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全身麻痺の俺は回復のためにVRMMOの世界で最強を目指す  作者: 和泉大輝
第5章.港町で出会う仲間たち

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2.旅立ち前の準備


ギルドを出た瞬間、俺は思わず足を速めていた。


「……やっとや」

思わず口から漏れる。


尾行を振り切るために、買い物どころやなかった日もあった。

装備屋の前を横目に、そのまま街を飛び出したこともある。

ハナに魔法屋で全財産を突っ込んで、自分の装備は後回しになったこともあった。


それが、ようやくや。

「ついに装備屋や!」

思わず声が弾む。


ハナも隣でぱっと笑った。

「やっと行けるね!」


胸の奥が、じわっと熱くなる。

新しい街へ向かう前に、ちゃんと準備を整えられる。

それだけで、なんやちょっと冒険者っぽい。

俺たちは足早に装備屋へ向かった。


外の空気は少しひんやりしていて、朝の風が頬を撫でていく。

旅に出る前のこの感じ、嫌いやない。


店に入ると、革と布の匂いがふわっと鼻をくすぐった。

壁には旅装束や軽装備が整然と並び、窓から差し込む朝の光が金具をきらりと光らせている。


「街道歩くなら、ちょっと動きやすい方がいいよね」

ハナが店先を見回しながら、ぱっと目を輝かせる。

「……これ、可愛い!」


手に取ったのは、淡いピンクのショートケープ付きの旅装束だった。

白いブラウスに、動きやすそうなチュニック。

裾には小さな銀糸の刺繍が入っていて、光の加減で控えめにきらめく。


その時、店の奥から店員の女性がにこやかに近づいてきた。

「お目が高いですね」


「そちらは見た目重視に見えて、実は街道用の人気装備なんですよ」


ハナがぱっと顔を上げる。

「え、そうなの?」


「はい」


「軽量防護繊維を織り込んでおりますので、見た目以上に防御性能があります」


「短時間なら防水と防風の簡易魔法も付与されていますので、海風の強い街道にも向いています」


「さらに、こちらの刺繍は魔法職向けの詠唱補助術式です」


「魔力の流れを安定させるので、初級から中級魔法の発動精度が上がりますよ」


「すご……!」

ハナの目がさらに輝く。

「それ、めっちゃいい!」

もう完全に気持ちは決まってる顔や。


「お、ええやん」

「めっちゃハナっぽい」


淡いピンクが、思った以上によう似合ってる。

旅装束のはずやのに、なんか少しだけ街の空気まで明るくなった気がした。


「ほんと?」

「これにする!」


くるっとその場で軽く回る。

淡いピンクの布が、ふわっと揺れた。

「うわ、これ可愛い……!」

「旅って感じする!」


めっちゃテンション上がっとる。

見てるこっちまで、ちょっと楽しくなる。

俺も防具棚に目を向ける。

(……頼むから、もうこの入院着だけは変えさせてくれ)


軽装備を選んで、装備変更を試す。

次の瞬間、視界の端に赤い文字が浮かぶ。


【安全制限中のため変更できません】


「……は?」

思わず声が漏れる。

もう一度試す。

同じ表示。


【安全制限中のため変更できません】


「え、装備変えられへんの?」

思わず声が大きくなる。

「俺、ずっと入院着なん?」


「嘘やろ……」


胸の奥が、すっと冷える。

病院の白い服。

見慣れたはずやのに、こうして街の装備屋で見ると、浮いてるなんてもんやない。


「てか、安全制限ってなんやねん」

思わず画面に向かって文句が漏れる。


「入院着でモンスターと戦う方が、よっぽど危険やろ」


ハナが横で目を丸くする。

「た、たしかに……」


「これ考えたやつと、一回話させてくれ」

思わず天井を見上げる。


いや、待て。

こんなこと考えててもしゃあない。

俺は軽く頭を振る。

「……よし、切り替えや」


深く息を吐く。

「武器や」

「武器さえ変わったら、だいぶ印象変わるやろ」


そのまま武器棚へ向かう。

(……って、武器まで変更不可とか、さすがにないやろな)


並んだ剣の一本を手に取る。

細身で、見た目も悪くない。

「お、剣装備できるやん」


軽く振ってみる。

悪くない。

「ハナ、これどーよ?」


ハナがくすっと笑う。

「棍棒よりは、だいぶいいね」

「やんな?」


その瞬間、頭の中にひっかかる。

(……あ)

手が止まった。


剣。

これまで積み上げた打撃スキル、全部使えへんやん。

振り下ろす動き自体はできる。

でも、それは剣の【斬撃】扱いや。

俺が今積み上げてる【打撃】ツリーとは、完全に別もんやった。


頭の中に、これまでの戦闘の動きがよぎる。

打ち下ろし。

連打。

叩き込み。

連携。

全部、棍棒前提や。


(……ここまで積み上げたもん、捨てるのはちゃうな)

俺は店員に向き直る。

「打撃スキル使える武器って、他にある?」


店員が少し申し訳なさそうに棚を見やった。

「打撃系武器は少々不人気でして……」


「当店で扱っているのは、こちらのモーニングスターのみになります」


差し出されたそれを見て、思わず顔が引きつる。

「……重っ」

鉄球に棘。

鎖付き。

いや、強そうではある。


でも。

これまでみたいな素早いスキル連携は無理や。

(あかん、これじゃ別もんや)


しばらく見つめて、俺はそっと元の棍棒に手を戻した。

「……よし」

ハナが首をかしげる。

「それでいいの?」


「アクアポートまで行けば、もっと品揃えあるやろ」

「数日だけの我慢や」

そう言いながら棍棒を肩に担ぐ。


……やっぱダサい。

でも、今はしゃあない。


その後の一日も、荷物の確認や細かな旅支度を整えているうちに、あっという間に過ぎていった。




明け方の空気は、少しだけ冷たかった。

街門の前に立つと、朝の空気が肺に気持ちよく入ってくる。

石畳の先には、まっすぐ街道が伸びていた。

その先に、アクアポートがある。


「おはようございます」


先に来ていたレティシアが、小さく頭を下げる。


……いや。


その挨拶より先に、目がいった。


「……え?」

思わず声が漏れる。


背中には大きなリュック。

右手に革バッグ。

左手にももうひとつ、金具付きのケース。


どう見ても、旅一回分どころやない。


「それ……全部持ってくん?」


ハナも思わず目を丸くする。

「え、そんなに?」


レティシアは少しだけ眼鏡を押し上げた。


「これでも、かなり絞ったんです」

「マジックバッグに詰められるだけ詰めて、入りきらなかった分の中から、絶対に必要なものだけにしました」


「……これで?」


思わず聞き返す。


「はい」


即答や。


いや、絶対多い。


リュックの横からは巻物の筒みたいなものが覗いていて、革バッグの口からは薬草の束が少し見えている。

左手のケースは、持ち方からしてそこそこ重そうや。


(……先が思いやられるな)


俺は苦笑しながら手を伸ばした。


「いや、それはさすがに持ちますよ」

「せめてバッグ一個くらい」


その瞬間、レティシアの表情がぴたりと止まる。


「いえ」


声の温度が、すっと下がった。


「大事な研究道具ですので」

「他の方に触らせるわけにはいきません」


きっぱり。


ハナが小さく俺を見る。

“ほらね”みたいな顔や。


「いやでも、街道やで?」

「さすがに疲れるやろ」


「問題ありません」

「必要なものですので」


一歩も引かへん。


(……頑固やな)


でも、その目は本気やった。


研究資料。

標本。

器具。


たぶん、本人にとっては武器と同じくらい大事なんやろう。


俺は伸ばした手を引っ込める。


「……分かった」

「でも、しんどくなったらすぐ言うてくださいよ」


レティシアは少しだけ間を置いて、小さくうなずいた。


「……はい」


朝日が街道を照らす。

新しい旅の始まりには、ちょうどいい光や。


ただ、その光の中で、

やたら荷物の多い研究者の背中だけが、

どう考えても平穏な旅路を約束していなかった。


「ほな、行こか」


俺たちはアクアポートへ向けて歩き出した。

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