8.四人で行こう
次の日。
昨晩の食事のあと。
「せっかくだし、まずはみんなでギルド行こうか」
そう言い出したのは、ナオユキやった。
装備も揃った。
まずはちゃんと、何ができるのか知りたい。
そんな流れで、
今日は四人でギルドに向かうことになった。
ギルドの前に着くと、もうミラとナオユキがいた。
「遅い!」
開口一番、それや。
「いや、全然約束の時間やろ」
「気持ちの問題よ! こっちは一回ログアウトして、さっき戻ってきたのに!」
胸を張って言い切る。
ナオユキが苦笑する。
「ミラ、さっき戻ってきたばっかりなのに、もう待ってたらしいぞ」
「楽しみだったの!」
悪びれもしない。
ハナが小さく笑う。
「元気だね」
「でしょ!」
なぜか誇らしげや。
……騒がしい。
でも、悪くない。
ナオユキがギルドの扉を親指で示す。
「じゃ、行くか」
四人で、そのまま中へ入った。
ギルドの中は人で溢れていた。
依頼を探すやつ。
報告してるやつ。
装備の話で盛り上がってるやつ。
「うわ、めっちゃ人いるじゃん!」
ミラがきょろきょろと辺りを見回す。
「まずはミラのギルド登録だな」
ナオユキがカウンターを指さす。
俺も続ける。
「未登録はクエスト受けられへんからな」
「え、そうなの!?」
ミラが慌てて前に出る。
――しばらくして。
「次の方」
受付の声に、ミラがぴっと手を上げる。
「登録お願いします」
受付が慣れた様子でうなずく。
「属性の確認を行います」
「魔法を使用してください」
ミラは少しだけ得意げな顔をした。
「魔法は使えないので」
「属性確認は別の方法でお願いします」
ついさっきナオユキに習った通りに言う。
受付は特に驚いた様子もなく、淡々とうなずく。
「分かりました」
机の上に、小さな装置が置かれる。
透明な板。
その内側に、淡い光が揺れていた。
「こちらに手をかざしてください」
「へぇ、なんかかっこいい」
ミラが素直に感心しながら、手をかざす。
ふわり、と光が走る。
板が青く染まった。
受付が確認する。
「水属性ですね」
ミラがぱちぱち瞬きをする。
「え、水なんだ」
「では、登録完了しました」
「え、もう?」
「はい」
少し間。
「……できた!」
くるっと振り返る。
「ねえ、今の見た!?」
「見てた見てた」
ナオユキが笑う。
俺も肩をすくめる。
「問題なしやな」
ハナが小さくうなずいた。
「登録おめでとう」
登録が終わると、ナオユキが軽く手を叩いた。
「よし。じゃあ依頼見るか」
そのまま奥の壁を指さす。
大きな掲示板。
紙がびっしり貼られている。
採集依頼。
配達依頼。
討伐依頼。
護衛依頼。
その横には、迷宮探索の札まで並んでいた。
「うわ」
ミラが素直に声を漏らす。
「めっちゃあるじゃん」
きょろきょろと視線が忙しい。
「どれがいいの?」
ナオユキが掲示板の前に立つ。
「最初は簡単なのからだな」
一枚、紙を指で叩く。
「街中の配達」
ミラがすぐに顔をしかめた。
「えー、配達はやだ」
「なんでや」
「冒険って感じしない!」
即答やった。
ハナも小さくうなずく。
「ちょっと分かるかも」
ナオユキが苦笑する。
「じゃあ、これは」
次の紙を指さす。
「薬草採集」
それを見た瞬間、思わず顔が引きつった。
「……それは嫌や」
ナオユキが眉を上げる。
「なんでだよ」
「薬草採集はもう懲り懲りや」
青い花。
あれを採りに行って、
どれだけ面倒なことになったか。
思い出しただけで胃が重い。
ミラがきょとんとする。
「え、そんな大変なの?」
「めちゃくちゃ大変やった」
即答した。
ハナが横で小さく笑う。
「本当に大変だったね」
ナオユキが吹き出す。
「じゃあ、それは却下だな」
そのまま、さらに横の紙を指す。
「じゃあ、これは」
「港周辺の魔物討伐」
ミラの目がぱっと光る。
「それっぽい!」
ミラが身を乗り出す。
……分かりやすいな。
「じゃあ、これ――」
ナオユキが続きを言いかけた、その時だった。
「……って、オイ。テメェら昨日のヤツじゃねぇか!!」
荒っぽい声が、後ろから飛んできた。
振り返る。
昨日、港でミラに絡んでいた連中。
黒い腕章をつけた、あのモヒカン軍団やった。
先頭の男が、露骨に嫌そうな顔をしている。
他の連中より一回り背が高く、
赤く染めたモヒカンがやたら目立つ。
黒い腕章には、波を裂くような銀の紋章が入っていた。
「うわ、昨日のやつらじゃん」
ミラの顔が一気にしかめられる。
男の視線が、掲示板の依頼書をなぞる。
配達。
薬草採集。
港周辺の討伐。
口の端が歪む。
「なんだァ?クソ初心者じゃねぇか」
視線が、俺たちを順番に舐める。
「仲良く冒険ごっこでちゅか?」
わざとらしく首を傾ける。
「ってか?」
後ろのモヒカンたちが一斉に吹き出した。
「ギャハハハ!」
空気が、一気に悪くなる。
ミラが一歩前に出る。
「そっちこそ!」
「昨日、自分でぶつかってきたくせに!」
男の眉がぴくっと動く。
「そのせいでよォ!!
運んでた荷物、ぜーんぶパァだ!!」
「護衛クエストも失敗」
「そのまま追い出されたってワケよォ!!」
……ああ。
昨日ぶつかった荷物か。
ミラも一瞬だけ詰まる。
でも、すぐに睨み返した。
「知らないわよ、そんなの!」
「八つ当たりしないで!」
「あぁん?」
空気が張る。
さすがにまずい。
俺が前に出ようとした、その時だった。
「そこまでにしてください」
低く、よく通る声が割って入った。
背の高い女性職員だった。
制服をきっちり着込み、髪を後ろでまとめている。
声は静かなのに、その一言だけで場の空気が止まった。
職員は淡々と全員を見回す。
「本日、緊急依頼が発生しました」
ざわ、と周囲の空気が変わる。
「海霧迷宮の調査依頼です」
その言葉に、ギルドの中が一気にざわついた。
海霧迷宮。
昨日から何度か耳にしてる名前や。
この街の冒険者なら、誰でも知ってる場所らしい。
職員は続ける。
「この後、詳細説明を行います」
「参加希望者は、奥の説明室へお集まりください」
赤いモヒカンの男が鼻で笑う。
「……へぇ」
俺たちを見て、口の端を上げる。
「まあ、お前らには無理だな」
「初心者は街で配達でもしてろよ」
そのまま、肩を揺らして歩いていく。
他のモヒカンたちも、笑いながら続いた。
「……むかつく」
ミラが悔しそうに唇を噛む。
そのまま、勢いよく振り返る。
「ナオユキ!」
ハナも、静かに俺を見る。
「ダイキ」
一瞬、間。
次の瞬間。
「私たちも参加しよう!」
ぴったり声が重なった。
思わず、ナオユキと顔を見合わせる。
……やっぱ、そうなるか。
ナオユキが小さく笑った。
「俺は最初から、そのつもりだけどな」
俺も肩をすくめる。
「まあ、配達よりは面白そうやしな」
ミラがぱっと笑う。
「よし、決まり!」
四人で、奥の説明室へ向かう。
重い扉の前。
中から、ざわめきが漏れていた。
ナオユキが小さく息を吐く。
「……もう集まってるな」
扉を開ける。
その瞬間。
空気が変わった。
部屋の中には、いくつものパーティが集まっていた。
さっきのモヒカンたちもいる。
さっきまであれだけ偉そうだったのに、
ここでは妙に大人しい。
見れば分かる。
全員、強い。
装備。
立ち方。
視線。
俺たちとは、明らかに違う。
場違い。
その言葉が、一番しっくりきた。
その中でも。
ひときわ空気の違う五人組がいた。
先頭にいるのは、白いコートを羽織った金髪の男。
隣には、細い銀縁眼鏡をかけた黒髪の女性。
さらに後ろには、黒い短髪の男が、飾り気のない大ぶりの剣を腰に下げて立っている。
笑ってる。
雑談してる。
片手で飲み物まで持ってる。
なのに、その周りだけ、
不自然なくらい空間が空いていた。
誰も近づかない。
近づけない、の方が正しいのかもしれへん。
余裕。
圧倒的に、それやった。
派手な装備。
無駄に軽い笑い方。
チャラそうな雰囲気。
でも、分かる。
こいつらが、一番強い。
ミラが小さく呟く。
「……あの人たち、なんか違うね」
ナオユキの声が、少しだけ低くなる。
「白潮旅団」
視線は、あの五人組のまま。
「この街で、一番強いクランのメンバーだ」
その一言で、
十分すぎるくらい伝わった。
白いコートの男が、
ふとこちらを見る。
軽く笑う。
ただ、それだけ。
なのに。
背筋が、ぞくりとした。
海霧迷宮。
……強いやつがいる。
それだけで、
ちょっとワクワクしてる自分がいた。
第5章を最後までお読みいただき、ありがとうございます。
二人で始まった旅に、ナオユキとミラが加わって、ようやく四人になりました。
ダイキとハナだけの時とは会話のテンポも変わり、書いていて楽しい組み合わせです。
次章の舞台は海霧迷宮。
白潮旅団との出会いが、四人の初探索を思わぬ方向へ動かしていきます。
四人の挑戦をこの先も見届けたいと思ってもらえたら、ブックマークしてもらえるとうれしいです。
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