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全身麻痺の俺は回復のためにVRMMOの世界で最強を目指す  作者: 和泉大輝
第4章.廃墟の奥で目覚めるもの

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10.青い花の真実

目を開けると、石造りの天井が視界に入った。


……ああ、地下集落か。


昨夜は身体が限界で、

横になった瞬間に意識が落ちた。


でも、不思議と目覚めは悪くない。


身体の重さはまだ残ってる。

せやけど、昨日までの張りつめた感覚は少し薄れていた。


横を見ると、ハナもゆっくり身を起こしていた。

「……おはよう」

少し眠そうな声。


「おはよう」

俺も小さく返す。


部屋を出ると、ひんやりした地下の空気が頬を撫でた。


その向こうから、

子どもたちの笑い声が聞こえてくる。


思わず足を止める。


石造りの通路の先、

小さな広場のような場所で、

何人かの子どもが追いかけっこをしていた。


……昨日まで死地みたいな場所やったのに。


ここには、ちゃんと暮らしがある。


その光景を見て、

胸の奥にじんわり何かが広がった。


……守れたんやな。




その時、背後から低い声がした。


「礼を言ウ」


振り返ると、カイルが立っていた。


「昨日のガーゴイル」

「もし倒せていなければ、被害は地下まで及んでいタ」


短い言葉やのに、重い。


思わず小さく息を呑む。


やっぱり、あいつはこの集落ごと襲うつもりやったんや。


「……間に合ってよかった」

思わず本音が漏れる。


広場で笑っていた子どもたちへ、もう一度視線を向ける。


……この子らも含めて、

今ここで何人くらい生きてるんやろう。


そう思った瞬間、

自然と口から言葉がこぼれた。


「ここには、今どれくらい人がいるんや?」


ミーナが少し表情を曇らせる。

「正確には分からないけど……」


小さく視線を落とす。


「この地下の集落だけなら、数十人くらいかな」


カイルが低く続ける。

「山中や、他の地下にも生き残りはいる」


一拍。


「合わせれば、数十……多くても百を少し超える程度だろウ」


その言葉に、思わず息を呑む。


かつて大勢が暮らしていた街。


その灯りの残り火みたいに、

今はここに、わずかな命が息づいている。


広場で笑っていた子どもたちの声が、

少しだけ愛おしく聞こえた。


もし昨日のガーゴイルを止められてへんかったら。


この数少ない命まで、

また失われていたかもしれへん。


胸の奥が少し重くなる。


「じゃあ……あのガーゴイルは?」

自然と次の疑問が口をついた。


カイルの表情がわずかに険しくなる。

「あれは、封印されたダンジョンから出てきタ」


リゼルが静かに目を細める。


その言葉を聞いた瞬間、

昨日の戦いの光景が頭の中によみがえった。


空から落ちてきた影。

轟音。

翼の風切り音。


……そういえば。


思わず額に手を当てる。


「俺、待ち伏せ型とか」

「姿を消してる敵とか」

「めっちゃ考えてたけど……」


少し間。


「普通に空飛んでただけやん……」


部屋が一瞬、静まり返る。


次の瞬間。


ハナが吹き出した。

「たしかに!」


ミーナも思わず口元を押さえて笑う。


カイルまで、ほんのわずかに口元を緩めた。


「なんで気づかへんかったんや、俺……」


思わず肩の力が抜ける。


あんなに必死に推理してたのに、

答えは空の上にあった。


その可笑しさに、

昨日まで張りつめていた空気が少しだけほどけた。


ふと、ハナが窓の外を見た。


地下集落の入口近く、

石段の隙間から伸びるように、

青い花が数輪、静かに揺れていた。


「……あの花は?」

小さく問いかける。


ミーナが静かに答える。


「ガーゴイルが現れて、一週間くらいしてから咲き始めたの」


リゼルが窓の外を見つめる。

「おそらく、瘴気の影響です」


静かな声。


「魔物の滞留した魔力が、植物に異常な変化を起こしたのでしょう」


少しだけ表情を和らげる。


「ですが、原因は倒されました」


「今後は、少しずつ枯れていくはずです」


青い花が、窓の外で静かに揺れた。


この街の傷跡が、

少しずつ癒えていく。


そんな気がした。




翌朝。


地下集落を出ると、

ひんやりした朝の空気が頬を撫でた。


青い花畑は、昨日よりわずかに色が薄い。


ハナが足を止める。

「……ほんとに減ってる」


リゼルが静かにうなずく。


「瘴気の流れが止まり始めています」


「完全に消えるには時間がかかるでしょうが、

この街も少しずつ落ち着くはずです」


カイルとミーナに見送られながら、

俺たちは廃墟都市を後にした。


街へ戻った頃には、

空は夕方の色に染まっていた。


見慣れた石畳。

人のざわめき。


街の入口で、リゼルが足を止める。


「私はここで失礼します」

静かな声。


「伯爵へ、今回の件を報告しなければなりません」


自然と足が止まる。


ここまで一緒に戦ってきた時間が、

胸の奥でじんわり重みを持つ。


ハナが少し寂しそうに聞く。

「……また会えますか?」


リゼルはほんの少しだけ微笑んだ。

「ええ。縁があれば、きっと」


その言葉に、

胸の奥が少しだけ締めつけられる。


俺は小さく頭を下げた。

「助かった」

「ほんまに、あんたがおらんかったら勝てへんかった」


ハナもこくりとうなずく。

「うん……本当にありがとう」


リゼルの銀髪が夕暮れの光を受けて揺れる。


「こちらこそ」

「お二人がいなければ、あの街は守れませんでした」


短い言葉やのに、

妙に胸に残った。


そのままリゼルは背を向ける。


一瞬だけ、リゼルの足が止まった気がした。


振り返りはしない。


それでも、その沈黙だけで

言葉以上のものが残った。


長い銀髪が夕暮れに溶けるように揺れ、

人混みの中へゆっくり消えていった。


見えなくなってからも、

しばらくその場を動けなかった。





俺たちはそのままギルドへ向かった。


クエスト報告は驚くほどあっさり終わった。


討伐完了。

報酬支払い。


そして帰ろうとした時。


掲示板の一枚が目に入る。


【アクアポート行き護送依頼】

依頼人:薬学研究者

目的地:アクアポート

王都への移動準備のため、同行者募集



アクアポート。

薬学研究者。


その文字を見た瞬間、

なぜか胸の奥がざわついた。


次の街で、

また何かが待っている。


そんな予感がした。


「……アクアポート」


思わず声に出る。


ハナが横からのぞき込む。

「次の街……?」


胸の奥が、少しだけ高鳴った。


「……これ、受けてみるか」


次の街。

次の出会い。

次の物語。


新しい扉が、もう目の前に見えていた。



___



同じ頃。


街の中心にある屋敷、その最上階。

重厚な扉の向こうに、静かな部屋があった。


部屋の中央には、男が二人。


その奥。


昨日は大きな椅子に沈むように座っていた男が、

今は直立不動のまま頭を垂れている。


宝石だらけの指は、腹の前で固く組まれていた。


扉が静かに開いた。


銀髪の女が、音もなく入ってくる。


長い銀髪。

黒のメイド服。

姿だけ見れば、昼間までと何も変わらない。


けれど。


背筋の伸び方も、

視線の置き方も、

さっきまでの侍女とは違って見えた。


その瞬間。


片側に控えていた男が、恭しく頭を下げた。


三十代半ばほどの男だった。

黒髪を後ろへ撫でつけ、

濃い灰色の執事服を寸分の乱れもなく着こなしている。


細身だが、立ち方に隙がない。

ただの使用人ではないことは、見ただけで分かった。


「おかえりなさいませ、お嬢様」


低く整った声。


リゼルの眉が、わずかに動く。

「……だから、お嬢様と呼ぶなって、いつも言ってるでしょ」

小さくため息をつく。


男――エリオンは、微笑みすら崩さない。

「失礼いたしました」


リゼルはそのまま部屋の奥へ歩く。


伯爵の脇を通り過ぎる。

当然のように。

迷いなく。


部屋の最奥。

主人の席へ。

静かに腰を下ろした。


その瞬間。


部屋の空気が、完全に変わった。


伯爵はなおも頭を下げたまま、動かない。


リゼルは足を組み、静かに目を細める。

「留守の間に、何か変化は?」

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