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全身麻痺の俺は回復のためにVRMMOの世界で最強を目指す  作者: 和泉大輝
第4章.廃墟の奥で目覚めるもの

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9.花の下の集落

花を踏む、かすかな足音が近づいてくる。

青い花が、左右に静かに揺れた。


俺は荒い呼吸のまま、ゆっくり顔を上げる。

その先に、人影が見えた。


長い銀髪。

見慣れた立ち姿。


「……リゼル」

思わず声が漏れる。


花畑の向こうから、リゼルが歩いてきた。

服はところどころ裂け、肩口には土埃がついている。

せやけど、しっかり自分の足で歩いている。


……生きてた。


その瞬間、

膝から力が抜けそうになる。


さっきまで張り詰めていたものが、

一気にほどけていく。


……よかった。

ほんまに、よかった。


リゼルは倒れたガーゴイルの残骸を見て、

ゆっくりと目を見開いた。


「……まさか、本当に倒したのですか」

低い声。

でも、その奥に驚きが滲んでいた。


「……なんとか、な」

息を整えながら答える。


リゼルが小さく息を吐く。

「信じられません」


その言葉に、ハナが小さく笑った。

でも、その目には涙が浮かんでいる。


「リゼルさん……よかった」

ハナが駆け寄る。


リゼルがわずかに表情を緩める。

「ご心配をおかけしました」


そのやり取りを見た瞬間、

ようやく本当に終わった気がした。




「カイルさんたちは……!」

ハナがはっと顔を上げる。


「そうや……!」

俺も息を呑む。


戦いに集中しすぎて、頭から飛んでた。


「確認に向かいましょう」

リゼルが静かに言う。


青い花畑を抜けて、倒れていた場所へ急ぐ。


その先で。


カイルがゆっくりと身を起こしていた。


「……っ、生きてる」


ミーナも隣で小さく身じろぎする。


ハナが駆け寄った。

「よかった……!」


カイルがこちらを見る。

しばらく、倒れたガーゴイルの残骸と俺たちを見比べる。


それから、低く言った。

「……本当ニ、倒したのカ」


「なんとかな」

息を整えながら答える。


短い沈黙。


やがてカイルが小さくうなずいた。

「……礼を言ウ」


低い声。

でも、その一言に重みがあった。


隣でミーナがほっと息を吐く。

「助かったよ、本当に……」


その声は少し震えていた。


カイルがゆっくり視線を上げる。

青い花畑の奥、崩れた建物の一角へ向く。


「あの先に、身を隠せる場所があル」

低い声。


「話は、そこでしよウ」


リゼルが静かに周囲を見回す。

「賛成です」

「この場に留まるのは危険です」


誰も異論はなかった。


今はもう、全員が限界やった。




カイルに先導されて、青い花畑の奥へ進む。

風に揺れる花をかき分けた先。


崩れた石造りの建物が見えてきた。


壁の一部は崩れ、

屋根も半ば落ちている。


廃墟や。


でも、カイルは迷いなく、その中へ入っていく。


「……ここ?」

ハナが小さくつぶやく。


ミーナが振り返って、少しだけ笑った。

「まだ驚くのは早いよ」


建物の中央。

床が大きく崩れ、ぽっかりと穴が開いていた。

その下へ、石段が続いている。


「……下?」

思わず声が漏れる。


カイルが短くうなずく。

「来イ」


石段を下りていく。


ひんやりした空気。

湿った土の匂い。


でも、少し下ったところで、

その空気に別のものが混じり始めた。


温かな灯りの気配。

煮込み料理の香り。

誰かの話し声。


少しずつ、下から灯りが見えてくる。


次の瞬間。

視界が開けた。


地下には、小さな集落が広がっていた。


石造りの家々。

温かな灯り。

人の気配。


子どもの笑い声まで聞こえる。


「……うそやろ」

思わず足が止まる。


こんな場所に。


こんな生活の場が、隠れてたんか。


ハナも目を丸くしている。

「すごい……」


奥の家の前では、

誰かが鍋をかき混ぜている。


別の場所では、

小さな子どもがカイルの姿を見つけて駆け寄ってきた。


「おかえり!」


その声に、胸の奥が少し熱くなる。


……そういうことか。


戦ってる時は、

そんなこと考える余裕なんてなかった。


ただ目の前の敵を倒すことしか頭になかった。


せやけど、

俺たちの戦いは、この暮らしに繋がってたんや。


そう思った瞬間、

胸の奥がじんわり熱くなった。


リゼルも静かに周囲を見渡した。


カイルは何も言わず、先へ歩き出す。

その背中を見ながら、

これまでの警戒の意味が、ようやく少し見えた気がした。




案内された石造りの家の中は、思ったよりも温かかった。


簡素な机と椅子。

壁には小さな灯りが揺れている。


腰を下ろした瞬間、

全身に重たい疲れが広がった。


ようやく、生き延びた実感が押し寄せてくる。


誰もすぐには口を開かず、

ただ温かな灯りだけが静かに揺れていた。


その静けさの中で、

胸の奥に引っかかっていた疑問が浮かんだ。


「……聞いてもええか」

俺が口を開く。


カイルが静かにこちらを見る。


「この街、何やったんや」


ミーナが視線を落とし、

カイルが低い声で話し始めた。


「ここは、昔は自由都市だっタ」

「四大国家ができる前から存在していた古い都市ダ」


「山に囲まれ、攻めにくイ」

「地下には危険な古代ダンジョンがあッタ」


「そのせいで、住む者は少なかった」

「だが、皆強かっタ」


やがて、カイルの視線がまっすぐ俺へ向く。


「……無属性の者たちも、ここで暮らしていタ」


思わず息が止まる。


「……無属性も?」

俺の声が少し上ずる。


カイルが短くうなずく。

「ここでは、属性は関係なかっタ」


その瞬間、胸の奥で何かがひとつ繋がる。


……だからか。


俺が最初にこの街へ放り込まれた理由。


無属性でも暮らせた街。


それなら、俺がここから始まったことにも意味があるのかもしれへん。


ハナも小さく目を見開いていた。




話がひと段落したところで、

ミーナがやわらかく笑った。


「今日はもう、ここに泊まっていって」

「さすがに今から街へ戻るのは危ないよ」


カイルも短くうなずく。

「同感ダ」


リゼルが静かに周囲を見回す。

「私も賛成です」

「皆さん、十分に消耗しています」


たしかに、その通りや。


身体がもう限界やった。


「……ほな、お言葉に甘えるわ」


ハナもほっとしたように息を吐く。


その夜は、久しぶりに深く眠れた。


地上では、青い花が静かに揺れている。


無属性でも生きられた街。


その言葉が、

眠りに落ちる直前まで胸の奥で静かに残っていた。

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