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全身麻痺の俺は回復のためにVRMMOの世界で最強を目指す  作者: 和泉大輝
第4章.廃墟の奥で目覚めるもの

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5.廃墟の入口



森を抜けた時、陽はすでに高く昇っていた。

たぶん、昼を少し回ったくらいや。


白い光が、崩れた街を静かに照らしている。


「……着いた」

ハナの声に、俺も足を止めた。


目の前に広がるのは、灰色の廃墟都市。


倒れた塔。

ひび割れた石壁。

崩れた屋根。


静まり返った街並みが、午後の光の中に広がっている。


これで、ここに来るのは三度目や。


最初は、何が起きてるかも分からんまま放り込まれて、

周りを見る余裕なんてほとんどなかった。


二度目は、少しだけ落ち着いて、

この街がどう滅びたのかばかり考えていた。


……そして、今回は三度目。


「リゼルさん」

俺は石畳へ視線を落としたまま聞く。

「まず何を見ればええ?」


リゼルはすぐに答えた。


「第一に魔物の痕跡です」


指先で地面を示す。


「足跡」

「爪痕」

「壁や石畳の破損状況」


一拍。


「次に、生き物の痕跡」

「糞、羽毛、毛皮、死骸」


その言葉に、自然と周囲を見る目が変わる。


「最後に瘴気です」

「空気の重さ、匂い、植物の異常」


なるほど。

完全に調査やな。


「ダンジョン化の兆候も見ます」

リゼルが続ける。

「地下へ続く裂け目」

「異様に空気が重い場所」

「近づくだけで嫌な感覚がする場所」


「そういった異常があれば、すぐに共有してください」


「……嫌な感じ、か」

思わず小さくつぶやく。


胸の奥が少し引き締まる。


ただの廃墟やない。

ここは、何かが起きかけてる場所かもしれへん。


俺たちは慎重に、廃墟都市へ足を踏み入れた。




石畳はひび割れ、ところどころ草が割って生えていた。

崩れた建物の影が、午後の光を斜めに落としている。


数歩進んだところで、リゼルが足を止めた。

「……明らかに空気が重いですね」


その一言に、俺も意識して息を吸う。


確かに。

少しだけ、喉に引っかかるような感覚がある。


匂いも違う。


土埃とも腐敗とも違う、

なんとも言えん、淀んだ空気や。


ハナも鼻先を少し押さえる。

「なんか……嫌な匂いする」


視線を落とす。


石畳の隙間から伸びた草が、一部だけ黒ずんで枯れていた。

植物の異常。


さっきリゼルが言ってたやつや。


さらに壁際へ目を向ける。


三本線の深い傷跡。

爪痕や。


しかも、かなり新しい。


「こっちは大型の爪痕か」

俺がつぶやく。


リゼルが短くうなずく。


「そして、こちら」

少し先の路地を示す。


毛皮のようなものが風に揺れていた。


近づく。


獣の毛や。

そのすぐそばに、小さな骨が転がっている。


死骸の痕跡。


胸の奥が少しざわつく。


「……初めて来た時も、この街は異様に静かやった」

思わず口から漏れる。


「でも、あの時は、まだ狼もおったし、変異したゴブリンもいた」


一拍。


「でも、今は何もおらん」

俺はゆっくり周囲を見回す。


崩れた塔。

割れた窓。

静まり返った通り。



ハナも小さくうなずく。

「うん……気配がほとんどない」


風が吹き抜ける。


瓦礫の隙間を抜ける音だけが、やけに大きく聞こえた。


「……駆逐された?」

思わず口からこぼれる。


リゼルが静かに答える。

「可能性は高いです」


一拍。


「この濃さの瘴気では、通常の魔物は長く留まれません」

その言葉が、静かな街に重く落ちた。


より強い魔物に、駆逐されたか。


「つまり」

俺は通りの奥へ視線を向ける。

「ここには、普通の魔物が生き残れへん何かがおるってことやな」


リゼルが小さくうなずく。

「はい」


その返答が、やけに重く響いた。




俺は通りの奥へ視線を向けたまま、ハナへ聞く。

「さっきの強い気配、まだあるか?」


ハナがすぐに目を閉じるように意識を向ける。


数秒。


それから、小さくうなずいた。

「……ある」

「まだ廃墟の奥にいる」


その返答に、胸の奥で何かがつながる。

「ほな、たぶんそいつや」


リゼルがこちらを見る。

「心当たりがおありですか?」


俺は小さくうなずいた。

「初めてここに来た時、妙な襲撃があった」


一拍。


「男がひとり、死角からやられた」


リゼルの表情が少し引き締まる。


俺は続ける。

「相手は大型やったはずや」

「せやのに、最後まで気づいてへんかった」


「足音も」

「近づく気配も」

「立ち去る音も、何もなかった」


ハナも小さくうなずく。

「うん……ほんとに急だった」


俺は崩れた柱や壁の影へ視線を走らせる。

「この街、隠れる場所はいくらでもある」


倒れた塔。

瓦礫の山。

裂けた壁の陰。


「待ち伏せ型か、姿を隠せるタイプ」

「その可能性が高いと思っとる」


リゼルが短くうなずく。

「なるほど」


その声に納得が混じる。

「なら、死角はすべて警戒しましょう」

「物陰、屋根の崩落部、塔の陰」


一拍。


「見えない敵の可能性も考慮します」



「せやな」

俺は棍棒を握り直す。

「少なくとも、次に行くなら死角は全部潰して進む」


風が崩れた通りを抜ける。

静けさの中で、緊張だけが少しずつ濃くなっていった。




慎重に死角を潰しながら、俺たちはさらに奥へ進む。


崩れた建物の間を抜ける。

割れた石畳を踏み越える。


途中、リゼルが何度か足を止め、壁際や路地の陰を確認していく。


そのたびに、俺とハナも周囲へ視線を走らせた。


……何もおらん。


せやけど、静けさそのものが逆に気を張らせる。


しばらく進んだ、その時や。

ふっと視界が開けた。


「……増えてる」

ハナの小さな声に、俺も足を止める。


崩れた地面の先。


青い花が、前に見た時よりも明らかに広がっていた。


一面。

いや、それ以上や。


瓦礫の隙間まで、青い光が染み込むように咲いている。


風はない。

それでも花びらは、やわらかく揺れていた。


灰色の廃墟の中で、

そこだけ別の世界みたいやった。


リゼルの目がわずかに細まる。

「……想像以上の発生範囲ですね」


やっぱり、進行しとる。


俺が花畑へ一歩近づく。


その時や。


ハナが小さく眉を寄せた。

「……さっきから、ずっと強くなってる」


その声に、俺が振り返る。

「気配か?」


ハナがこめかみを押さえる。

「うん……近づくほど強くなる」


さらに一歩。

ハナの表情が少し歪む。

「……っ」


胸の奥がざわつく。

「どうした」


「頭……少し痛い」


一拍。


「でも、場所が分からない」

「気配が強すぎて、輪郭が掴めない」


その瞬間。

花畑のさらに奥。

崩れた石柱の陰に、人影が見えた。


「……誰かおる」


二人。


倒れている。


男と女。


寄り添うように、動かへん。

片方のそばには、見覚えのある槍が転がっていた。


「カイル……?」

思わず名前が口から漏れる。


ハナも目を見開く。

「ミーナさんも……!」



俺は反射的に一歩踏み出す。


カイルとミーナのもとへ駆け寄りたい。


せやけど、頭のどこかで、さっきまでの推測が引っかかっていた。


待ち伏せ型。

姿を隠せる敵。

見えない死角。


足を止めずに、視線だけを鋭く走らせる。


崩れた石柱の陰。

瓦礫の隙間。

割れた窓の奥。

路地の暗がり。


……何もおらん。


リゼルもすぐに動いていた。

石柱の反対側へ回り込み、死角をひとつずつ潰していく。

「こちら側、異常なし」


短い声。


ハナもこめかみを押さえながら周囲へ意識を向けている。

「……分からない」

「近いはずなのに」


胸の奥がざわつく。


でも。


少なくとも、見える範囲には何もいない。

それでも、胸のざわつきだけは消えへんかった。



その時や。



ハナの表情が一変した。

「――っ!」


声にならない息が漏れる。


次の瞬間。



空気そのものが、爆ぜた。

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