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5.港の騒動

「だから、あんたが急に立ち止まったからだろ!」


商人らしい男が、足元の木箱を指さして声を荒らげた。

箱は角から壊れ、割れた瓶の赤い液体が石畳を流れている。


「ちょっと待って!」

「私が悪いって決めつけないで!」


囲まれた女性が、肩までの明るい茶色の髪を揺らして振り返る。

俺らより少し年上やろか。落ち着いた顔立ちなのに、睨み返す目だけは強い。


商人と五人の護衛に囲まれても、一歩も退かへん。

美人やけど、それ以上に気ぃ強そうや。


横で、ハナの足が止まった。


「弁償してもらおうか」

商人が声を低くした。

商人の後ろにいた護衛の男たちが、一歩前へ出た。


揃いの黒い腕章。


そして、見事なくらい全員モヒカン。


……なんでやねん。


目つきも悪い。

ちゃんと怖い顔で睨んできてる。


どう見ても、まともな護衛やない。


その時だった。


「おい、やりすぎじゃねーか」

その声に、思わず足が止まる。


……え?


人混みの向こう。

前に立った男の横顔が見えた。


黒髪。

少し鋭い目つき。

軽装鎧の男は、左腕の使い込まれた盾を、女性と男たちの間へ向けていた。


見間違えるはずがない。


「……ナオユキ?」

思わず声が漏れる。


男の肩がぴたりと止まる。


振り向いた顔を見た途端、俺の口元が勝手に緩んだ。


「ダイキ!?」


高校時代から何度も見てきた顔。

間違いない。

「やっぱナオユキか!お前、なんでこんなとこにおんねん!」


ナオユキが苦笑する。

「それはこっちのセリフだろ」


でも、その視線はすぐ男たちへ戻る。


「一人の女性を囲んで何してんだよ」

護衛のモヒカンが睨み返す。

「なんだぁ、お前?」


一人がナオユキの胸ぐらを掴もうと手を伸ばす。

ナオユキは盾を二人の間へ差し入れた。

伸ばされた手が、盾の縁の手前で止まる。


その瞬間、俺も前へ出た。


「やめとけ」

低く言う。

俺は盾の横へ並び、女性の前に立った。

ハナもすぐ横につく。


護衛五人。

こっちは俺、ハナ、ナオユキ。


でも、周囲の視線が一気に集まり始めていた。

港の通りのど真ん中や。

さすがに相手も、ここで騒ぎを大きくしたくはないはずや。


ハナが足元の木箱を指した。

「留め具も、外れてるよ」


箱の角が割れ、金具が半分浮いていた。

落ちた衝撃で壊れたのか、運んでいた時から外れていたのか。

今の箱だけでは、俺には分からへん。


「ぶつかるところ、見てた人おる?」

俺が周りへ聞くと、商人が声を張った。

「こいつが急に止まったんだ!」


女性が盾の後ろから言い返す。

「だから、後ろからぶつかられたって言ってるでしょ!」


ナオユキは盾を下げず、商人を見た。

「なら、港の職員にも確認してもらおう。金の話は、その後だ」


「そうだな。勝手に決めるなよ」

見物していた船乗りが、職員のいる方へ手を上げる。


商人がそちらを見て、口をつぐんだ。

護衛の一人も、盾から手を引っ込める。

集まった視線を見回し、モヒカンの男が舌打ちした。


「……テメェら覚えてろよ」

低い捨て台詞。


商人も割れた木箱を抱え、護衛たちを追って人混みへ消えた。

見物人が散り始める。

ナオユキがこっちを見て、肩をすくめた。


「盾を買い替えに来ただけなのに、何やってんだかな」

「そこに俺まで出てきたわけか」

俺が言うと、ナオユキがようやく笑った。


「マジで久しぶりだな」


思わず笑う。


「ほんまや」


高校の帰り道。

コンビニ前でだらだら話してたあいつが、今、港町のど真ん中におる。


なんやこの再会。


「お前、昔から首突っ込むよな」

俺が笑う。

ナオユキも鼻で笑った。

「お前にだけは言われたくねーよ」


その瞬間、二人で笑ってしまう。


ナオユキが盾を下ろし、俺の横を見た。

「ハナちゃんも一緒だったんだな。久しぶり」


「お久しぶりです」

ハナも、ようやく肩の力を抜いて笑った。


その横で、さっきの女性がぱっと顔を上げた。


「助かったー……!」

胸をなで下ろすように大きく息を吐く。


それから、少し慌てたようにこちらを見た。


「ありがとうね! あ、私はミラよ!」


ミラが両手を合わせた。

「それで、もう一つだけ助けてほしいんだけど」


俺は、去っていった男たちの方を見た。

「まだあるん?」


ミラは両手を合わせたまま、左右の通りを見比べた。

「この街で、まず何すればいいの?」

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