残り二匹。


続けざまに、

ナオユキのところへ走る。


ずっと受け止められ続けていた分、

あいつらの動きも鈍っていた。


盾で止める。


俺が叩く。


レオンが斬る。


最後に、

ミラの矢が濁った目のひとつを射抜いた。


それで、決着だった。


静かになった。


さっきまであれだけ騒がしかったのに、

聞こえるのは水の落ちる音だけだった。


誰も、

すぐには喋らなかった。


ミラは、

倒れたセリアのそばにいた。


必死に傷口を押さえている。


セリアは、

かすかに息をしていた。


生きてる。


その事実に、

一瞬だけ胸が緩む。


でも、

一人だけ、足りない。


トーマがいたはずの場所には、

もう何も残っていなかった。


助けに来た。


間に合ったものもある。


でも、

間に合わなかったものもある。


その重さだけが、

静かに胸の奥へ沈んでいった。


ダイキ

職業 なし

レベル 20

スキル

打撃 Lv53→54、打ち下ろしLv32→34

ダッシュLv14→15、ステップLv10、跳躍Lv9

回避Lv7→8、姿勢制御Lv5、予測Lv6→7

毒耐性Lv3、覚悟Lv2、水耐性Lv5、炎耐性Lv3

ユニークスキル

可塑覚醒ニューロアウェイク


ハナ

職業 なし

レベル 9→11

スキル

(火)バトルイグニッションLv1

(水)ウォーターボールLv12→13、ヒールLv8→10、プロテクションLv5→6、浄化Lv1

(風)嵐斬Lv3


ダッシュLv2→3

共感感知Lv3→4

炎耐性Lv1、

魔力操作Lv2→3、多重展開Lv2


ナオユキ

職業 盾戦士

レベル 42

スキル

ガードLv20、強ガードLv20、構えLv20

全身ガードLv18、受け止めLv17→18、体勢保持Lv19

受け流しLv20、偏向Lv20、姿勢制御Lv16

武器逸らしLv15、連続受け流しLv13

横斬りLv20、袈裟斬りLv20、逆袈裟Lv20

炎薙ぎ払いLv16、炎斬り上げLv14、炎踏み込み斬りLv13

ダッシュLv12、ステップLv11、跳躍Lv9

緊急離脱Lv13、急接近Lv10

回避Lv8、予測Lv9、覚悟Lv7

炎耐性Lv10、水耐性Lv6、風耐性Lv5

木耐性Lv4、毒耐性Lv5、麻痺耐性Lv6


ミラ

職業 なし

レベル 2→4

スキル

射撃Lv1→3、速射Lv1、強弓Lv1


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ