4.迷宮到着
船が接岸する。ごとん、と鈍い音が響いて、思わず小さく息を吐いた。
ついに着いた。海霧迷宮。
船を降りた瞬間、空気が変わる。
潮の匂いはあるのに、街の港とはまるで違った。
静かだった。
人はいる。冒険者も、他のパーティもいる。
なのに妙に静かだ。音が吸い込まれていくみたいだった。
前を見る。
巨大な石門。
古びた灰色の石でできた、海霧迷宮の入口。
前にも、ここには何度か来たことがある。
でも、倒れてからは初めてだった。
属性なし。
魔法も使えない。
前みたいには、たぶんいかない。
それでも。
この身体で、もう一度ダンジョンに入る。
それだけで、妙に胸が熱くなる。
「……おもろいやないか」
思わず、口の端が上がる。
「どこまで出来るか、試したるわ」
ミラがすぐに笑う。
「出たよ」
「絶対そう言うと思った」
ハナも、少しだけ緊張した顔のまま笑っていた。
ナオユキは、もう入口の周囲を見ていた。
他のパーティの動き。入っていく順番。戻ってくる連中の装備。
たぶん、そういうところを見てる。
白潮旅団は軽く手を上げて、先に奥へ消えていく。
ここから先は、本当に自分たちだけ。
誰も助けてくれないし、
失敗したら普通に痛い。
たぶん、
前みたいにはいかない。
でも。
だからこそ、
ちょっと燃える。
この身体で、
どこまでやれるのか。
ちゃんと試せる。
そう思うと、
怖さより先に笑ってしまった。
「……行こか」
そう言って、一歩踏み出した。
中に入る。
ひんやりしていた。
湿った空気。石の匂い。
どこかで水が落ちる音がする。
明るいのに、妙に暗い。
光はあるのに、安心できない。
街とは、完全に違う場所だった。
ミラが小さな声で言う。
「ダンジョンって、もっとこう……ゲームっぽいと思ってた」
「分かる」
ハナも頷く。
「もっとこう、親切設計というか……」
「現実が優しくない」
真顔で言うと、二人がちょっと笑った。
少しだけ、緊張がほどける。
その時だった。
ナオユキが、小さく手を上げる。
「止まれ」
空気が変わる。
前を見る。
暗がりの向こうで、何かが動いた。
最初に出てきたのは、小型の海獣だった。
犬くらいの大きさ。
ぬめった黒い皮膚に、低い姿勢。
四本の脚で地面を這うみたいに走ってくる。
一匹じゃない。
暗がりの奥から、
三匹。
目だけが、
妙にぎらついていた。
「……来る!」
そう思った瞬間、一匹が予想よりずっと速く飛び出した。
「下がれ!」
ナオユキの声が響く。
反応するより先に、ナオユキが前に出ていた。
盾を滑り込ませるみたいに差し込み、真正面からぶつかる。
鈍い音。
海獣の牙が、ぎり、と盾を削った。
でも、止まる。
すごい。
ただ受けたんじゃない。
立つ場所も、受ける角度も、全部計算してる。
「うまっ……!」
思わず声が漏れる。
「今!」
ナオユキの声と同時に、後ろからミラの矢が飛んだ。
まっすぐ。
迷いなく。
海獣の喉を、正確に射抜く。
一発。
きれいすぎる。
「ミラさん、すご……!」
ハナが素直に声を上げる。
ミラがちょっと得意そうに笑う。
「でしょ!」
その横から、別の一匹が跳ねた。
「っ!」
今度は、ハナが先だった。
詠唱もない。
手を上げるより早く、水の球が二つ、空中に生まれる。
そのまま、連続で叩き込まれた。
一発目で体勢を崩し、二発目で完全に吹き飛ぶ。
ナオユキが、はっきり動きを止めた。
「……今の、無詠唱か?」
「え」
ハナがきょとんとする。
「……たぶん?」
「たぶん、って」
さすがに驚いた顔だった。
「そんなの、上級職でもそうそう見ないぞ」
「えっ」
今度はハナの方が焦り出す。
「そ、そうなの?」
ミラも目を丸くする。
「え、そんなすごいことなの?」
ナオユキは短く頷いた。
「かなり」
最後の一匹が、その隙を縫って突っ込んでくる。
「っ」
ナオユキが動くより先に、
「そいつは俺のやろ」
踏み込む。
ほとんど反射だった。
考えるより先に身体が前へ出る。
真正面からぶつかって、そのまま棍棒を振り抜く。
重い手応え。
骨ごと砕くみたいな感触が、
腕まで響いた。
巨体が横に吹き飛び、
石床を転がる。
ミラが目を丸くする。
「え、ちょっと待って、怖」
「やろ?」
ちょっと気分がいい。
静かになった。
少しだけ遅れて、ようやく息を吐く。
「……いけるやん」
思わず笑ってしまう。
ハナも、ほっとしたように肩の力を抜いた。
「よかった……」
ちゃんと、戦えていた。
思ったより、ずっと。
ナオユキも、小さく息を吐く。
「……まあ、初戦にしては悪くない」
その言い方が、逆にちょっと嬉しい。
俺は棍棒を肩に乗せて、にやけるのを隠せなかった。
「いや今の、完全にパーティっぽかったやん」
ミラがすぐに笑う。
「でしょ!最初からそう言ってるじゃん!」
「もっと奥いけるんじゃない?」
ハナも、少しだけ笑って頷く。
「うん。ちゃんとやれそう」
思ったより、
ちゃんと形になっていた。
完璧じゃない。
たぶん、
まだ危ういところもある。
でも。
この四人で、
今日の攻略はちゃんと回せそうだ。
そう思えたのが、
なんだか一番嬉しかった。
迷宮の奥は、
まだ静かだった。
ダイキ
職業 なし
レベル 20
スキル
打撃 Lv53、打ち下ろしLv32
ダッシュLv14、ステップLv10、跳躍Lv9
回避Lv7、姿勢制御Lv5、予測Lv6
毒耐性Lv3、覚悟Lv2、水耐性Lv5、炎耐性Lv3
ユニークスキル
可塑覚醒
ハナ
職業 なし
レベル 9
スキル
(火)バトルイグニッションLv1
(水)ウォーターボールLv12、ヒールLv8、プロテクションLv5、浄化Lv1
(風)嵐斬Lv3
ダッシュLv2
共感感知Lv3
炎耐性Lv1、
魔力操作Lv1→2、多重展開Lv2
ナオユキ
職業 盾戦士
レベル 42
スキル
ガードLv20、強ガードLv20、構えLv20
全身ガードLv18、受け止めLv17、体勢保持Lv19
受け流しLv20、偏向Lv20、姿勢制御Lv16
武器逸らしLv15、連続受け流しLv13
横斬りLv20、袈裟斬りLv20、逆袈裟Lv20
炎薙ぎ払いLv16、炎斬り上げLv14、炎踏み込み斬りLv13
ダッシュLv12、ステップLv11、跳躍Lv9
緊急離脱Lv13、急接近Lv10
回避Lv8、予測Lv9、覚悟Lv7
炎耐性Lv10、水耐性Lv6、風耐性Lv5
木耐性Lv4、毒耐性Lv5、麻痺耐性Lv6
ミラ
職業 なし
レベル 2
スキル
射撃Lv1




