7.最強を目指して
買い物が終わる頃には、完全に夜やった。
四人で港沿いの食堂に入る。
焼き魚。
海鮮スープ。
香草焼きの貝。
海老の串焼き。
テーブルいっぱいに並ぶ。
「え、待って、これ全部美味しそうすぎない!?」
ミラのテンションが最高潮や。
「まだ食う前やろ」
ナオユキが笑う。
一口食べた瞬間。
「やばっ!」
「これ、めっちゃ美味しい!」
リアクションがでかい。
ハナまでつられて笑ってる。
しばらく食べ進めたところで、ミラがふと顔を上げた。
「そういえばさ」
フォークを持ったまま、こっちを見る。
「みんなって、レベルいくつなの?」
ナオユキが肩をすくめる。
「俺は42」
ミラがぴたりと止まる。
「え、それ高いの?」
「この街なら、まあそこそこ」
「職業は盾戦士」
「前に立って、敵の攻撃を受ける役だ」
「へぇー!」
ミラが素直に目を輝かせる。
「なんかめっちゃ強そう!」
「実際、昨日も助けてもらったしな」
港でのことを思い出す。
あの時、あいつがおらんかったら、たぶんもっと面倒やった。
ミラもすぐにうなずく。
「たしかに!」
「めっちゃ頼もしかった!」
ナオユキが苦笑する。
「褒めても何も出ないぞ」
ミラがすぐに身を乗り出す。
「ハナちゃんは?」
ハナが小さく口を開く。
「私は9」
ミラが少し考える。
「じゃあ、私よりずっと先輩なんだ」
「ハナちゃんは、職業ないの?」
ナオユキがうなずく。
「レベル20までは職業はない」
「そこから自分の戦い方に合わせて選ぶんだ」
「へぇー」
ミラが何度もうなずく。
「じゃあ私は、まだまだ先か」
「私は1!」
なぜか少し誇らしげや。
「今日来たばっかり!」
「それは、みんなよーく知ってるわ」
「あはは!そういえばそーね!」
笑いが広がる。
ナオユキがこっちを見る。
「で、お前は?」
「俺は20。前衛や」
ミラがぱっと顔を上げる。
「じゃあ職業あるんだ!」
「……いや、ない」
ミラがきょとんとする。
「え?」
ナオユキが先に答える。
「普通はある」
そのまま、少しだけ表情が変わった。
ため息をひとつ。
「俺、属性ないねん」
ナオユキの眉が、わずかに動く。
「……マジか」
ミラが首をかしげる。
「え、属性ないって、そんなに珍しいの?」
「珍しいっていうか……」
ナオユキが少し眉を寄せる。
「ほぼ聞いたことがない」
「俺もそう思う」
肩をすくめる。
ハナは黙ったまま、こっちを見ていた。
ナオユキが少し真面目な顔になる。
「……それ、その格好とも関係あるのか?」
視線が、自然と入院着に落ちる。
……やっぱ、コイツ勘ええな。
少しだけ、言葉が止まる。
隠そうと思えば、まだ隠せる。
でも。
ここまで来て、
何も言わんのも違う気がした。
「ああ」
短く答える。
ここまで来たなら、隠してもしゃあない。
俺は、少しだけ息を吐いた。
「元々、普通に暮らしてたんや」
視線を落とす。
「花菜と、これから二人で暮らす話してて」
少しだけ笑う。
「部屋探して、家具どうするとか」
「そんな話してた」
ほんまに、ただの普通の日やった。
「その途中で、急に倒れた」
右手が、動かへんかった。
立とうとしても、足に力が入らんかった。
「次に気づいた時には、もうここにおった」
それから俺は、
これまでのことを話した。
脳梗塞だったこと。
現実の身体が、まともに動かないこと。
SEEDが治療のための接続であること。
元に戻るために、
ここで強くならなあかんこと。
そして。
ハナが、そのために
一緒にここへ来てくれたこと。
話し終わる頃には、さっきまでの賑やかさが少し遠くなっていた。
ナオユキが静かに息を吐く。
「……冗談、じゃないんだよな」
「ああ」
「……そうか」
少しだけ、視線を落とす。
「大変だったな」
それから、まっすぐこっちを見た。
「よし」
「リハビリ、俺にも手伝わせてくれ」
ミラは少しだけ黙っていた。
たぶん、
どう言えばいいのか考えてたんやと思う。
それから、ぱっと顔を上げた。
「うん、私も!」
「初心者だし、役に立たないかもしれないけど」
少しだけ、言葉を探して。
「今日、助けてもらったし」
「今度はちゃんと、助けるよ」
思わず、少し笑う。
「みんな、ほんまにありがとうな」
三人を見る。
「けど」
少しだけ、口の端を上げる。
「俺が目指してるんは、最強やから」
「結構、ハードな道やで?」
一瞬、間。
ナオユキが吹き出した。
「最強?」
肩を揺らして笑う。
「それはダイキらしすぎるな」
にやりと笑う。
「なら、最強の盾になってやるよ」
ミラもすぐに手を挙げた。
「私も!」
胸を張る。
「こう見えても、弓道部の部長と仲良かったんだよ!」
「それ、実力関係ないやん!」
思わずツッコむ。
ミラが笑う。
ナオユキも笑う。
その横で、ハナが小さくグラスを持ち上げた。
「……じゃあ」
少しだけ、照れたように。
「みんなで、乾杯しよう」
一瞬、静かになる。
それから、ミラがぱっと笑った。
「それ、いい!」
ナオユキもグラスを持つ。
「賛成」
俺も、自分のグラスを手に取る。
四人のグラスが、テーブルの上で小さく集まる。
ハナが、少しだけ笑った。
「最強を目指して」
小さな音が鳴る。
乾杯の音だった。
潮の匂いが、静かに夜へ流れていく。
……悪くない。
そう思えた。




